一兆回異世界転生をやり直した勇者、最強の力を持つ『魔神』となり無双する  ~~何があっても絶対に幼馴染を救うまで転生し続ける勇者と何があっても絶対に周囲のために自分を犠牲にしてしまう幼馴染聖女~~

静内(しずない)@~~異世界帰りのダンジ

第1話 何度も救われて──そして生きられない聖女


 村の北にある、森林地帯。偏狭な位置にあり、危険な動物が襲ってくるため冒険者抜きで行くことを禁じられているエリア。


 うっそうと茂る木々のおかげで、昼間だというのに地面は薄暗い。


 風に流れてくる血なまぐさいにおいが嫌でも伝わってくる。こりゃ、何人か死んだな。


 それだけじゃない、あちこちから悲鳴が聞こえてきた。振り返ると、見たこともない化け物が背後に。一緒にいた村の冒険者は恐怖のあまり腰を抜かしてしあった。恐怖で顔を引きつらせながら、目の前にいる化け物を指さす。


「な、何でキングオークがこんなところに? ひ、ひぃぃぃぃ」


「と、とにかく応戦するしかねぇ」


 そう、筋骨隆々で醜い外見。いつもはここには存在しないはずのキングオークを中心とした魔物たちが奇襲に近い形で襲撃してきたのだ。

 偏狭な地だったせいで魔物との戦いに慣れていなく、強い冒険者もいないこの村にとって、絶望的な相手。

 男というだけで、俺も戦い参加させられることになった。ちなみに俺は最弱のFランク。

 前の世界でも、今の世界でも、パッとしない存在なのは相変わらずだ。


 もっとも、真っ先に襲撃された上にそもそもまともに戦うための魔法を使えないのでどうすることもできなかったのだが。


 それでも、気づいたときには包囲され立ち向かう以外なかった。


 剣を構え──戦う力が弱い中戦おうとする。


 そして立ち向かおうとした瞬間、キングオークはこっちに向かってきた。あまりの速さで相手の姿が見えない、それでも反撃しようとした剣を振ろうとした瞬間──喉元に何かが触れ、胸元に鉄の弾が直撃したような衝撃が走る。


 そこから噴き出る血を見て、目にも見えない速さで喉元をかき切られたのだと理解した。そのまま吹っ飛ばされ、後ろにある木に体が激突。喉元から出る出血で、息が出来なくなり倒れこんだまま咳き込む。


 口の中が血で広がり、錆びた血の臭い、塩っぽさと生暖かみがある血の味が包む。

 肺の中に自分の血で広がり、溺れるような苦しさで地面をのたうち回る。


 血が見たことがないくらい、血が掻き切られた喉元からあふれ出て、苦しみもがいて傷口を抑えるがどうすることができない。


 苦しい……苦しい……助けて。


 やがてもがくことすらできなくなり、大量出血により寒さと怖気が広がる。どれだけ呼吸をしても息苦しさが止まらず、心臓が引き裂かれように痛い。

 地面に視線が向くと、自分の血で地面が真っ黒に染まっていく。

 死ぬという恐怖で頭がパンクし、何も考えられなくなる。

 目の前がだんだん真っ白になっていき──自分の死を悟ったその時。



「うそ……遊希君、今治すね」


 聞きなれた声が聞こえる。明るくて、俺のことを想ってくれているのがわかるような、優しい声。そして、そっと傷口に触れてきた。

 優しく、暖かい感触。頭が働かなくても、そこにいるのが誰なのかはっきりとわかる。自然と心が落ち着いて、身体の芯に染みついていた恐怖の感情が溶けていく。


 黒髪で、セミロングのポニーテール。身長は165cmくらい。整った鼻筋、真っ白で柔らかそうなほっぺ。


 いつも明るくて、笑顔を絶やさなかった。いつもは、とても笑顔が似合う存在だが、今回は状況が状況だけにいつもの朗らかな笑顔と打って変わって、とても心配そうな表情。まあ、もうじき死のうとしているのだから当然か。


 愛奈が傷口に手を触れた後、その部分を優しく撫でる。

 傷口が癒えていく。噴き出していた血は消滅していき、明らかに足りなかった血がもとに戻ったのか、身体の感覚も戻っていった。





 最初の召喚ではこの後、奇襲してきた魔物たちに敗北、村を焼かれ、殺された。

 当時、まともに魔法も使えなかった俺になすすべはなく。


 村の人たちを救ったのは──。愛奈だった。



 ヒーラーとしての聖女愛奈の、最終奥義。自分の生命力を他人の生命力に置き換えること。

 まだ、この世界に来てそこまでランクが高くなかった愛奈。使った代償は重く、周囲の命を助けることと引き換えに、愛奈の肉体は消滅してしまった。


 その後、俺も別の戦いで無残に殺される。一度助けられても無力な俺では限界もあった。愛奈を失ったことによるショックも大きかったし。

 そして、死んだ後に俺をこの世界に導いた女神が再び現れた。


 子供のような小柄な体系。長い髪はピンク色のツインテールでまとめられている。

 不敵な笑みと、ミステリアスな雰囲気。子供のような外見とは裏腹に、女神とは思えない独特の空気を漂わせていた。


 俺の前で、豪華そうな椅子に足を組んでニヤリと笑みを浮かべていた。



「無理じゃ。お主は──異世界転生史上最弱。伸びしろも皆無」


 見下したような、あきらめを諭すような目つきと言葉。それでも引くわけにはいかない。


「どれだけ痛い思いをしてもいい。どれだけ苦しんでもいい、生まれからって、何度死んでも強くなって──愛奈を守りたい」


「今、何度死んでもといったな」


「ああ」


 不穏な笑みをニヤリと浮かべるユダ。簡単な道ではないというのはわかる。けど、どれだけ苦しんだっていい。


 引きこもりで──何もなかった俺に、唯一光をくれた人。

 そんな俺とは、正反対ともいえる人。


 朗らかな笑顔。誰にでも笑顔を振りまいていた。コミュ障な俺にも。


 両親は離婚して、母親のみ。そして、毎日のように虐待を受けていた。暴力の後、与えられた菓子パンを加えながら外の風景を一人虚しく見ていた時。


 座り込んでいた俺に手を差し伸べてくれて。


「一緒に、学校行こ。何かあったら、私が隣りにいてあげるから」


 俺は、勇気を出してその手を掴んだ。手を握ると愛奈は俺を引っ張って立たせてくれた。


「だからさ、いこ」


 引っ張ってくれたあの時のことは、今でも覚えてる。俺は──あの笑顔に惹かれて、一歩を踏み出す勇気をもらった。


 最初はろくに学校も行かず、愛奈に連れられて学校に行った後も、一人ぼっちで校庭の外ばかり見ていた俺とは正反対の存在。


 まるで太陽みたいに明るくて、彼女の周りには絶えず人が寄っていた。


 しかし、16歳の時、俺はトラックにひかれそうになった子供を助けようとかばって、死んでしまった。

 愛奈は──なんと俺をかばおうとした。結果的に子供は助かって、俺と愛奈は死んじゃったけど、愛奈が俺まで助けてくれたという事は、本当にうれしかった。


 次に異世界に転生して、愛奈は再び周囲をかばって死んでしまった。


 そんな愛奈に対してユダは、不敵な笑みを浮かべて言った。


「本当のことを言う。本来、あの転生で死ぬのは聖女適性があった愛奈だけじゃった。おまえは、まさか突っ込んでいくとは思わなかった。一応見てみたが最弱のFランク」

「じゃあ、何で愛奈は──」


 愛奈が死んでしまった事実に、ユダの言葉を遮って聞く。


「あ奴は──誰かは知らぬが、本来転生者には与えられぬはずの闇の力が宿っておる。それが光の力と反発して呪いになってしまって居る。光と闇、二律背反な力を同時に持ってしまった愛奈殿。聖女にもなれず、必ず若くして死ぬ呪いにかかっておる。確実に、どのような世界に転生したとしてもな」



 ユダから発せられた、残酷な言葉。愛奈が生きられない運命にあるという言葉に一瞬頭が真白になる。正気を失って、ユダに詰め寄る。


「それを解く方法はないのか。愛奈が生きる方法はないのか? そのためなら、俺がどんなに苦しい思いをしてもいい。俺を救ってくれた人が、周囲のために自分を犠牲にするなんて嫌だ」


 それが、俺の精一杯の感情。あれだけ俺を助けてくれて、俺は何もできなくて……あんな最期を迎えるなんて。

 俺が苦しむのはいい。けど、あいつに不幸が起こる最期なんて絶対に嫌だ。そのためなら、俺がどれだけ苦しくなったって──死ぬような苦痛を受けても。


「その言葉に、嘘偽りはないな」


 即答で、コクリとうなづいた。異論はない。


「ああ。何度死んだっていい。愛奈を守れるなら、どんな苦しいことだって耐えるつもりだ」


「そうか、なら試してみよう。これならわらわでも出来る、そちへの唯一の術式じゃ。本来、何度も未来を変えるなど禁断の行為としてあってはならぬのだが──お主ならよかろう。そちの才覚でも、それができる可能性があるがあるとするならば、これじゃ」


 ユダは微笑を浮かべて俺の前に右手をかざす。そして右手が広く光り始めると、呼応するように俺の肉体も真っ白に光始めた。


「わしの術式をかけてやった。S級魔術。輪廻転生。貴様に植え付けた『この世界に存在刷る魔王を抹消する』という使命を全うするまで、何度でもこの世界に生を受けるというな。どれだけ無残な死を遂げても、強さも継続して、人生をどこかでやり直させてやる。魔王を倒すまでな」


 その言葉に、一筋の希望が湧いた。自然と力が湧いてくる。救えるという可能性に。


「ありがとう」


「じゃが本当に出来るのか? お主の才覚でそれを達するには、人生を何万回繰り返しても足らぬ。途方もない時間が必要じゃ」


「力が足りないのはいつものことだ。それを補う時間をくれただけ。それだけで大助かりだよ」


 人より劣ってるなんて、慣れてる。いつものことだし、それがこの世界でもそうなるだけ。それを補うだけの時間はある。あとは、俺が答えるだけ。

 いつもそうだった。でも、そんな俺にも手を差し伸べてくれた人がいた。


 光をくれた人がいた。


 何度死んだって、苦しい思いをしたっていい。俺は──大切な人を守って見せる。

 それから、俺の途方もない永遠ともいえる物語が始まった。





☆   ☆   ☆


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