第19話:フラグ外の再会
「……っ!」
「指揮官!」
「だ、大丈夫。足を取られただけだ」
「もう、だっさいわね。意地を張ってないでさっさとブルースにおぶってもらえばいいのに」
俺より年齢が上の可能性があるとはいえ、年端もいかない少女におぶられるとなると絵面がやばい。
「……ラッセルの範囲を広げましょうかぁ」
「すまない、頼む」
「もう一息でシェルターです。頑張ってください」
シタイ山脈。戦争最中の地殻変動によって地上を南北に分かつようにそびえ立つ、世界最大の活火山郡。北側から吹く冷気をせき止め、常に視界が途切れるほどの猛吹雪が探索者を襲う。
「たった800メートル登った程度でこれか……」
今だ十分の一にも満たない踏破距離に軽く絶望しながら、今回の目的を心のなかで何度も反復し、折れかけた心を奮い立たせる。
『今回、シタイ山脈でバーナテヴィルと思われし特異機械人形が確認された。わしが仕事面では信頼を置けるやつの報告じゃ、まず間違いない』
『アスナがいる……と?』
『わからぬ。まずなぜアスナがバーナテヴィルを知ったのか、なぜヤツを追えと命じたのかがわからないんじゃ。それに、理由はどうであれバーナテヴィルが楽園を脅かそうとしていること、そしてそれをしでかすほどの力を持っていることは間違いない。対策しすぎて楽々でした、良かったねで終われるのが一番いいんじゃ』
「よし」
ブルースによって踏み固められた雪を、足型を作るように一歩一歩推し固めてゆく。
「指揮官、機械人形です」
「雪山での戦闘はなるべく避けたい。潜伏するぞ」
雪を軽く掘り、簡易的な窪みを作ると、その上から光学偽装シートをかぶせてじっと待つ。
一瞬こちらを見たかと思うと、しばらく怪しむようにズームインアウトを繰り返し、巡回に戻っていった。
「行ったか……」
「えぇ……―――!? 指揮官、汚染獣です!」
基本的に、汚染獣に迷彩は効かない。
彼彼女らは人体に含まれるエリクスの成分を本能的に欲しており、接種した残穢を嗅ぎ取り、生き残るために血肉を食らう。
「クソっ、射撃を許可する! しかし最低限に控えて、極力上には撃つな。俺達が常に上手に位置するように注意しろ!」
「「「了解!」」」
戦闘開始とともに、先程機械人形が向かった方向を注視する。銃撃音を聞きつけて乱入してくる可能性が高いからだ。
もし激戦となってアレが起きでもしたら、彼女たちはともかく俺が死ぬ。
その時。
―――ドォォォオオン!!
俺達よりも更に上部、中腹に近い位置で爆発音が起こった。
「……おいおい嘘だろ」
―――ドドドドドドドドドォォォ!!
山鳴りかと間違えるほどに深い地響きが足元を拐う。
踏み固めていた雪が軽く滑り、3メートルほど下に滑り落ちる。
視界半分を埋め尽くす白い濁流が、明らかな殺傷力を孕んで俺達に急襲する。
「―――雪崩だ! 全員横に走れ!!」
「間に合いません、指揮官! 私の後ろに!!」
ブルースの影に入り、頭を守る姿勢で衝撃を迎え撃つ。
「―――ガッ!?」
縦横無尽に振り回されるなか、なんとか首だけば守らねばと、脇をしめて両手を首裏に押し付ける。
かすれてゆく意識の中……誰かが俺の手を掴んだ。身にまとった黒のロングコート、純白に似た髪色のコントラストを美しいと感じた瞬間、俺は眠るように気絶した。
「―――――やれやれ、ここで会う予定じゃなかったんだけどね」
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汚染獣が人間を襲うアルゴリズムについて
汚染獣は、病原体や放射能に順応しているわけではない。その身を常に襲う痛みを治すため、エリクスを嗅ぎ分け捕食する。体に根付いた病原体がそれで治るわけではない。しかし一時の安泰のため、彼らは人の血肉を食らうのだ。
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