第11話:『明日奈』
Reader-カズト
「……………無い」
A37との遭遇も未だ冷めぬ夢、俺は早々に資料室へ足を運んでいた。
単にA37について調べる為だ。現在、総指揮官とナギナミ商店のお偉いさんが接見中、末端の俺はやる事がなく、こうして電子媒体を操作しているわけだが……………
「無い、A37の情報だけが綺麗に抜き取られている……………!」
いや、無いわけでは無い。ただあまりにも簡潔で当たり障りのないものなのだ。
いくら量産型といえど、何度も、何十度も戦闘を繰り返せば自ずと個性が出てくるものである。しかし、載っている情報といえば、
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A37
西暦2056年誕生。
特に才覚無し。
『
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最新の変更記録自体は古いが、明らかに
「電子媒体は信用ならない、つまり」
昔は紙で管理されていたはずだ。移行までにどれほどの期間が有るのかは分からないが、少しは残っているだろう。
—————しかし、
「破り取られている……!?」
一瞬戸惑ったが、冷静に本を確認する。
「断面の劣化が少ない、少なくともここ一週間以内……………あ、」
どうやら直接書き込んでいた様で、裏のページに筆記圧による凹みが残っていた。元々書かれていた文の上から読み取るのは苦労したが、なんとか一文だけ解読する事ができた。
「……………アスナ?」
◇◇◇◇◇
「接敵、対象5体!」
「接敵陣形、並べ!」
ブルースをメイン盾にY字に展開。的確に敵を撹乱、討伐していく。
「
「ブルース、盾を斜めに構えろ、挑発光を焚け! 2人とも逆脇に大幅に下がって迎撃!」
「「「了解!」」」
大型突撃機械人形、
「左にそらせ!」
「むぅん!」
心臓に直接響くような衝突音。引きずられるように強烈に押され、10メートルほど後退するが、ブルースの足はまだ地面を掴んでいた。
「拒絶しろ、私の心! 『
猪と盾の接触部分に空間ができ、磁石の同極を相対させた時のように、強い横方向へのずれる力が働き、無防備な全身を二人に晒してしまった。
「「はぁぁぁ!!」」
強い踏み込みから、体がブレて僅かに残像ができるほどの速度で脇腹に接近すると、明らかに人間には扱えない反動のアサルトライフルを、軽々しく指で切る。
「いい加減……倒れなさいよ!」
腰元からファントムダガーを取り出して首元の神経系を切断するイエルロ。その一撃が決め手となり、大猪は横向きに地に伏せた。
「遊撃陣形!」
ここからは正直消化試合だ。戦闘音を聞きつけた汚染獣が急襲をしてこないかを警戒しつつ、素早く対象を撃退していく。
俺達が
『我々が情報を秘匿していると?』
『疑っているわけではないのです。ただ、信頼できる筋からのリークがありまして』
A37と接触した、と言う理由から、二回目の接見は俺も同席を求められた。
その時対話に応じたのは、総司令官とナギナミ商会のCEOだ。権力者だけが漂わせる独特の威圧感から耐えながら、交渉の行く末を見守る。
それに、総指揮官の言うこともあながち間違いではない。
クロノはLicaシリーズのNo.Aだ。それだけ古い歴史を生き抜いており、それに準ずる記憶量も群を抜いて高い。俺達が知り得ないような知識を常識としてもおかしくないのだ。
『……………いいでしょう、しかし条件があります』
『ありがとうございます。して、条件とは?』
『簡単なことですよ。まず、この場の話し合いはあなた方に調査を依頼するというていにしてほしいのです。
『おおむね賛成です。やはり専門家の視点も取り入れたほうがいい。緊急時の指揮は、その道の専門家である我々に一任してもらいますが?』
『元よりそのつもりでした。それから、派遣隊員はなるべくまだ功績を上げていない人にしてほしい。我々としても経験者に担当してほしいところですが、名のある人は地上に出るだけで影響力がある。大々的に広まることは避けたいのですよ』
『その件ですが……』
総指揮官が俺の顔を見る。
『ここにいるアマネ隊員を推薦させていただいたい』
『! 総指揮官』
『彼は新人ながらも、類まれなる状況判断能力と生還力がある。きっと役目になりえるでしょう』
「指揮官、シェルターが見えてきました。どうなさいますか?」
「しばらく休憩にしよう。スカレットは備蓄の確認をお願いできるかな」
「承知しました」
ここでの戦績が、そのまま人類の救うことにつながる。
「それに……………」
A37に並ぶための、一本の凧糸に繋がるだろうか。
そしてもし、もしも『アスナ』と言う名前がA37の名前であったら……………
彼女は—————救国の英雄だ。
◇◇◇◇◇
Reader-A37
「フゥ―――――」
煙草を咥え、高台から軍勢を見下ろす。
「あ゛〜〜〜、一面のクソロボット」
およそ200を超える機械人形の数、明らかに原作で出くわす量ではない。
「にはは、今のニュービーに対応できる量じゃないよねぇ」
ファントムソードの石突の部分で自分の頭をこんこん叩きながら、思考を整える。
「あれから一週間、イレギュラーがなければそろそろバーナテヴィルと接敵する頃かな? おそらく彼だったら、自分がギリギリになるまで切り札は切らない」
よーするにトレーディングカードゲームと同じだ。バーナテヴィルの能力は山札から約200枚をノーコストでドローし、即座にバトルゾーンにアクティブできるぶっ壊れ能力。それを封じるためにはどうすればいいか……
「簡単だよ、
起動したファントムソードから重低音が響き、その熱で新しい煙草に火を付ける。
「一仕事行こうか。終わったらバーでカクテルを一杯、なんてのも乙だね」
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武器:ファントムシリーズ
電子結晶から放出されたエネルギーを、実体のない刃として出力することで対象を両断する。
拡張
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