悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇

第1話 出家するか


「この世界ギャルゲかよ」


 父エドランに家の宝をくすねた犯人というあらぬ疑いにより殴られ昏倒した翌日。

 起きると前世の記憶を思い出した。

 前世の俺はゲーム好きのサラリーマンだったようで、思い出した記憶の大半は仕事と大量のゲームをプレイしている記憶だった。

 その記憶の中のプレイしたゲームに「ヒロイックキングダム」というギャルゲーがあり、今俺が生きている世界とそっくりそのまんまで衝撃を受けている。


「まさか選んだヒロイン次第で世界が滅亡したり、人類がモンスター化する世界に転生しているなんてな。てか俺、悪役令息のシドかよ。転生ガチャ大失敗じゃねえか。タイトルに戻ってキャッシュクリアしてえ」


 しばらくしてギャルゲ世界転生の衝撃が過ぎ去ると俺──シド・カマッセイが主人公にボコられて臨終する悪役令息だということに気づき、再び衝撃が走る。

 悪役令息のシドは特に悪いことをしてないのに悪評が立ちまくった挙句、主人公に極悪人だと誤解され殺されるキャラだ。

 シドの死はサブヒロインのシドの妹ミラが「兄を殺したことを償って」と言って主人公の初期パーティに加入するというルート分岐前の最序盤のチュートリアルイベントでここから各ルートに分岐していくため、どのルートでもシドは必ず死ぬことになる。

 改めて思うと誤解で殺された挙句、犯人の主人公に妹がお持ち帰りされるとか結構な胸糞だな。

 主人公でプレイしてた時はシドブッコロはヒロインとイチャイチャするための必要悪だと思ってたが、今現在シドとなっている俺としたら黒よりもなおドス黒い邪悪である。


「兄様大丈夫ですか?」


 俺が残酷な真実に煩悶していると妹のミラが部屋には気遣う声を上げて、俺の私室に入ってきた。

 艶やかな黒髪に凛とした整った顔。

 サブとはいえヒロインを張っているだけあって整った顔をしている。

 できた妹だと思っていたが、ゲームでは「兄の仇ィィ!」とか言いながらヒロインの中で一番早く堕ちるチョロインだったのでそこはかとなく残念さを感じる。

 ミラが昨日父エドランにぶん殴られたことを心配して俺の元に来てくれた思い出したがそういえばエドランの元に行かなければならなかった。

 前世の記憶が蘇ったことに衝撃を受けてすっかり飛んでいた。


「大丈夫だ。いつものことだし。昨日の盗難の件で納得してないだろうし父上に会ってくる」


 そう言って心配そうな顔をする妹の頭を撫でると親父であるカマッセイ男爵家当主エドラン・カマッセイのいる書斎に向かうことにする。

 もうすでに俺が冤罪で殴られているがまだ宝が戻っていないので宝盗難の件は終わっていないのだ。

 本音のところエドランは毒親なので話したくはないが途中で放り出すと騒ぎ立てたり、暴力を振い始めたりと後が酷いから行かねばならない。

 まあ行く理由として将来的に悪評が原因で死ぬことがわかってことで、冤罪とはいえこう言った悪評の根を放置するわけにはいかないという事情ができていることもあるが。


「遅いぞ! 汚れた血が! 貴様は反省の色も示せんのか! 早く盗んだ宝を返せ!」


 書斎の扉を開けた瞬間にエドランが十二の子供に向けるとは思えない言葉で罵倒してくる。

 俺が汚れた血──貴族以外の血が入っているのはエドランがここのメイドだった庶民の母とやったせいだというのにメチャクチャだ。

 前世の記憶を思い出した今どうしてこんな日々俺のことを悪様に罵倒するおっさんと一緒にいれたことが不思議で堪らない。


「宝の件ですがやはり身に覚えがありません。持ってないものは返せません」


「言い逃れをするとは卑しい奴め! 私がお前だと言ったのだ! 盗んだのはお前しかありえん! 早く返せ!」


 盗んでないものを出せるわけがないので無実だと主張するとエドランが理不尽な言いがかりをつけてくる。

 自分が思ったから犯人確定は流石に酷いだろ。


「俺だという根拠はあるんですか?」


「ある! 貴様は私に不幸を齎す疫病神なのだ! お前さえいなければ、誇りも妻も失うことはなかったのだ!」


 それのどこが根拠なんだ。

 エドランの不幸に俺は全く関係ない。

 誇りついてはエドランの心の持ちようだし、正妻のミーア──ミラの母の死については出産後に体調を崩したことが原因だ。

 俺の介入する余地などなかったのだ


「父上その二つの件については俺は関係ありません」


「黙れ! 私を不幸にしたお前は必ず不幸にならねばならんのだ! 今までもお前の悪評を流し、関係を持とうとしたアホは折檻してきた! これからも私の全てを賭けてお前を不幸にしてやる!」


 俺が反論すると感情的になったエドランが内心をぶちまけてきた。

 妾の子だから当たりが強いとは思っていたが俺が不幸になるのに、悪評を流したり、関係を持とうとした人間に危害を加えるレベルで全力で力を注いでいるとは思っていなかった。

 毒親ここに極まれりだ。

 悪評が立ちすぎると破滅するのでこれから悪評を立つのをどうにかしようと思っていたがこんな風に人生を賭けてネガキャンしている奴が身内に居ては不可能だ。

 というよりも冷静に考えて破滅抜きにしてもこいつといるだけでもことあるごとにこじつけて悪評を立てて来るだろうことや、関係者に被害が及ぶことを考えれば迷惑すぎるし、離れたほうがいいだろう。

 頼る縁もないし、ただ家出しただけではエドランが介入して何か仕掛けてきそうだし、現実的なのは家族の縁を切って教会に身を寄せる出家くらいか。

 王以上の威光を持つ女神を奉る教会には貴族のエドランでも手を出せないことを考えればこれが現状では最善だろう。

 これで行こう。


「出家させていただきます」


「出家? 我がカマッセイ男爵家と縁を切るということか。盗難の反省としては貴様にしてはまともではないか。ではささっと家から出て教会の下僕になって魔族と戦って死ぬがいい!」


 出家と聞くと勝手に都合のいい解釈をしてエドランはこちらに早く出ていくように催促して来る。

 断る可能性もあると思ったが貴族にとって貴族でなくなるというのは死より重い罰と捉えられていることもあってか、出家することは受け入れてくれたようだ。

 まあ俺は貴族であることの誇りや庶民になることへの抵抗などないので罰だとも特に思わないが。


「いままでお世話になりました」


 碌な思いでもないが一応育ての礼を言って書斎から出ていく。


「兄様!」


 書斎から出ると妹のミラが抱きついてきた。


「出家するって本当?」


 どうやら聞き耳を立てて先ほどまでの会話を聞いていたらしい。


「ああ本当だ。ミラは次期当主なんだから頑張るんだぞ」


「兄さん……」


 腰を屈めてミラの目線に合わせて言い聞かせると最後に頭を撫でてその場から離れる。

 父エドランは俺に対してはあんなんだが、正妻の子である嫡子のミラには良心的な親で溺愛していると言っても過言ではない。

 ミラは原作通り大切に育てられるだろうし、大丈夫だろう。


「行くか」


 簡単に荷物を纏めて肩掛け鞄──革製のボンサックに詰めると、家を発って出家しに教会に向かう。


   ───


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