彼が語る運命

Marielle

第1話

「また会えるかな?」

「会えるさ、必ずまた会おう」

幼き頃の彼等はそう…約束した。


大人になった彼等は、約束した通り

再会を果たした。


だが、彼は彼女を覚えていたが

彼女は彼の事を覚えていなかった。

あの頃の無邪気な笑顔はそこにはなく

誰かを憎んでる…彼女はそんな瞳をしていた。


俺が名前を名乗ったことにより、

ようやく思い出してくれたみたいで。

また会えた…会いたかった!…と

喜びの抱擁シーンを想像していたのに

人生というのは想像通りにいかないものだ。


でも彼女が今…横にいる。

彼はただそれだけで良かった。

側にずっといてくれたら…ただそれだけで

そんな願いも叶うことはないのだけど、、


釣竿の糸を垂らし魚が餌を咥えるのを待っていると

隣の奴にこう聞かれた。

「いいのか?彼女を引き留めなくて。

 お前、本当は離れたくねぇんだろ?」


これからずっと一緒にいれる、そんなふうに

思ってたのは彼だけだったようで、

一緒には行けない…それが彼女の出した答えだった。無理矢理、連れ去っても良かっただろう。

でも彼はそんなことはしない。

「そうか…分かった!」無邪気に笑うと

話題を変えるように「それでさー、あの後さ…」

と今までの話を楽しそうに彼女に話して聞かせた。

彼女も微笑みながらうんうんと頷いて聞いている。

彼の無邪気に笑う顔、そして真っすぐな瞳に

ほんの一瞬、彼女はあの幼き頃の笑顔に

戻っていた。何も言わずともお互いこう思っていたに違いない。この穏やかな時間がずっと

続けばいい…と。

しかし、彼女は一緒に行こうと言う彼に

首を縦には振らなかった。


海を眺めながら俺は言った。

「運命なんだ…これは」


「本当は寂しいんだろ」


「あぁ…寂しいさ。

 再会できたのも運命…

 離れ離れになるのもまた運命さ」


俺の言葉に隣の奴は


「便利な言葉だよな運命って。

 全部、運命だって思った方が楽だもんな。

 再会できたのはおめぇの言う通り運命だろうよ。

 でも、離れ離れになることまで

 運命って言葉で片付けんのか?

 そんな簡単なもんなのかよ」


怒りを露わにして胸倉を掴んできた。

そいつの言葉にカチンときた俺は


「うるせー!」


思わず拳を振るっていて

殴り合いの喧嘩に発展した。


先に手を出した俺が悪い。

謝らなきゃと走って行ってしまった

そいつを追いかけ、後ろから

「ごめん!」頭を下げた。

俺が謝ると「ごめん…俺もつい

カッとなっちまって」向こうも謝ってきて

俺達の間には暫く沈黙が流れる。


「なぁ…俺はそう思うしかないんだよ」


「……?」


「彼女の信念と俺の信念は違うんだ…

 俺やお前にだって夢があるように

 彼女にも夢があるんだよ。

 夢は誰にも邪魔できるものじゃねぇ。

 そうだろ?」


夢は誰にも邪魔できない…

何でそんなに優しいんだ…

何でそんなに笑って言えるんだ?…


彼は優しい。そんなのとっくの昔に

知ってたことじゃないか。

俺はコイツとずっと一緒に

冒険してきたんだから。

そのお前が運命という言葉で簡単に片付ける

わけがねぇ。なのに…なのに俺は、

勝手に怒って…馬鹿だ俺は。

自分の馬鹿さ加減に呆れた。


目の前の彼は続けて


「それに信念って簡単に変えられるような

 もんじゃねぇだろ?

 俺が何か言ったところで変わらねぇ。

 だったら運命だって…そう思って

 前に進むしかねぇんだ…」


俺は彼から目が離せなかった。

彼の声、そして瞳にはそれなりの

覚悟が込められていたから。


無邪気なお前に俺も俺達の仲間も

そして…彼女も、皆、心惹かれている。



俺と彼女の

信念は交わらなくとも

同じ空の下にいる。

同じ空を見上げてる。それだけは一緒だ…










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彼が語る運命 Marielle @maria0108

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