汝の骨
きょうじゅ
前編
おれが愛した陰間の本当の名は
その清文が流行りの病を得て卒したのはこの前の年の暮れ、悲しいことではあったが、人の命などというのはそんなものだと言ってしまえばそれはそれまでで、別に死因に不祥の段があるわけでもなし、おれもあいつのことをそろそろ過去のこととして心のうちに収めかけていたのだ。
しかし。
近頃おかしな噂を聞きつけた。この城下町に縄張りする任侠者「
おれは室町の主人のところを訪れ、それとなく
「骨煙管『清』は、たしかに清文の骨なのか」
「はい。間違いございません。わたくしめが、清の死んだあと太またの大骨を抜き取りまして、ひそかに人骨を求めていた煙管職人に売り渡したのでございます。……ひひ」
「無法なことをするものだな、室町屋。遊女や、たとえ夜鷹の身であろうと、死して残る自分の亡骸くらいは自分のもの、墓をもらって葬られる程度の功徳は施してもらえる、それが世の倣いであろうに」
「清文は証文の借財を返し終える前に死んでしまいましたからな。これも渡世の義理というもので」
「ふん」
おれがもし武士で、その上で清文といい仲だったというのならばこの男を抜刀一閃斬り捨てもしたかと思ったが、あいにくこれで守るべきものを持っている富商の身の上だ。そんなことはできなかった。殴ったりもしない。そうしたことは商人のするべきことではなかった。ただ、金だけは唸るほど動かすことができるこの身の上で、このあと清文のためにやってやれることと言えば。そう、もう一つしか残ってはいないだろう。
「たのもう」
おれは裏の競りが開かれるその日の前日に、菊坐組を訪れた。さすがに一人では行かない。店の丁稚を同伴した。
「これは山城屋さま。このようなむさくるしい渡世の場に、何事の御用でございますかな」
左の額から頬にかけて大きな刀傷の走っている、いかにもいかにもなやくざ者という雰囲気の男が出てきて、おれに応対した。こいつが菊坐組の頭で、そして今回の裏の競りの主催をする者であるらしい。
「明日の競りに、参加させてもらいたい」
「失礼では御座いますが、山城屋さまなどのような富貴なお方の、お顔を拝見するような場じゃあごぜえませんよ。出る品の大半は、まあ盗品の故買ですとか、そういった類のものばかりで」
「とぼけないで頂きたいな。骨煙管『清』のことだ」
「ああ、あれですか。あれを作った煙管師は博打が趣味で、うちの賭場に大きな借財がありましてな。その
「とぼけなくていい。事情は知っている」
「そうでやすか。まあ、競りに参加されるというのなら、それはご随意に。……ただ、場が場のことですから、お見えになるときはお独りで、忍んでおいでなすってくだせえ。うちの者たちがその場はよく見張っておりますから、なに、危険などはございません」
「そうさせてもらおう」
そういうことになった。
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