第16話:おばあちゃんの昔話
「さて、どこから話すべきじゃろうか……」
「A37……クロノ・ホワイトとの関係についてからでお願いします」
「……うむ、少し長くなるぞ。あれはまだわしが幻想少女になってから10年ほどの頃であった。自慢じゃないが、当時のわしは既に策略家としての頭角を出しておった。しかし、わしの戦闘の才は平均的、どうしても作戦の実行役が必要となった。そこで抜擢されたのが当時3強とされていたオリジナルたちじゃ」
「……A37じゃないんですか?」
「量産型じゃ力量不足と判断された。しかし、集合場所に行く道中、それ以前からもA37の噂は聞いておった。『不思議なLicaがいる』とな。
実際に目にした時、わしは一目で決めたのじゃ、『私の相棒はこの娘だ』と」
当時の記憶を一つ一つ紐解くように、たまに合間を設けながらポツリポツリと言葉を繋ぐオルター。
「無論、反対された。しかし、わしは押し切ったのじゃ。『実績を出せばいい、この娘と私で世界を救おう』と。
わしらのコンビの成長は川を遡るようであった。最初こそゆっくりだったが、A37は確実にわしの指令を達成してくれた。激流を渡り、死の滝を昇った。報酬と愛着を込め、ロット番号をモジって『
ギリィ、と歯を食いしばる音が俺たちにまで伝わってくる。
「……政府はアスナを回収した。特異点だとか、量産型の希望の星だとか適当な理由をつけてな。馬鹿な奴らじゃ、アスナの実力はそこらの指揮官では制御できんと言うのに。
案の定、勘違いだったと、アスナではわしの相棒に相応しくないと彼女を量産型部隊に戻した、それが今から60年前のことじゃ。そして最近になってA37が処分されたと伝達が入った。ものすごく後悔した、もっと早く迎えに行ければと。じゃのに……」
ガンッ! と机を強く叩く音が響く。硬く握りしめた拳は血の気が引いて真っ白になっていた。
「まさか殲滅者になっておるとは」
「殲滅者になると、なにがあるんだ?」
「まず、整備が受けられない。死に体でずっと彷徨い続けるのじゃ。全てを捨て、常に痛む体を引きずりながら青い空のために命を賭す。
なぜ彼女たちがそんなことをしなければならない。本当ならば、煙のように高いところが大好きな豚どもがその役割を果たすべきじゃのに」
今の政府に対しての皮肉を込めてこぼすその言葉は、彼女でしか載せることができない200年以上の重みがあった。
「話を戻すが……アスナのあの力はなんじゃ? 量産型には能力は使えない、幻想少女適性があっても、能力が使えない子が量産型になる。アスナも同じはずじゃ」
「わかりません。いままでは時間に関わる力だと予想してましたが……虚無から大剣を呼び出しました」
「もっと特異なもの、ということか……」
顎に手を置き、脳を回す姿はA37……アスナとそっくりのように見えた。
「よし、わからないということがわかった。まずはバーナテヴィルについて追うぞ。アスナに近づくための一筋の手がかりじゃ。どうか手伝ってはくれぬか」
「もちろんです。……と言いたいところだが、お前らはそれでいいか?」
「……指揮官が決めたことならば」
「ふん、癪だけどあいつには命を救われたしね、弱みの一つ二つくらい握り返してやるわよ」
「お話ししてみたいですぅ、どのお茶が好きなのかしらぁ」
「ありがとう……ッ」
深く頭を下げたオルターを止めることはできなかった。
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