第12話 交錯、倒錯、

仕事は結局やめなかった。

ルイに一緒に頭を下げてもらって引き続き面倒を見て貰うことになった。

オーナーは本当に心が広く、僕を包み込んで、


「必要以上にお母さんに心配かけんなよ?」と言ってくれた。

「ありがとうございます。…でも僕からママは盗らないでください。夜には帰してください。ママには僕も、衣舞も居ます。」

「心配するな。そういう関係じゃないから。」



何かがおかしくなっていた。

家族以外誰も信じられなくて、不安で不安で仕方なかった。




―――――――――――――――ある日の夜。



――――――通話中。


「涼太あんた今どこにいんの。遅くない?」


ルイからだった。


「先飯食べてて。」


「聞くけど、いつ帰ってくんの。」

「そのうち。」

「『そのうち』っていつ。」


この日何故かルイはしつこかった。


「……もう切っていい?」

「涼太、ママにも話せない?」

「解決なんてしない。」

「話さないで抱えるよりマシだと思うけど。」


「…死にたい…アミに会いたい。……ね?解決しないでしょ?」

「迎えに行く。今どこ。」

「大丈夫。こなくていい。衣舞は?」

「ここにいる。あんたの帰り待ってる。」

「先に食べてて。」

「涼太!!…」

「ママ、、ありがとう。でもさ、なんで俺がアミの子だって話にしたの?もしかしてだけどさ、本当にこれは俺の想像でしかないけど、本当は、ルイの相手と、アミはルイの相手と…それで俺たちができた?」

「…本当にあんたは頭のイイ子だから。」

「否定しないのね?」

「したところでいつかは話さなきゃいけない。」

「これも俺の憶測だけど、お互いの好きな相手とお互いの相手の思う先が違った。だからこういう結果になった。要は話だけトレードした。違う?」

「…そう。あの時のあたし達はこれが一番上手くいくと思った。涼太の時はね。でも、衣舞は想定外だった。でも結局一番いい思いをしたのは私。衣舞に名前をつけて宝物が二つになったからね。」


「…アミは、悪いヤツなの?」

「私はそうは思わない。計画性はない。でも悪い子じゃない。」

「…ねぇルイ。」

「ん?なに?」

「俺、アミを好きでいていい?」

「好きにしなさい?でも後悔はして欲しくない。壊れても欲しくない。もし、あんたがまた『死にたい』とか言う様ならあたしは全力で引き離す。二度とあんたと衣舞に関わらせない。」

「…多分ね、『正しいところ』を求めてた。」

「うん。」

「『正しい先』にね、行きたかった。でもね、本当の事が分かっていけば分かってくほど、『正しくない方』に行ってる気がして、『間違ってる方』に突き進んでる気がして…。だから、俺はアミの子でいいよ。衣舞はルイの子でいいよ。そのままでいいよ?嘘のままでいいよ。俺、他人でいたい。」


「『正しさ』なんて必要ある?あたし達がした事も決して『正しい事』じゃなかった。お互いの自己満。お互いを思ってるようで思ってなかった。だからアミは衣舞を置いてった。……それとさ、あんたもう一回冷静になってごらん。もう一回衣舞と向き合ってごらん。」

「正しくない?ならもういい。押し付けるならもういい。」


僕は電話を切って、電源を切った。

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