──救済のダークフルード── 無限転生を得た俺、Sランクの力を手に入れ絶対に死ぬ聖女の死亡フラグを全部へし折ります 追放されても最強の力で運命を超える

静内(しずない)@救済のダークフルード

第1話 何度も救われて──そして生きられない聖女

 見回すと、のどかな村の姿。


 最強の力を手に入れた俺。生まれたばかりの姿。周囲を見て気づいた。

 何の因縁か、俺が最初に転移した村「サルガッソ」。ここか……。


 姑息な村め──。


 のどかで人は悪くないのだが、閉鎖的なところがある。

 初めて転生した時、スキル「聖女」だった愛奈は最初差別を受けていた。「こんなスキルの子が偏狭な村から出るのはどうかしている」と──。あの時は、愛奈が圧倒的な癒しの力を見せ周囲を納得させていたが。

 だからあまりいい思い出がない。それでも、やってかなきゃいけない。このSランクの、何物にも負けない力で。


 そして、俺の隣の家で愛奈が生まれ育ち、16歳になって記憶を取り戻す。絶対に、2人で生き残る。そのために強くなってきたのだから。



 俺の戦いが、再び始まる。本当に今度こそ、愛奈は死なせない。








 最初の転生。


 村の北にある、鬱蒼と茂る森林地帯。人気がなく、危険な動物が生息しているため冒険者抜きで行くことを禁じられているエリア。


「この匂い……」


 俺、遊希有朋が呟く。


 風に流れてくる血生臭さで思わず吐き気を催す。確実に戦いになってるのが察せる。何人か死んだな。


 それだけじゃない、あちこちから悲鳴が聞こえてきた。振り返ると、醜い化け物が背後に迫っている。同行する村の冒険者は恐怖のあまり腰を抜かし、恐怖で顔を引きつらせながら、目の前にいる化け物を指さす。


「何でキングオークがこんなところに? ひ、ひぃぃぃぃ」


「と、とにかく応戦するしかねぇ」


 筋骨隆々で醜い外見。いつもはここには存在しないはずのキングオークを中心とした魔物たちが奇襲に近い形で襲撃してきたのだ。

 偏狭な地のせいで魔物との戦いに不慣れで、強い冒険者もいないこの村にとって、魔物の襲撃は絶望的な状況。ちなみに俺は最弱のFランク。村のため、強制的に参加させられた。

 前の世界でも、今の世界でも、パッとしない存在なのは相変わらず。


 剣を構え──弱い中戦おうとする。負けたら村が焼かれる以上、行くしかなかった。


 そして立ち向かおうとした瞬間、キングオークはこっちに向かってきた。あまりの速さで相手の姿が見えない、それでも反撃しようとした剣を振ろうとした瞬間──喉元に何かが触れ、胸元に鉄の弾が直撃したような衝撃が走る。


 そこから噴き出る血を見て、目にも見えない速さで喉元をかき切られたのだと理解した。そのまま吹っ飛ばされ、後ろにある木に体が激突。喉元から出る出血で、息が出来なくなり倒れこんだまま咳き込む。


 口の中が血で広がり、錆びた血の臭い、塩っぽさと生暖かみがある血の味が包む。

 肺の中に自分の血が広がり、溺れるような苦しさで地面をのたうち回る。


 血が掻き切られた喉元から見たことがないくらいあふれ出て、苦しみもがいて傷口を抑えるがどうすることができない。


 苦しい……苦しい……助けて。


 やがてもがくことすらできなくなり、大量出血により寒さと怖気が広がる。どれだけ呼吸をしても息苦しさが止まらず、心臓が引き裂かれたように痛い。

 自分の血で地面が真っ黒に染まっていく。

 死ぬという恐怖で頭がパンクし、何も考えられなくなる。

 目の前がだんだん真っ白になっていき──自分の死を悟ったその時。



「あ……遊希君、今治すね」


 聞きなれた声が聞こえる。愛奈だった。明るくて、俺のことを想ってくれているのがわかるような、優しい声。そして、そっと傷口に触れてきた。

 暖かい感触。頭が働かなくても、そこにいるのが誰なのかはっきりとわかる。自然と心が落ち着いて、身体の芯まで染みついていた恐怖の感情が溶けていく。優しい暖かさに包まれる。


 黒髪で、セミロングのポニーテール。身長は165cmくらい。整った鼻筋、真っ白で柔らかそうなほっぺ。


 いつも明るくて、笑顔を絶やさなかった。が、今回は状況が状況だけにいつもと打って変わって、とても心配そうな表情。もうじき死のうとしているのだから当然か。


 愛奈が傷口に手を触れた後、その部分を優しく撫でる。

 傷口が癒えていく。噴き出していた血は消滅していき、身体の感覚も戻っていった。


 この時優しくしてくれた時の暖かさ、温もりは──どれだけ途方もない時間を経ても、忘れることはない。こんな優しい愛奈だからこそ、俺はどれだけつらい思いをしても、救いたいという願いを持ちづつけている。



 最初の召喚ではこの後、奇襲してきた魔物たちに敗北、村を焼かれ、殺された。

 当時、まともに魔法も使えなかった俺になすすべはなく。


 村の人たちを救ったのは──。愛奈だった。



 ヒーラーとしての聖女愛奈の、最終奥義。自分の生命力を他人の生命力に置き換えること。

 まだ、この世界に来てそこまでランクが高くなかった愛奈。使った代償は重く、周囲の命を助けることと引き換えに、愛奈の肉体は消滅してしまった。


 その後、俺も別の戦いで無残に殺される。一度助けられても無力な俺では限界もあった。愛奈を失ったことによるショックも大きかったし。

 そして死後、真っ暗な空間が表れた。死後の世界なのだろうか。そして、死んだ後に俺をこの世界に導いた女神が再び現れる。


 子供のような小柄な体系。長い髪はピンク色のツインテールでまとめられている。

 不敵な笑みと、ミステリアスな雰囲気。子供のような外見とは裏腹に、女神とは思えない独特の空気を漂わせていた。女神のユダだ。


 俺の前で、豪華そうな椅子に足を組んでニヤリと笑みを浮かべていた。そんな彼女に頭を下げて頼み込んだ。


「俺では、愛奈は救えないのか?」


「無理じゃ。お主は──異世界転生史上最弱。伸びしろも皆無」


 見下したような、あきらめを諭すような目つきと言葉。それでも引くわけにはいかない。


「どれだけ痛い思いをしてもいい。どれだけ苦しんでもいい、生まれからって、何度死んでも強くなって──愛奈を守りたい」


「今、何度死んでもといったな」


「ああ」


 不穏な笑みをニヤリと浮かべるユダ。簡単な道ではないというのはわかる。けど、どれだけ苦しんだっていい。苦しいのは、昔からだったから。


 


 俺が子供のころ、両親は離婚して、母親のみ。そして、毎日のように虐待を受けていた。暴力の後、友達もいなくいつも一人で外の風景を虚しく見ていた時。引きこもりで──何もなかった俺に、唯一光をくれた人。

 俺とは、正反対ともいえる人。


 愛奈は優しい笑顔を、誰にでも振りまいていた。コミュ障な俺にも。


 座り込んでいた俺に手を差し伸べてくれて。


「一緒に、学校行こ。何かあったら、私が隣りにいてあげるから」


 俺は、勇気を出してその手を掴んだ。手を握ると愛奈は俺を引っ張って立たせてくれた。


「だから、行こ」


 引っ張ってくれたあの時のこと、今でも覚えてる。俺は──あの笑顔に惹かれて、一歩を踏み出す勇気をもらった。


 最初はろくに学校も行かず、愛奈に連れられて学校に行った後も、一人ぼっちで校庭の外ばかり見ていた俺とは正反対の存在。


 まるで太陽みたいに明るくて、彼女の周りには絶えず人が寄っていた。


 しかし16歳の時、俺はトラックに轢かれそうになった子供を助けようとかばって、死んでしまった。

 その時、愛奈はなんと俺をかばおうとした。結果的に子供は助かって、俺と愛奈は死んじゃったけど、愛奈が俺まで助けてくれたという事は、本当にうれしかった。


 次に異世界に転生して、愛奈は再び周囲をかばって死んでしまった。


 そんな愛奈のことをユダは、不敵な笑みを浮かべて言った。


「本当のことを言う。本来、あの転生で死ぬのは聖女適性があった愛奈だけじゃった。おまえは、まさか突っ込んでいくとは思わなかった。一応見てみたが最弱のFランク」


「じゃあ、何で愛奈は──」


 愛奈が死んでしまった事実に、ユダの言葉を遮って聞く。


「あ奴は──何故かは知らぬが、本来転生者には与えられぬはずの闇の力が宿っておる。それが光の力と反発して呪いになってしまっている。光と闇、二律背反な力を同時に持ってしまった愛奈殿。聖女にもなれず、必ず若くして死ぬ呪いにかかっておる。確実に、どのような世界に転生したとしてもな」


 ユダから発せられた、残酷な言葉。愛奈が生きられない運命にあるという言葉に一瞬頭が真白になる。正気を失って、ユダに詰め寄る。


「それを解く方法はないのか。愛奈が生きる方法はないのか? そのためなら、俺がどんなに苦しい思いをしてもいい。俺を救ってくれた人が、周囲のために自分を犠牲にするなんて嫌だ」


 それが、俺の精一杯の感情。あれだけ俺を助けてくれて、俺は何もできなくて……あんな最期を迎えるなんて。悲しくて、胸が張り裂けそうになる。

 俺が苦しむのはいい。けど、あいつに不幸が起こる最期なんて絶対に嫌だ。そのためなら、俺がどれだけ苦しくなったって──死ぬような苦痛を受けても。


「その言葉、嘘偽りはないな」


 即答でコクリとうなづいた。異論はない。やる──そんな感情が湧いてくる。


「たとえ死んだっていい。愛奈を守れるなら、どれだけ苦しいことだって耐えるつもりだ」


「そうか、なら試してみよう。これならわらわでも出来る、そちへの唯一の術式じゃ。本来、何度も未来を変えるなど禁断の行為としてあってはならぬのだが──お主ならよかろう。そちの才覚でも、それができる可能性があるがあるとするならば、これじゃ」


 ユダは微笑を浮かべて俺の前に右手をかざす。そして右手が広く光り始めると、呼応するように俺の肉体も真っ白に光始めた。


「わしの術式をかけてやった。S級魔術。輪廻転生。貴様に植え付けた『この世界に存在する魔王を抹消する』という使命を全うするまで、何度でもこの世界に生を受けるというな。どれだけ無残な死を遂げても、強さも継続して、人生をどこかでやり直させてやる。魔王を倒すまでな」

 一筋の希望が見えた。自然と力が湧いてくる。救えるという可能性に。


「ありがとう」


「じゃが本当に出来るのか? お主の才覚でそれを達するには、人生を何万回繰り返しても足らぬ。途方もない時間が必要じゃ」


「力が足りないのはいつものことだ。それを補う時間をくれただけ。それだけで大助かりだよ」


 人より劣ってるなんて、慣れてる。日常でいつものことだし、それがこの世界でもそうなるだけ。 いつもそうだった。だけどそれを補うだけの時間はある。

でも、そんな俺にも手を差し伸べてくれた人がいた。


 光をくれた人がいた。あとは、俺が答えるだけ。


 何度死んだって、苦しい思いをしたっていい。俺は──大切な人を守ってみせる。

 最強になるまでの、俺の途方もない永遠ともいえる物語が始まった。


 






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