第10話 親子でも

それから数ヶ月して、高校を卒業する少し前に今までのバイトを辞めて、ルイの働いている雑貨屋で働く事となった。


学校は衣舞と二人で退学した。

留年してまで遊びたいわけじゃなかったから。


でも、卒業して数日後、衣舞は消えた。

突如として居なくなった。


予想はできてた。だから驚きもしなかった。

ルイもそう。


「やっぱり親子だわ…」と零したのを僕は聞いていた。



でも僕も僕で、店のルールやらやり方やらを覚えるのに時間がかかり、適応出来ずによく固まっていた。嘘じゃない。冗談抜きで動けなくなる。


そうなると、「金宮さん、涼太がまた固まってるぞ」と周りの方が伝えてくれて、渋々ルイが来て、


「涼太、今何がわからなかった?」と聞いてくれていた。


「オーナーすみません。体に染み込めば出来ると思うのですが、それまではこれが続くかなと思います。」

「いいよ、長い目でやって行くから。金宮さんさえいてくれれば涼太は大丈夫だからな。」


でも、僕は不思議とオーナーも平気な部類だった。

他の従業員との間で摩擦ができたときも、


「涼太、今のはお前が悪い。先に謝ってこい。そっから説明してやるから。」と。

指示通り謝りに行って帰ってくると、


「涼太、お前はどうしたかったんだ?」と聞いてくれる。

そこから話をしてくれる。


『障害』までは行かないが、

自分でも自分のコントロールが上手くいかなくなり、ショートして、


「ルイを呼んでください…」と始まる。


当時のパートさん達も結構鋭い人が多くて、そこに負けていた。


最終的には僕がオーナーになってルイと結月だけになる。


けれどそこまでは本当にしんどくて、何度固まって、何度ルイを呼んだかわからない。




そしてそんなある日、陰でルイと悪口をパートの人たちが言っているのを聞いてしまって、 その場に耳を塞いでうずくまってしまった。  


すると、オーナーが来てくれた。

オーナーは僕の横に座って、包み込んでくれた。


そして…


「言わしとけ。お前の母親がアイツらの言うような奴じゃないことはお前が一番知ってる。大丈夫だ。近いうちにあんな事言えなくしてやるから。」


僕はまた何かを勘違いしていた。


「…ルイを…ルイを盗らないでください。」

「盗ったりしねぇよ。お前の大事なものだろ。」


僕は…震えていた。誰も信じられなかった。

アミが消えて、衣舞が消えて…ルイまで消えたら…。


「すみません…。辞めさせてください…。」


それだけ伝えて荷物を持って店を出た。




――――――――――――――――――。


「涼太。ちょっといい?」


ルイのベットで隠れて出てこない僕を見つけて、布団の上から声を掛けられた。


僕は少しだけ顔を出した。



「…涼太、大丈夫だから。あたしは誰のものでもない。強いて言うならあんたのもの。それに、どこにも行かない。どこにも行かない。」


僕は布団から出てルイに抱き着いた。


「ルイ…頼むからさ…どこも行かないで…ルイまでどっか行っちゃったらどうしたらいいんだよ!!ねぇ!!ルイ!!…」


ルイは僕を強く、強く、強く抱きしめてくれた…。



「どこにも行かない。だから大丈夫。」

「アミも、衣舞もどっか行っちゃった…。」

「…あたしはどこにも行かない。だからあんたもあたしの前から消えないで。お願いだから、ママを不安にさせないで。」



僕は…ルイにキスした。


「ルイ、全部混ぜちゃえばいいんだよ。全部ルイにあげる。だったら俺とルイはずっと一緒になれる…」


「涼太。こわいよね。怖いよね。でも大丈夫。あんたはあたしの子だから。あたしが産んだ子だから。」

「ママ…」


「わかってたんでしょ?」

「わかってた。」

「いつから気付いてたの?」

「結構前から。中学の時くらいから衣舞がアミにしかみえなくなってった。」


「ごめんね。」

「いいよ。色々あったんでしょ?それに、今ルイはここにいる。でもそれだけじゃ不安…。…それとも子供とは出来ない?」


「あたしはできる。なぜならあんたの隅々まで愛しいから。」



―――――――――――――――――――――。


この時初めて知った。

こころは満たされても体は満たされない。




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