第10話 本物の聖女よりこいつの方が凄そうで草
「このガキ! 殺してやる! 職人が丹精込めて作ったもんをくだらねえことでこんなんにしやがって!」
「親方落ち着いて下さい!」
ロマンナが工房に行くと顔を真っ赤にしたドワーフ──神工ガンダインが大破した鎧を指差すと拳を振り上げて殴りかかろうとしてきた。
ガンダインが徒弟たちに押さえつけられて、ことなきを得たものの、いきなりのことにすっかりロマンナは腰を抜かしてしまった。
「大丈夫かい。君」
「ええ」
毛むくじゃらで性別も判然としない徒弟の一人が善意で伸ばした手を普段なら弾くところだが、すっかり毒気を抜かれてしまったロマンナが素直に取る。
今のガンダインは謝罪どうこうの前に人の言う事に耳を傾けられる状態ではない。
「お邪魔します」
どうしたものかとロマンナが固まっているとシドら──新しく教会に入ってきた一団が入ってきた。
「離せ!」
来たシドたちに全く反応せずに徒弟に押さえつけられているガンダインの状況にシド以外の他の新修道者たちが状況が理解できずキョトンとする中でシドは見定めるように見つめると机の上に広げられた図面を見て声を上げた。
「実弾兵装」
「うん? 小僧それがわかるのか?」
怒りから一転してガンダインが驚いたような声を上げると徒弟たちが離す。
「親方は感情よりも鎧開発の興味が上回る人だから大丈夫だよ。あれの興味がある程度落ち着いたら怒りも話ができるくらいにはなってると思うから」
いや確かに様子が変わったのはわかるが解放して大丈夫なのかと思うと毛むくじゃらの徒弟が耳打ちしてくる。
「ええ、俺の方から依頼をしようと思っていましたから。銃身の素材がデカント鉱石製じゃサラマンダーの火袋製の火薬の圧に耐えられないのでアイアンゴーレムで作成してもらっていいですか。いやすいません。その前に大破した鎧の件について謝るべきでした」
「謝ることなんぞどうでもいい。そのアイアンゴーレムとやらの素材はどこで手に入る?」
「地下迷宮に行かなければ手に入らないですね。流通はしていないので現地に行って取ってくるしかないです。よろしければアイアンゴーレムの素材を献上することで今回のことは許していただけますか?」
「構わねえ。許すも何も元々お前じゃなくてこのバカが焼いて壊してるからな。タダ働きさせるのも癪だ。持ってくればタダで依頼品は作ってやろう。鎧はそこらへんにあるのを適当に持ってけ」
「ありがとうございます」
開発の課題が解消されたガンダインは心なしか機嫌の良さそうな顔をするとシドが礼を言う。
来てすぐ最悪だったガンダインの機嫌を直したこともそうだが、鎧の開発に関しても職人以上の知識を持っていることにロマンナは舌を巻く。
「何やってる! お前は鎧動かすことしか取り柄がねえんだろうが! お前も行ってこい!」
「は、はいー!」
シド襲来で何とかことなきを得たと思うと着いていくように言われ、ダッシュでシドたちの後を追う。
自分で吹っかけたとはいえ一悶着あった連中と共に行動するのは気まずいなと思うと教会の量産型鎧──ホワイトフラッシュに乗り込むシドたちの姿が見えてきた。
「何のようだ?」
先の態度とは一転して、露骨に嫌そうな顔をしてシドが問いかけてくる。
先ほどのガンダインのやり取りで理知的な人物と悟ったこともあり、そんな人間に悪態を突かれる自分はかなりヤバイ人間なのではないかと思わずにいられず、自業自得とはいえロマンナは地味に傷つく。
「ガンダイン様に言われてきたのよ……」
「ガンダイン様がか。じゃあしょうがないか。着いてきてもいいがお前の加護は周りを燃やすかもしれないから使うなよ」
「そんなヘマはしないわよ」
釘を刺されるが同行を許されたのでロマンナもシドたちに続いてホワイトフラッシュに乗って後を着いていく。
『お前が誤解してるようだから一つ言わせてもらうが、俺は聖女なんて目指していない』
地下迷宮なんてこの近くにあったかしらと思いながらシドに着いていくと予想だにしない発言を聞いたことでロマンナは驚く。
鎧を生身で倒して叙勲されたことといい、新装備を依頼していることといい、聖女として認められるために箔付と奇跡を起こそうとしているように思えてならなかったし、何よりロマンナにとって聖女は修道者なら誰もが欲しがる称号というイメージがあっただけに意外だった。
「何で聖女を目指さないのよ?」
『本物の聖女がいるからだ』
本物の聖女?
聖女を超えた聖女ということ?
疑問が頭の中で湧いてくると戦闘においても鎧開発においても非凡さを見せるシドにここまで言わしめる聖女が気になり出した。
現状これよりすごい存在なると人間では思いつかない。
「その本物の聖女って誰よ?」
『お前の目の前にいる』
『『『『『え?』』』』』
ロマンナの目の前にいるのは十七の彼女からしても子供としかいえないような少女──ステラ。
ロマンナにはとてもではないがこの物事の分別が付いているかどうかもわからない少女がシドよりもすごいとは思えなかったし、ステラ本人も周りと共に疑問の声を上げていた。
『ステラには俺たちには到底できないことをする能力がある。俺には見当もつかない地下迷宮の場所もステラなら見つけることができる』
『え……、あ……向こうから何か感じます』
わかるような口ぶりで場所を把握してなかったのかとロマンナは唖然とするとステラが徐に何の変哲もない地面に向かっていくとエリス教の紋章──太陽と女神の紋章が浮かび上がり地面が割れた。
『すごい……』
『女神様のマークじゃん!』『ちょっとステラの背中も光らなかったか!』『ありえるのかこんなこと!』『女神様の関係者じゃん!』
流石のロマンナにもこのステラが特別な存在であることは分かった。
『これで分かっただろう。本物が誰か』
だがそれでもなお、いやより一層ロマンナにとってシドという存在が凄まじく思えた。
誰もが使えない特別な力があるわけではないといえども、第一線で戦える実力がある自分に打ち勝つ武力に、神工さえも解決できなかった課題をたやすく解決する知力、それに本人でさえ気づいていない人の能力を見抜く洞察力さえも。
特別な力ではないからこそわかる非凡さを感じる。
隔てられることのない場所にいるからこそ感じる魅力、憧れ、カリスマがシドにはある。
ロマンナは特別な力がなかろうがシドこそがこの中で優れているという確信を感じざる得なかった。
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