第26話 水着えらび

   *


 現在時刻は午前八時。サラリーマンなら早めのだが、農家としては遅めの時間だ。良太朗はいつもの軽トラではなく、ワゴン車の鍵をもって家を出る。良太朗が生まれる前に父親が買ったもので、当時ワゴン車世界最速記録とかを作っていたらしい。


「じゃあ、でかけよっか」


「ん! 水着楽しみ」


「あたしも楽しみ♡」


 リュカに関しては、魔法でなんとでもなりそうな気がする。なにせ、人化の魔法を使ったときでも、最初から服は着ていたしね。だけど、楽しそうにしてるんだから、出演料だと思って買ってあげようと良太朗は思った。


 良太朗は、ほとんどすれ違う車も居ない山間部の道を、目的の都市へと向かってワゴン車を走らせる。古いワゴン車だから、スマホがカーナビ変わりだ。


「ドライブ楽しい」


「おそい。もっと早くいけないの〜?」


「制限速度があるからこれ以上はダメだよ。取締にあったら余計に遅くなるし、万が一事故なんて起こしたら、目的地にたどり着けなくなるからね」


「むうぅ……」


「良太朗。牛がいる!」


「牛を飼ってる農家さんだね」


「あれが牛♡ 美味しそう♡」


「その感想はちょっと……。どうかと思うよ僕は」


「良太朗は牛飼わないの? 飼ってみたい」


「昔、父さんが一度だけ飼ってた事があるんだけどさ。お世話するのもめっちゃ大変だし、なにより可愛がって育てた牛が、肉になるために売られていくのが可愛そうでね。農家としては、失格なのかもしれないけど……。だから飼うつもりはないんだよ」


「ん……。牛要らない」


「食べたかった♡」


「リュカ、食べるってまさかドラゴン姿で一口で、とかじゃないよな?」


「それもいいけど〜。やっぱりステーキ♡」


 良太朗は丸かじりではなかったことに妙に安心してしまった。とりとめのない話をしている間に、良太朗たちは目的のショッピングモールにたどり着いた。郊外型の大型店で土日だとかなり混むのだろうが、平日だからか人出は少なめでよかった。


「まずは水着からか」


「ん! 主目標」


「おいしいものがいい♡」


「うーん。お昼ごはんか……」


 良太朗が時計を確認すると、既に十一時で昼食の時間として早すぎるわけでもない。


「混みそうだから、先に食事いっとく?」


「ごはんごはん♡」


「ん。どっちからでもいい」


「じゃあお昼からにしようか」


 良太朗たちはフロアガイドのプレートの前で、どんな店があるのかをチェックしていく。猫カフェから本格フレンチ、さらにはオムライス専門店まで、バラエティに飛んだお店が色々とはいっている。


「思った以上に色んなお店があるな。どれか気になるものある?」


「んー……。どれでもいい」


「あたしはこれ! お寿司食べたことない♡」


「そういやそうか。家じゃ寿司なんてなかなか作らないからなあ。ほのかもお寿司でいい?」


「ん! 回転寿司ははじめて」


 飲食店が集まっているエリアにつくと、人気があるらしいバイキング形式の中華料理店には行列ができていた。でも全国チェーンの回転寿司の店は、並ぶこともなくすんなりと入ることができた。


「ネタ確認」


 ほのかは席につくと早速タッチパネルを使い、どのネタにするか選び始める。良太朗は、ほのかに頼んでハマチとイカにタコ、エンガワを注文してもらう。


「ねえねえ。これどれでも取っていいの?」


「そうだよ」


 リュカは目をキラキラさせながら、流れていく寿司を見ている。味のイメージが掴めないのか、どれを取るのか迷っているみたいで、なかなか手を出せないでいる。


「美味しくなかったら、一個は僕が食べるから気になるのは取っていいよ」


「ほんと? じゃあ……」


 ちょうどそこにハンバーグ寿司が流れてきた。食べ慣れていることもあってか、リュカはハンバーグの列を全部とっていく。全部で五皿のハンバーグがリュカの前に並ぶ。


「そんな一気に取らなくても……」


「おいしそうだったし、全部食べるから。へ〜き」


 ほのかは鯛をはじめ白身魚が中心に食べている。リュカはハンバーグにサラダ巻きに玉子と、ちょっと子供っぽいメニューが気に入ったようだ。サーモンはやはり鉄板らしく、ふたりともリピートしていた。


 食べ終わって、良太朗たちがのんびりとしていると、正午が近づき店内が混雑しはじめてきた。良太朗たちは本格的に混雑する前に、会計を終えて店をでた。


 水着を売っている店は、水着だけでなくヨガマットにバランスボール。加えてスポーツウェア類も取り扱っている店だった。種類は少ないが、男性用の水着も取り扱っている。良太朗の水着も入所できそうでよかった。もしもここで買えなかったら、高校で使っていた紺色の水着になるところだった。


「良太朗。どれが好み?」


「え? 僕が選ぶの?」


「ん。当然」


「あたしのも選んで〜♡」


 ほのかとリュカは、次から次へと色んな水着を見せてくる。この年になるまで良太朗には、女性の水着を選んだ経験なんてない。必死で選んでいると、若干引きつった笑いを浮かべた女性店員が、声をかけてくる。


「気に入ったものがあれば、試着も可能ですよ」


「良太朗が、いくつか選んでくれたら」


「着替えるから見て〜」


 なんとか選んだ三着ずつ選んだ水着を持って、ほのかとリュカは試着室へと入っていく。残された女性店員と良太朗は、無言の気まずい時間を過ごす。女性店員の視線が痛い。そりゃあアラサーの良太朗が、とても兄妹や親子には見えない美少女二人を連れて、水着を選んでいるのだ。もし、良太朗が店員でも、同じようにいぶかしげな表情を浮かべてしまうと思う。


 良太朗が女性店員の視線に必死で耐えていると、試着室のカーテンが開き、ほのかとリュカが水着姿で現れた。ほのかは上がキャミソール風の白い水着を。リュカは赤をベースにしたトロピカルな柄のワンピースのものが気に入ったらしい。


「ふたりとも良く似合ってるよ」


「ん。よかった」


「ほんと? うれしい♡」


 良太朗たちは会計を終えて店をでる。とりあえず目的は達成したけど、時間はまだ余裕がある。移動時間も考えると、すぐに帰ってしまうのも、もったいない気がする。


「どうしよっか、普段着も買ってく?」


「ん!」


「いくいく♡」


 そして、良太朗は、服屋でも同じように店員の冷たい視線に耐えることになるのだった。


   *


 ──シャカラード王国・国王執務室


 コンコンというノックの音に、国王が入室を許可する。執務室の扉が開き、大臣が執務室へと入ってきた。


「陛下。調査を任せた冒険者が帰ってまいりました」


「で、どうであった」


「獣人たちが村を作っていたそうです。また、獣人たちを指揮する男と娘が居るようです」


「どこの国の手のものかわかるか?」


「それがどうやら、異世界の勇者かもしれません」


「なぜそう判断した?」


「勇者召喚で現れる異世界人。彼らが着ている衣装に良く似た珍しい服装をしていたそうです」


 国王は書類を書いていたペンをとめて、顎に手をあて考えをまとめるように黙り込む。


「ふむ……。リュカニアのほうはどうなのだ?」


「調査中、一度も姿が確認できず、魔力も感知できなかったとのことですので、恐らく縄張りを替えたということで間違いないかと。なにより村を作っているのに破壊されていないのが決め手かと」


「なるほどな。リュカニアが縄張りを換えたということで間違いなかろう」


「では、どの程度の部隊をおくりましょう?」


「獣人たちの人数は?」


「三〇人程度とのことです」


「多くの兵を動かすと他国を刺激してしまうかもしれん。最低限の兵力で制圧するのだ」


「では。魔道士団を一部隊と、歩兵を一部隊でいかがでしょう? まずは投降を呼びかけて、出方を見るのがよろしいかと」


「よろしい。部隊の編成を整え出撃させよ」


「はっ!」


 大臣は部隊の編成を始めるため執務室を出ていく。

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