第17話 おや? 露天風呂の様子が……
*
露天風呂の湯船部分を掘る作業は、リュカの手伝いもあって殆ど終わった。それでも一週間近くかかったのを考えると、掘るタイプのDIYをやる人が少ないことに良太朗は納得した。今日はほのかも手伝ってくれている。予定では排水用の穴を作って、塩ビパイプをいれるところまでやる予定だ。
「ほんとリュカのおかげだよ。排水用のパイプを通す穴をあけたいんだけど、土魔法で穴を開けるとどのくらいの距離まで掘れるかわかる?」
「好きなだけ掘れるよ? なんせあたしの恩寵で使える魔法だし♡」
「なるほど……。じゃあここから、あそこに見える山までとかでもいけそう?」
「楽勝でいけるよ♡」
良太朗が指さした山までは二、三キロくらいの距離だ。それだけ掘れるなら良太朗の思いつきも成功するかもしれない。良太朗は百円ショップで買ってきたキャンプ用のペグに、同じく百円ショップで買ってきた派手な色の平巻テープを結んでいく。最近の百円ショップはなんでも揃っていてありがたい。
「良太朗? なに考えてる?」
「うまくいくかわからないし、試してみるから見てて」
「ん。わかった」
良太朗は湯船を作っている場所から、一〇メートルほど離れた場所へ移動する。そして地面に垂直に、真下に向かって魔法で穴を掘り始める。直径は一五センチほどの穴を意識する。
「まずは五メートル」
穴があいたら、場所がわかるように印をつける。良太朗は一定の距離を取って、同じように何箇所か五メートルの穴を掘っていく。ほのかとリュカは良太朗の作業を興味深そうに見つめている。
「井戸掘り?」
「うん、とりあえずは水でないかなと思って。魔法使えると、掘るのも埋めるのも一瞬だから楽でいいね」
良太朗には井戸掘りの経験があった。子供の頃に、まだ健在だった祖父と父親と三人で農業用水を取るための井戸を掘った。手押しポンプに呼び水を入れて、初めて水が汲み出された時の感覚は、今でも鮮明に覚えている。
「ん。私も掘って良い?」
「良いよ。とりあえずだから、穴の場所がわからないようになるのだけは気をつけてね。はいこれ」
良太朗は残っている印付け用のペグをほのかに差し出す。ほのかは差し出されたペグを全て受け取ると、穴を開けるために移動を始める。
「あまり近すぎると意味がないから、ある程度離れて掘ってね」
「ん! まかせて」
ほのかは楽しそうに魔法で穴をあけては印をつけていく。しばらくすると、結構な数を用意していたはずのペグを全て使い切ったほのかが戻ってきた。
「このあとどうする?」
「とりあえず数時間放置かな。水が出てくるにしても待たないといけないからね」
少し早いが良太朗たちは、家に戻って昼食をとることにした。メニューは野菜多めのチャーハンに、インスタントな鶏ガラスープ。相変わらずリュカはスプーンしか使えないので、最近のメニューはスプーンとフォークで食べられるものが中心になっている。
最近のリュカは、異世界で作業している時間以外は、良太朗の家に入り浸っているような状態だ。動画撮影の無い日は、朝から夕食後まで居たりする。最初CW《モールス》に反応してやってきたときにはマナの乱れをあんなに嫌がって居たのに、もう慣れてしまったのだろうか。
「なあリュカ。こっちは電磁波多くてマナが乱されるんだろう? どんな感覚があるんだ?」
「んーと、最近はだいぶ慣れたけど、首筋をずっと羽でさわられてような?」
「うわ。それはやだな」
「ん。最悪」
「でしょ? 寝るのはムリだから、夜はかえってるの」
良太朗とほのかはリュカのおかげで異世界では魔法を使えるが、良太朗はマナというものの存在を感じたことは無かった。しかしこの説明を聞いてマナを感じられなくてよかったと思う。
そんなこんなで雑談を楽しんで時間をすごす。ふと時間を確認すると二時間ほど経っていたので、良太朗たちは異世界へともどる。
「水。でてる?」
「出てると良いけどどうだろう?」
良太朗たちは、さっき掘った穴を確認する。順番に穴を確認していくと、一つだけ水の溜まっている穴が見つかった。
「水!」
「いいね。既に結構溜まっているみたいだし水量もありそうだ。じゃあ、これ以外の穴は埋めちゃおうか」
「ん!」
良太朗とほのかは、水の出ていない穴を手分けして埋めていく。魔法で埋め戻したことで、すぐに水が出ていない穴は全て元通りにすることができた。
良太朗は溜まっている水を少し汲んで、水の温度を確認する。体感だと一八度くらいだろうか。一般的な井戸水の冷たさといったところだ。
「良太朗。井戸どうする?」
「この穴をもっと深くしていくんだよ。みてて」
良太朗は魔法を使い、とりあえず追加で七〇〇メートルほど穴を深くする。ついでに崩れないように土を固く固める魔法で保護もする。この魔法をかけると土がタイルのようになって固まる。全てを固めてしまうと、当然水も染み出してこなくなるから、小さな穴を沢山開けることも忘れない。
掘り終わった穴をほのかが覗いてるけど、当然ながら底は見えないだろう。
「良太朗。どのくらい深くした?」
「とりあえず七〇〇メートルくらいまで深くしたよ」
「七〇〇メートルも? なんのため?」
「それは、井戸から出る水の温度って一定以上深くなると地熱の影響を受けるようになるんだよ。大体一〇〇メートルで二、三度ずつ高温になっていくらしいんだ。だから七〇〇メートルだと、一四度から二一度くらい高くなるはずなんだよね。さっき溜まってた水の温度が一八度くらいだったから……」
「おお! 温泉!」
「そういうこと。また水が溜まったら温度を計って深さを調整かな。これでうまくいくとは思うんだけど……」
「きっとうまくいく!」
「あとはどのくらい水が出るかだね。たっぷり出てくれれば源泉かけ流しも夢じゃないかも」
「おお! さすが良太朗」
良太朗とほのかが盛り上がっているのを見て、リュカは不思議そうにしている。
「温泉のどこがそんなにいいの? おにいちゃん」
「あー、リュカにはわからないか。僕達の国では温泉に入ってゆっくりするっていうのは、とても楽しくて嬉しいことなんだよ」
「ん! 温泉最高」
「ん〜、良くわかんないけど、温泉だったらねどこの近くにもあるよ?」
「え? どんな温泉?」
「臭くて近寄りたくないかんじ」
硫黄泉だろうか。良太朗はその温泉にも魅力を感じる。今日掘った温泉が上手くいかなくても、プライベート温泉を手に入れられるかもしれないのには心が踊る。
「ここから距離はどのくらい有るんだろう?」
「お菓子をくれるなら、乗せていってあげてもいいよ♡」
「それは行ってみたいなあ」
「ん! ん? なにあれ?良太朗」
なにかに気付いたらしきほのかが指差す先は、草原を囲む森の一角。良太朗が目を凝らしてみると、そこには二足歩行の犬のようなものがこちらを伺っているのが見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます