大学生に青春は遅すぎる?

ゆうじん

プロローグ 

 『青春の1ページ』と言われてみんなは一番最初に何を思い出すのだろうか。


 クラス全員で繋いだバトンリレーで優勝を勝ち取った体育祭?

 劇や喫茶店、屋台、バンド、最後は後夜祭でキャンプファイヤーを囲んだ文化祭?

 好きなグループに分かれて、その町の歴史や文化に触れて学び、夜はルームメイトとトランプや恋バナに花を咲かせた修学旅行?

 全国大会目指して、朝練に、授業後は夜遅くまで残ってひたすら汗を流した部活動?

 同じ大学に行くために、塾や予備校に通って、朝から晩まで打ち込んだ勉強?

 学校ではみんなで馬鹿して、帰りはコンビニに寄って買い食いしたり、ゲーセンやカラオケで遊んで、夏は花火大会で一夏の甘い恋を経験、そんな日常?


 どれも素敵な青春じゃないか。

 青春に答えなんてない。その若くて初々しい時期の想い出に楽しい、とか、悲しい、とか、嬉しい、とかそういう感情が乗ってるから、君の想い出というアルバムの中に『青春の1ページ』として記録されるのだ。


 でも俺は、その『青春の1ページ』がない。謙遜とか恥ずかしいから言えない、のではなく本当にない。

 そしてその青春を羨ましいとも思わない。強がりとか負け惜しみ、、というわけでもない。

 俺には感情がないんだ。

 だから中学も高校も『想い出』はない。ただ、記憶はある。それが『想い出』ましてや『青春の1ページ』へと昇華するわけではなく、ただデータとして自分の脳に刻まれているだけ。


 たまに考えることはある。これは問題なのか?と。

 正直、生きていく上で感情なんて不要で、逆に感情が人生を歪ませることもある。人間関係なんてその最たるものだ。感情の応酬でしかない。それで相手も傷付けば、自分も傷つく。最悪なパターンはそれが犯罪につながるということ。

 仕事だって、ただ言われたことをやって、つまりは会社の歯車になれば問題ないわけで、そこに報酬が発生するとなれば、文句のつけようもない。まさにWin-Winな関係。感情に揺さぶられて、仕事の効率が落ちるようなら、それこそ問題になるわけで、組織にとっても面倒事でしかない。

 どうだろうか。これが、俺が感情がない=問題ではない、という方程式の答えなのだが、異論はあるだろうか?


 って誰もその答えを求めていないのだから、結局は自己満足で完結させている。

 これからもこの答えはきっと変わらないだろう。だから俺にとって青春なんて不要で無関係なものなのだ。


 春から大学生、青春を一通り終えた男女が集う場所。俺も今日からその一員になるわけだが、やはり彼らとは一線を引くのだろう。

 自分から線を引けば、その線を超えてくる者は誰もいない。これは俺の経験則。


 仮にその線を超えてきた人がいたとしよう。

 君ならどうする?

 俺なら無視だ。


 では、突然平手打ちをされたらどうする?


 え、平手打ち?話したこともない初対面の人間に平手打ちなんてするか?


 俺の目の前には烈火の如くその瞳を燃やす、苛烈な女が立っていた。


 これが俺の大学生活の始まりだ。

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