第19話 演説プロデュースするしかなくて草


「リアーナは聖女から罷免しました。ステラさんが聖女になったとしても害されるようなことはありません。聖女になって頂けるかステラさんの意見を聞かせて頂けますか?」


 教皇──モンローに「聖女になる云々の前にもう一人の危険な聖女を排除してからだろ」と突っ込んだ翌日。

 秒でもう一人の危険な聖女こと光の聖女リアーナをクビにしたようでモンローが鎧の教練の終わりにそう声をかけてきた。

 昨日、猶予も用意しろと言って用意した猶予が半日くらいてのは少なすぎるのではと思えなくもないが、昨日の必死だった様子からしてモンローからしたら是が非でも教会の御旗になってもらいたいと思っていることは想像に難くないし、これでもモンローなりには譲歩した方なのだと思って目を瞑ることにする。

 モンローと相対するステラは昨日と違い慌てた感じもなく、決心するように胸の前で手を握るとモンローの方を見つめる。

 どうやら杞憂だったようでステラはこの短い間に決めていたようだ。


「はい。私は聖女になろうと思います。昨日はいきなりで気づかなったけど聖女になることが人類のためになるってことは私の側にいる人たちのためになることってだし、みんなのためになることができる人は私の憧れでもあるので」


 ステラはモンローの方をまっすぐ見ながら聖女となる旨を伝える。

 小さいながらもしっかりとした理由を持って選択をしていて偉いな。

 俺が小さい時など全てをフィーリングで決めており、なんとなくで決定していたというのに。

 まあこの世界の娯楽は人との接触をすることが大半なので人格形成が早く行われて早熟になりやすいってこともあるかもしれないが。


「素晴らしいです。ステラさん。まさに聖女に相応しい人格をお持ちになっています。あなたに比べるとあの二人は紛い物にしか思えません」


 ステラの返答を聞くとモンローが鋭いことを言いながら涙を流し始めた。

 紛い物にしか思えないと言うよりもマジでパチモンだったからな。

 これで晴れてゲーム通りステラが聖女となり、やっと物語のスタートが成立したといったというところか。


「ステラさんが聖女になったことを修道者たちに向けてすぐに発表しなければいけませんね。あまり聖女不在の状態を長引かせていけませんし」


「すげえ!」「本当に聖女ステラ誕生じゃん!」「俺たちの中で一番年下なのにすげえ!」「すごい力を持ってたもの当たり前よ! おめでと!」


 ステラが聖女になることが決定すると周りのメンツも喜び始めた。

 こいつらもなんだかんだでステラに命を救われているからな。

 本人たちからは直接聞いたわけではないがステラに好印象を抱いて報われてほしいと思っていたのだろう。

 助けてもらっても何も思わない人間も多いことを思えばこいつらも性格いいな。

 

「おめでとうステラ。教皇、ちなみに発表の形式はどんなものにするんですか?」


 いつも行動を共にしている連中の性格の良さを再認識するとモンローにステラの聖女認定の発表の仕方について尋ねる。

 特別な力を使えると言っても幼女だからな。

 聖女就任に至って大講堂に修道者全てを集めて半刻近く大演説を行うとかになったら流石に無理そうだし。

 発達途上の記憶力的にも体力的にも絶対しんどいからな。


「私から聖女になる方を紹介して、聖女になる方が聖女になる意気込みや抱負を言っていただくという形式ですね」


 演説だな。

 このままだと厳しいな。

 聞いた感じでは軽い口調で言っているので、できそうといえばできなくはなさそうに思えるが、ステラを聖女に就かせるためにこれまでの聖女こと偽聖女をクビにしているって言う背景がある。偽聖女が作っていた派閥に所属していた修道者を演説で納得させないといけない。

 政治家並みに口が達者ならまだわからないことではないが素人には無理だ。

 このまま行って派閥残党の血気盛んな奴らに目をつけられて偽聖女リターンズみたいになることが目に見える。

 派閥残党を納得させるには論より証拠という感じで圧倒的な神聖力をアピールできる形が理想だろう。

 そうすればモンローのように次元を超えた存在だと認識して張り合える存在とは思わないし、ついでにステラに言ってもらおうと思っている自爆装置回収の件のこともステラに生じた威光でよりスムーズにいきそうだからな。


「もしこだわりがないなら。聖女発表の段取りについては俺に一任してもらってもいいですか?」


「いえ別に構わないのですが、できれば明日か、明後日中にはしたいのであまり準備に時間をかけることはできませんよ」


「ええ、構いません。なんらかの仕込みとかは必要なしにステラのありのままの能力を集まった修道者にそのまま見せたいというだけですから」


 元々並外れた力も持っているので下手に言葉を弄せずに持っているものをそのまま見せるだけで十分だ。

 というよりも、もはやステラの持つ聖女の力──埒外の力が仕込みみたいなものだし。

 聖女の力をバカすかしまくって見せた挙句にあの神々しい神鎧に乗る姿を見せればほぼほぼどんな修道者でもステラに平伏するのは間違いない。

 裁量権をもらって制限さえなくせれば実に簡単なことである。

 明日の演説で平伏する修道者たちが目に見える。


  ───


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