将棋が全てを決める異世界で、前世おっさん棋士は成り上がる

ネコを愛する中学生(略してネコ愛)

第1話 転生

「またミスか、間嶋君!」


 いつもの上司の怒声が頭に響く。

 書類の束を叩きつけられ、俺、間嶋歩まじまあゆむは、情けなく頭を下げるしかなかった……。


「またアイツかよw」

「ホント使えねぇなw」

 

 同僚たちの囁きが、背中に刺さる。


 奨励会を退会して以来、俺の人生は下り坂一直線だった。

 夢は粉々に砕け散り、次につかんだものは派遣社員という不安定な肩書き。


 もう四十歳のおっさんが、派遣社員。

 プロ棋士を目指していた結果、俺がたどり着いた現実はこれだ。

 家族も俺を見限り、つい先日、離婚を迫られた。

 

 それなのに、俺はまだ、将棋を諦めきれなかった。

 

「どうせ、俺は役立たずの『歩』なのにな……。笑えるよ……」


 パソコン画面を眺めながら、誰にも聞こえない声でつぶやく……。

 もう、俺には何も残っていなかった。

 全てを諦めていて、将棋すら、諦めようとしていた……。


 夜の帰り道。駅前の横断歩道で、暴走車がもうスピードで迫るのが見えた。


「危ないッ!」


 目の前にいた学生を反射的に突き飛ばした瞬間、俺の体は宙を舞った。


 結局、俺の人生は最期の最期まであっけなかったんだ……。


 冷たいアスファルトに倒れた俺の目には、もう、光すら見えない……。


「これで、人生も詰み、か……。どうせなら、どうせ生まれ変わることができるなら、今度は、大好きな将棋が指せる世界に行きたい、な……」



 そこから、俺の記憶はなくなった。

 きっと死んだんだろう……。


 じゃあ、なぜ俺は今、生きているのかって?

 それは……。


 俺が『転生』したからだ――。

  

「――チェックメイト……」


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将棋が全てを決める異世界で、前世おっさん棋士は成り上がる ネコを愛する中学生(略してネコ愛) @nekonitukaesigeboku

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