豪剣VS魔王

 満月が、闘技場を明るく照らす。


 リュートはみちびかれるようにしてそこへ、始まりの地へ舞い戻ってきた。


「戻ってきちまったな。って、お?」 


 舞台の上。リュートはいつの間にか目の前に対戦相手がいたことに気付く。


「おい! お前が最後の対戦相手か? 勝負しようぜ!」 


 リュートが駆け寄り声を掛けたのは、黒いドレスをまとった女性。


「気安く話しかけるでない、下郎げろう」  

「――!」 


 ゾクリ。なぜか背筋せずじ怖気おぞけが走り、身の毛がよだつ。


 冷や汗が頬を伝った。


 この圧倒的な存在感。分かりきっていたが、剣士は問うてみることにした。


「お前、役職は!」 


 女性はフードをゆっくりと脱ぐ。そしてその気高き声調でもって、役職を告げる――。


「魔王じゃ」 


 魔王ヴァリアンテ。その流れる黒髪からは妖艶ようえんさが溢れている。ナイフさながらの切れ長の碧眼へきがんに、凛々しい面立ち。王冠ティアラをのせ、漆黒の王衣ドレスをまとう。そして……立ち込める魔力、放たれる威厳いげんはまさに別次元の存在だ。


「魔王……! 相手にとって不足なしだな」 

「たわけ。貴様のような凡夫ぼんぷでは話にならん」 


 豪剣VS魔王、開戦――。


「うらぁっ!」 


 抜刀。


 獣のような俊敏さで豪剣が魔王に切りかかった。瞬間的に額へと刃が振り下ろされる。


『すげぇ! 今、なにも見えなかった! カッケェ……!』 


 と、ドーム会場から歓声が上がる。


「もらったぜ!」 


 しかし。


「甘いわ」 


 ヴァリアンテの低く、ドスの効いた声。同時、光の防壁が自動的に刃を防ぐ。


「やっべぇ……!」 


 それだけではない。


 衝撃を何十倍にも膨れ上がらせたものが返ってくる。またしても壁面にまで吹き飛ばされたリュート。


「うぉあっ!?」 

「つまらん。出直してまいれ。わらわのだ」 

『強すぎだろ、魔王』 


 会場全体が、その実力の差に啞然とする。


 ――俺の持ち前の反射神経が通じねぇ。どーすっかなぁ。てか今、勝ちって言ったか?


 豪剣は手も足も出ない。そこで口を回してみる。


「なぁ、あんたはここの勝利条件ってなんだと思う?」

「知らぬ」

「俺は、対戦相手が気持ちよくなったら勝ちだと思う」

「何を言っている、気色きしょく悪い」


 ヴァリアンテは汚物を見るような目でリュートを見る。


「だって、ここまで全部ぶっ倒してきたけど元の世界に帰ったっぽいのは負けた方だったから。バカップルに関しては傷ひとつつけてねぇし。でも満足そうだった。逆に言えば」


 豪剣は刀を見やる。


「俺は、まだ気持ちよくねぇ」 


 そして魔王を指さす。


「なぁ、あんたの願いはなんだ!? 片方だけ勝っちまえばそいつがここに残るかもしんねぇ!  二人で気持ちよくなんねぇとダメだ!」

「………………」


しばしの沈黙。やがて。


生涯しょうがいで味わうことのない、想像を絶するほどに血湧ちわ肉躍にくおどる戦闘がしたい」


魔王の本心が、かたられる。


豪剣は。


「ひひ。じゃあ」 


狂気的な笑みを浮かべて。


「俺とおんなじじゃねぇかぁ!」


歓喜かんきに打ち震えていた。


刹那せつな


豪剣は地を蹴り出し、先程とは比べ物にならない速度で駆ける。


さらに、剣閃をはなつ。


速い。と判断。魔王は初めて回避行動をとる。


判断が後れ、頬にダメージ。光が漏れる。


「ぬぅ」

「まだまだぁ!」


剣閃の雨。それが魔王に浴びせられる。


「もう喰らわぬ」


初見ではないと、余裕綽々よゆうしゃくしゃくで避ける。だが。


「そうかよ」 

「なっ!?」


背後からの声。


剣閃は目くらまし。リュートは既にヴァリアンテの後ろに回り込んでいた。


ついに豪剣の斬撃が、魔王を捉える。


「がっ……!」

「やっぱな。自動防御は攻撃を完全に認識しないと発動しねぇ」 

『おおおおおお!』


観客のボルテージは最高潮。


『魔王がこのフィールドに居座った理由は背後を取られにくくするためだったのか……!』


「くくっ。良い、良いぞ。東洋とうようの剣士」

「マジか」


ヴァリアンテが翼を生やし、背中の傷を塞ぐ。空高く飛翔ひしょう


「これだ! わらわが望んだのはこのような修羅場しゅらば! アハハハハハ!」


「イカれてんな。お互いに」


魔王が、両手を突き出して。


七色の色彩しきさ。多属性の魔法の球体を無数に顕現けんげんさせる。そして。




因果いんがむくいよ」


それが降り注ぐ。


「っはぁぁぁ!」


豪剣、奔走ほんそう。直線、追尾ついび軌道きどうの読めない魔法を野生の勘だけで避け続けた。


――喰らうしか、ねぇっ!


このままではいずれ追いつかれる。ならばと。


魔王の元まで跳躍。刀を構える。


「血迷ったか! 幕引きだな!」


翡翠ひすい色の球体が、豪剣に直撃。


だが、まだ命運めいうんは尽きていなかった。


「勇気をもって行動したやつが最後に勝つんだよ。あんたみてぇに待ってるだけじゃ掴めねぇ」

「それは――!?」

「バカップルが残してった絆の欠片さ」


 リュートのてのひらには機械装甲の破片。絶大な魔力がこもったそれが、魔王の魔力を上回ったのだ。


 そして。


「俺の我儘わがままを、満たしてくれてありがとう」 


 抜刀。


 魔王の切り口から光が零れる。


『おおおおおおッッッ!!!』 


 会場からも大歓声。


 豪剣が、ついにあの魔王を討ち取ったのだから。


「ふふ……楽しかったぞ、豪剣。もっと早くに貴様に会いたかったな」 


 魔王は満足そうに笑んで消え去った。


 リュートの身体も、光に包まれていく。


「ああ、俺もだ」 


 そして彼も笑顔で――消える。


 豪剣VS魔王。決着。


 両者、条件を満たした。よってこれにて全開放である。




×××




この世界から出たくば、


・参加者一覧表


 豪剣 石川リュート 解放済


 大魔導士 ステラ 解放済


 機工士 パルミドローテ 解放済


 狩人 ラストパレード 解放済


 魔王 ヴァリアンテ 解放済

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