黒塚先輩は後輩男子をからかいたい

第1話 「混ざる色と黒塚先輩の雑学」

放課後の教室は静寂に包まれていた。夕陽が窓から射し込み、机と椅子に淡い影を落としている。

座白はノートにペンを走らせながら、宿題を片付けていた。片手で頬杖をつき、完全に集中しているわけでもないその姿は、どこか気だるげだ。

そんな彼の背後から、黒塚（くろつか）が音もなく近づく。黒のタイツに包まれた脚と、光を吸い込むような黒い革靴が目を引いた。

「ねえ、座白（ざしろ）くん」

「……なんですか、黒塚（くろつか）先輩」

ペンを動かしながら、面倒そうに返事をする座白（ざしろ）。それにも関わらず、黒塚（くろつか）は無表情のまま彼の隣に腰を下ろし、淡々と尋ねた。

「黒と白が混ざったら、何色になると思う？」

質問の意図がわからず、座白は一瞬だけ考えた。その後、肩をすくめて適当に答える。

「……灰色じゃないですか」

黒塚（くろつか）は小さく頷いた。そして、わずかに目を細めると、もう一歩踏み込んだ質問を投げかけた。

「そうだね。でも、私のスカートの下にあるパンツが白で、タイツが黒だったらどうなると思う？」

ペンを止めた座白（ざしろ）は、黒塚（くろつか）の顔をじっと見つめる。沈黙が流れた後、彼は淡々と口を開いた。

「……いや、どうなるとかじゃなくて、何を聞いてるんですか」

黒塚（くろつか）の唇がわずかに動き、不意に柔らかな笑みが浮かんだ。

「答えは、灰色にはならない。だって、見えることがないから」

その言葉に、座白（ざしろ）は深い溜め息をつく。

「黒塚（くろつか）先輩はそれ言うためだけにここに来たんですか」

黒塚（くろつか）は答えずに、机の上にあるノートを覗き込む。彼の書きかけの数式を見つめながら、またぽつりと呟いた。

「座白（ざしろ）くん、π（パイ）の話、知りたい？」

「いえ、知りたくないです。帰ってください」