ダンジョンで拾ったパンが最強のパワーアップアイテムだった

R・S・ムスカリ

 

起章

01. 追放

「頼む、グゥ! パーティーから抜けてくれ‼」


 目の前で土下座を始めたリーダーを見て、あたしは驚いてしまった。


 リーダーの必死な顔はとても冗談で言っている感じじゃない。

 あたし、パーティーをクビになるようなマズイことしたっけ……?


「あ、あの、リーダー? あたし、何かやっちゃいました?」

「いや! きみはよくやってくれている‼」

「えぇ……? なら、どうしてあたしにパーティーから抜けろだなんて⁉」

「もう食費がもたないんだっ‼」


 そう言われて、あたしはギクリとした。


 食費――それは食事にかかる費用。

 あたしは昔から大食いでよく食べるから、パーティーの活動資金を食費にちょっと多めに使ってしまう。

 前からちょいちょい注意はされていたけど、まさかそれが理由でこんなことになるなんて。


「あたし、たしかによく食べますけど、そんなにですか……?」

「そんなにだ……っ」

「もうちょっと食べる量を減らすよう頑張るので、今回は許してもらうってことは……」

「無理だ! 資金がもうギリギリなんだ‼」

「えぇ~」

「きみは十分に前衛――格闘士ウォーリアとしての務めは果たしている! でも、探検が終わって町に戻る度にドカ食い! しかも料理屋のはしご! これがいけないっ‼」

「あぁ……それは、まぁ……」

「いくら僕達がS級の冒険者パーティーとはいえ、度々ギルドに支援金を申請するのはよろしくない! しかも、武装の新調やダンジョンの探索準備ではなく、食費のせいというのが実にまずい! ギルドには遊興費と思われて、次回の査定にも響きそうなんだ‼」


 リーダーの話を聞いていると、なんだかあたしの大食いがとんでもないことになっていたんだなって思ってしまう。

 パーティーのお財布事情とかぜんぜん知らなかったから、今まで気にも留めなかったんだけど……。


「あたし、そんなにみんなの負担になってたんですか?」


 助けを求めるつもりで、周りにいるパーティーメンバーに目配せしてみると――


「今までは気を使って言わなかったけど、あんたのせいで日に日に泊まる宿屋のレベルが落ちてるのよね」

「教会が善意で分けてくださるポーションを何本もがぶ飲みされますし……」

「ダンジョンに持ち込む荷物も、食べ物ばっかり詰め込むもんだから無駄に多いじゃん」


 ――あれー? 誰もあたしをかばってくれない⁉


「そういうわけで、グゥ。心苦しいんだけど、きみはパーティーから抜けてもらう」

「く、クビですかっ⁉」

「ありていに言えば……まぁ、クビだね」

「そんなぁ~~~‼」


 リーダーが申し訳なさそうにしている一方で、他のパーティーメンバーの人達は唇を尖らせてあたしを睨んでいる。

 あたしって、もしかして嫌われていたの⁉


「それで、その……普通こっち都合でパーティーから抜けてもらう時には、離脱金を支払うのが筋なんだけど……」

「ディグは優し過ぎるわ! ここはあたいがガツンと言ってあげる――」


 リーダーを押し退けて、戦士ファイターのフィー姉が怖い顔であたしに向かってくる。


「――あんたは今後のダンジョン攻略には足手まといなの! 深層に行けば行くほど食べ物を切り詰めなきゃならないのに、あんたときたら食ってばっかり! こないだなんてディグの分の食料まで食べちゃって‼」

「あれはリーダーが譲ってくれて……。それにあたしってば燃費が悪くて、暴れた後に何かお腹に入れないとすぐ動けなくなっちゃうから」

「燃費悪過ぎだっての! 何日もかけて何十階層も下りなきゃならないのに、食料配分で問題起こすような奴をパーティーに残せるわけねーでしょ‼」

「そ、そんなぁ~~~」


 オーガみたいな形相で詰め寄ってくるものだから、フィー姉がすっごく怖い。


「そもそもグゥさんはダンジョン攻略には向いておりませんわ――」


 さらに神官プリーストのルシアさんまで加わってくる。


「――お腹が空けば本来の実力を発揮できなくなる。後衛を務める身としては、そんな方に信用などおけません」

「これからはダンジョン内で見つけたもので飢えを凌ぐよ! それならいいでしょ⁉」

「無理ですわよ。地上と違って、ダンジョン内には人が口にできるようなものはありません。モンスターの肉ですら、パーティーに専門の調理知識のある者がいなければとても食べられたものにはなりませんもの」

「うぅ~~~。味方がいない……っ」


 チラリと魔導士ウィザードのマホちゃんを見る。

 あたしと同い年で一番仲の良い彼女なら、きっとあたしの味方になってくれるはず!


「そんな目で見たって、私もみんなと同じ意見だから」

「そぉんなぁぁぁ~~~‼」


 ……がっくし。


 リーダーを含めたみんながあたしのことを追い出す気でいたなんて。

 そりゃ食費を使い過ぎたのは悪いと思うけど、常に満腹でいないと力が出ないんだから仕方ないよ!

 腹八分目なんて言葉、あたしにはないんだからっ。


「でも、でもっ! あたしがいなくなったら、前衛が大変になっちゃうよ⁉ 次の冒険ではダンジョンのもっと深い階層まで行くんでしょ⁉」

「それならご心配なく――」


 マホちゃんが意地悪そうな笑みを浮かべる。


「――よそから移ってきた格闘士ウォーリアが新しくこの町のギルドに登録したの。グゥより冒険者歴が長くて、燃費もずっと良い上位互換の格闘士ウォーリアだから、あんたもういらない」

「えぇ~~~~~っ⁉」


 まるで後頭部を殴られたくらいの衝撃!

 友達だと思っていたマホちゃんがそこまで言うなんて、あんまりじゃない⁉


「すまない、グゥ。僕としても支援者の手前、ダンジョン攻略にもたつくわけにはいかないんだ。実は、きみの後任にその格闘士ウォーリアのパーティー入りがもう決まっている」

「えぇっ⁉」

「だから、きみの武装は置いていってほしい。うちのパーティー証は当然として、ミスリル製のフィストとか、聖銀糸で編まれた武道着とか……下層のモンスターと互角に戦える装備品も値段が馬鹿にならないから」

「うぐぐ……っ」


 あたしのせいで武装を買い替えるお金もないんじゃ、文句なんて言えない……。


「グゥ、今までありがとう。今日でお別れだけど、きみの拳が僕達の道を切り開いてくれたことは事実だ。感謝している」

「う~」

「まぁあんたの燃費が悪いせいで、あたいの負担が増えてたことも事実だけど」

「うう~~」

「グゥさん。年頃の女の子なのですから、暴食はくれぐれもお控えなさいね」

「うぐぅ~~~」

「地上のモンスター討伐にでも精を出すんだね。あんたの鼻、犬より利くから隠れたモンスター探しだすの得意じゃん?」

「うぐぐぅぅ~~~~~~ぐすんっ」


 悔しくて涙が出てきた。

 ……お腹も空いた。


 こうしてあたしは長年一緒に冒険してきたパーティーから追い出されたのだった。

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