第24話 「猫の縄張り意識と黒塚先輩の領域」

昼休みの校庭。ベンチに座った黒塚先輩が、小さなノートをぱらぱらとめくりながら、ふと思いついたように座白君に話しかけた。




「ねえ、座白君」


「……なんですか」


「猫って、縄張り意識がすごく強いの、知ってる?」




座白は少し考え込むような仕草をしながら答える。


「……まあ、聞いたことはありますけど、詳しくは知らないですね」


「ふふ、意外と面白いのよ。猫は自分のテリトリーを匂いとかでマーキングして、他の猫が入ると本気で追い出すの」




黒塚はまるで自分のことを話しているかのように、少し得意げに微笑んだ。


「……それで、どうしてその話を?」


「だって、なんだか人間っぽいと思わない?」




その言葉に、座白は少しだけ首をかしげた。


「人間っぽい、ですか?」


「そう。例えば、自分の机の上とか、自分だけの時間とか。人間も、自分の領域に他人が入るのを嫌がることがあるでしょ?」




座白はしばらく考えた後、静かに頷く。


「……確かに。それなら分かる気がします」


「でしょ?」




黒塚は自分のノートを軽く閉じ、座白をじっと見つめる。


「じゃあ、座白君の『縄張り』ってどこ?」


「……僕ですか」


「そう。ここだけは誰にも入られたくないっていう、座白君のテリトリー」




その問いに、座白は少し考え込んだ。そして、静かに答える。


「……あまり考えたことはないですけど。強いて言うなら、自分の時間とかですかね」


「ふむ、座白君らしい答えね」




黒塚は小さく頷き、満足そうに微笑む。


「ちなみに、私はここがテリトリーよ」


「……ここって、校庭のベンチですか?」


「そう。特に、座白君と二人で話すこの場所」




その言葉に、座白は少し驚いた表情を見せたが、すぐに淡々と答える。


「……それを聞くと、ここに他の人を連れて来づらくなりますね」


「ふふ、それが狙いよ」




黒塚のいたずらっぽい笑みに、座白は小さくため息をついた。それでも、どこか微笑ましさを感じる空気が二人の間に流れていた。

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