第16話 「人間観察と黒塚先輩の趣味」
昼休みの屋上。秋の涼しい風が吹き抜ける中、黒塚先輩は手すりにもたれながら、校庭をじっと見下ろしていた。視線の先には、部活の練習をする生徒たちがいる。
「座白君」
「……なんですか」
「人間観察って、したことある?」
座白は一瞬だけ考えた後、淡々と答える。
「……意識してやったことはないですね」
「ふうん。じゃあ、今から一緒にやってみない?」
黒塚がそう言うと、座白は少しだけ眉をひそめる。
「どうしてそんなことを」
「単純に楽しいからよ。それに、色んな人を見ていると、自分にはない考え方や行動が分かって面白いの」
そう言いながら、黒塚は校庭を指さした。
「例えば、あのサッカー部の子。あの走り方を見る限り、きっと負けず嫌いね」
「……走り方だけで分かるんですか」
「ええ。少しでも前に出ようとして、いつもより力が入りすぎてる感じがするでしょ」
座白は視線を移し、サッカー部の一人を見つめる。確かに、少し不自然なフォームで必死にボールを追いかけているようだ。
「……まあ、言われてみれば、そうかもしれませんね」
「ふふ、それから……あの階段を上ってる二人組。どちらかというと、背の高い方がリーダーっぽいわね」
「根拠は?」
「歩き方。リーダーシップを取る人って、相手より半歩先を歩く傾向があるのよ」
黒塚の観察力に、座白は少し驚きながらも冷静に問いかける。
「……先輩は、そうやっていつも人を見てるんですか」
「もちろんよ。特に、面白い人がいるとつい目が行くわね」
黒塚は軽く笑いながら、座白の顔をちらりと見る。
「例えば、座白君もその一人」
「……どういう意味ですか」
「無表情を装ってるけど、話す内容は意外と感情が見えるのよ。そこが興味深いわ」
その言葉に、座白は少しだけため息をつきながら言った。
「……それ、単に先輩が深読みしすぎてるだけじゃないですか」
「そうかしら? でも、人間観察って、そういう小さな違いを探すのが楽しいのよ」
黒塚は微笑みながら再び校庭に目を向けた。座白はしばらく黙っていたが、やがて静かに口を開く。
「……先輩が楽しんでいるなら、それでいいと思いますけど」
「ふふ、優しいわね。でも、座白君も少しはやってみると面白いわよ。気が向いたらね」
その言葉を残し、黒塚は手すりから離れて歩き出した。座白はその後ろ姿を見つめながら、軽く肩をすくめた。
「……人間観察って、結構疲れそうですけどね」
彼の声は、どこか穏やかで温かかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます