第15話 露天風呂計画


「え〜っと、たしかこのあたりに〜。あった! はいどうぞ♡」


 リュカが良太朗に渡してきたのは、白銀色の鞘に収まった一振りの剣。柄や鍔に当たる部分には細かな装飾がされていて、いかにも高そうに見える。良太朗はあまり詳しく無いけど、イメージとしてはゲームの勇者が終盤で手に入れる伝説の剣、といった雰囲気だ。ただ、あまりに軽くておもちゃみたいだ。昔一度だけ触ったことがある、舞台で使う竹光より軽く感じる。


「どう? どう? すごいでしょ♡」


「凄そうだけど、剣とか貰っても使い道が無いからなあ……」


「え、すごい剣っぽいじゃないですか。もうちょっと嬉しそうにしましょうよ」


「ん! 格好いい。良太朗見せて」


「いいよ、怪我しないように気をつけてね」


「絶対にだめ! 渡しちゃだめだよ」


 良太朗が剣をほのかに手渡そうとしたところで、凄い剣幕のリュカに止められる。


「なにがダメなんだ?」


「えっと。良太朗お兄ちゃん、剣を地面に置いてみて」


「こうか?」


 不審に思いながらも、良太朗はリュカの言う通り地面に剣を置く。これが一体なんだというのだろう。


「置いたけど?」


「じゃあ、ほのかおねえちゃん、それを持ち上げてみて」


「ん。え?」


 ほのかは剣を持ち上げようとしているようだが、地面に置かれた剣はびくともしない。不思議に思ったのか、りこもチャレンジしてみるがやっぱり持ち上がらないようだ。


「この神剣凄いでしょ。認められた持ち主以外は、もちあげることも出来ないんだよ♡」


「確かにすごい神剣なんだろうけど貰ってもなあ……。どうせなら神肥料とかのほうがよかったよ」


「良太朗さん……。神肥料って……」


「鶏ふん? ドラふん?」


 ぼそっと言ったほのかの言葉を聞いて、良太朗はドン引きしてしまう。りこは表情を引きつらせているし、リュカにいたっては泣きそうな顔になっている。


「ほのかやめよう。それは事案発生だ」


「そうだよ。ほのかちゃん、流石にそれは動画化できないよ」


「たすかった……」


 良太朗は地面に置いたままの剣を拾い上げて抜いてみる。鏡のように傷一つない刀身には、見たこともない文字が書かれていて、淡く光をはなっている。


「おお光ってる! 勇者良太朗」


「本当にすごいですね。映える絵が撮れそうです」


「うーん……。とりあえずしまっとこう。凄い剣をくれてありがとう。リュカ」


「おっきい木とかでも、簡単にスパスパ斬れるんだから、もっとよろこんでもいいのに」


「いや、十分喜んでるよ。今夜のメニューはリュカの分だけハンバーグ一個増やさせて貰うよ」


「ほんと? やった♡」


「伝説の神剣。ハンバーグ一個分」


 良太朗は剣を鞘にもどし、物置の棚の上にしまう。使わないものとはいえ、価値の有りそうなものだから大切にしまっておく。


「だけど、この物置は使い道が決まってるから金貨は、持って帰ってくれないか?」


「もう一個増やせばいいじゃない? 良いでしょ? お兄ちゃん♡」


「いや、簡単に増やせって言うけど、組み立てはともかく高いんだよね」


「金貨じゃ買えない? 巣にはこの一〇〇倍くらい金貨あるけど足りない?」


「確かに金貨を換金すれば買えるかもしれないけど……。こんな見たこともないデザインと文字が書かれた金貨なんて換金できる自信ないよ」


「そっか〜。じゃあ持って帰る……」


 がっかりとした様子で、物置の方へと歩いていくリュカ。しかし、どうやってこんな大量の財宝をもってきたのだろう。収納魔法みたいなものが使えるのだろうか。


「ねえ。良太朗さん。持って帰る前に、金貨に埋まってる動画撮っておきませんか? 金貨シャワーみたいな。絶対に話題になりますよ!」


 りこに言われて良太朗の頭に思い浮かんだのは、お札の風呂に入っている広告写真だ。サブカル系の雑誌の裏によくあるような、金運アップの怪しい通販のあれ。


「僕は良いかな……。りこが撮っておいてコラボやるときにでも使うといいんじゃない?」


「それもありですね!」


 りこがスマートフォンを良太朗に渡してくる。画面を見ると、すでにカメラアプリは立ち上がっている状態だ。良太朗がりこにカメラを向けて録画開始する。音がなって数秒経ったところで、りこは物置の中へと入り、財宝の山をのぼりはじめる。


「なんと、露天風呂の近くにあった物置には、こんな財宝がっ! コラボ記念に貰えるか後で聞いてみましょう」


 りこはそういってまた数秒とまる。良太朗が録画を停止すると、りこは小走りで良太朗のところまで走ってきた。


「ちゃんと撮れました?」


「大丈夫だと思うけど、生身で大丈夫なの?」


「ちゃんと後からアバターにする方法もあるから大丈夫ですよ」


「へえ。やっぱり動画関係ではりこにはかなわないな」


 そのあとしばらく、小川にいってみたりと草原を見てまわった。元の場所に戻ってきたところで、良太朗は露天風呂について相談する。


「ここに露天風呂を作ろうと考えてるんだけど、色々見て回ってどういうスタイルの風呂にするのが良いと思う?」


「んー、檜風呂も良いと思うけど、岩風呂じゃないですか。この風景で岩風呂なら、ロングショットでもいい感じになりそうじゃないですか?」


「種類不明」


「それもそうか、一旦帰ってネットで色々検索しながら相談しよう」


 良太朗たちは家に戻ると、客間にノートパソコンを持ち込んで相談をはじめた。リュカは夕食までに財宝を片付ける事になった。メノウは縁側のお気に入りポジションでお昼寝するらしい。


「こうやって画像検索してみると、一口に露天風呂と言っても色々あるなあ」


「ん、複雑怪奇」


「調べてみると、檜風呂みたいな木材のお風呂は、お手入れが大変そうです」


「簡単な東屋風の屋根とかを作るにしても、野ざらしみたいなものだからね。じゃあ岩風呂みたいな感じが良いのかな?」


「良太朗これ。岩風呂DIY動画発見」


 ほのかが見つけた岩風呂を自宅にDIYで作る動画を見る。内容は思っていたより簡単そうで、岩を山から持ってくれば、意外とお金もかからなさそうに見える。


「これは良さそうだな。岩風呂ということにしようか」


「良太朗さん。これ見てください。湯浴ゆあみ着っていうらしいです。これを用意して、みんなで一緒に入りましょう」


 りこが見つけてきたのは、湯浴み着というもので混浴温泉なんかで使われるものらしい。要するに温泉用の水着みたいなものだ。


「わざわざ用意しなくても、水着でも良いんじゃないのか?」


「ダメです! こっちのほうが風情がありますし」


「ん、でも可愛くない」


「ほのかちゃん。私の友達にこういうの作るの得意な子が居るから大丈夫。とびきり可愛い湯浴み着つくってもらおう」


「そういうものなのか? 僕は水着で良いと思うけど……」


「ちゃんと良太朗さんの分も作ってもらいますから!」


 どうやら湯浴み着を作るということは既に確定しているらしく、りことほのかは、既にどんな色がいいかといった相談に入っている。


 良太朗は岩風呂について色々と調べながら、構想を練っていく。穴を掘らないで岩風呂を作ると、排水周りは楽になる。だけど湯船の縁が高くなるから出入りするのが難しくなる。掘ると排水が大変になるし、掘りすぎると眺望ちょうぼうが悪くなる。三〇センチくらい上に出ているのが良さそうだ。さすがに洗い場までは用意出来ないだろうし、湯船だけになるだろう。良太朗の思考は突然あげた、りこの大きな声で遮られた。


「忘れてた!」


「ん?」


「なにかあったのか?」

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