食パンダッシュ女子高生 ~接触注意~

DANDAKA

一回目

 階段を降り、住宅街の袋小路にあるアパートの出入り口から外に出る。暦の上では秋だというのにまだ暑く、スーツを着た俺を必要以上に温めてくる。


 今日は日曜日で仕事は休みだ。普段ならば家でゲームでもしているところだが、今日に限っては、職場の後輩の結婚披露宴に出席するために、こんな格好で外出する必要があるのだ。


 革靴を鳴らしながら、駅に向かって歩き慣れた道を進んでいく。ポケットからスマホを取り出してロック画面に表示されている時刻を確認すると、午前九時ジャストだった。このままのペースで行けば、余裕を残して会場に到着するだろう。


「いっけな~い、遅刻遅刻~!」


 アパートを出て一つ目の十字路を通り過ぎしばらく歩いたところで、前方から甲高い声が聞こえてきた。


 そこにいたのは、制服を着た高校生くらいの女子だった。器用に食パンをくわえながら、俺に向かって走ってくる。


 とても奇妙な光景だった。そんなに急いでいるならパンなんて食べている場合ではないと思うし、そもそも今日は日曜日だ。まあ、別に俺の知ったことではない。きっと、何か他の用事でもあるのだろう。


 ともかく、このまま直進したら彼女にぶつかる羽目になる。向こうは焦って俺の存在に気付いていないようなので、こっち側から進路を空けてあげよう。


 しかし、そこであることに気付いてしまった。


 ……横に、動けない。


 まるで、透明な壁に挟まれているかのようだった。その見えない何かに阻まれて、左にも右にも避けることができない。


「も~、何で起こしてくれなかったんだろう?」


 そんな俺に気付く素振りなど一切見せずに、彼女は素早く距離を詰めてくる。息をつく暇も無く二人の体は激突し……


 俺は強くはね飛ばされてしまった。80kgを超えるこの体が、いとも簡単に空中へと舞い上がる。車にかれた時ってこんな感じ……なわけがない。痛みは全く無かったから。


 しばらくして、俺は重力により下降し始める。そして、アスファルトの地面にその体がたたき付けられようとした瞬間、


 視界がほんの一瞬だけ暗転し、俺は地面に立っていた。着地に成功したとかそういう雰囲気ではなく、まるで最初から二本の足でたたずんでいたかのようだった。


 周囲を見渡す。あの女子高生の姿は影も形も無い。それどころか、ここは「二人が激突した地点」ですらなかった。


 俺は、自宅であるアパートの出入り口に戻されていたのだ。

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