第11話 真相

「良太朗よ近くにくるとよい」


 話す黒猫は確かに不可解な存在だけど、醸し出す雰囲気のせいか良太朗には悪いものに思えなかった。言われるままに社へと近づく良太朗。黒猫は良太朗の目をじっと覗き込んで納得したような様子で言った。


「本来、この門を人が通ることは出来んはずなんじゃが……。しかし、良太朗は奴に良くにておるのう。そのせいかのう?」


「奴? 人はとおれない?」


「お主の先祖のことじゃの。人が通れないというのはこの門は主にマナを通すためのものじゃからじゃ。マナというのは魔法を使うためのエネルギーじゃの」


「マナあり? 魔法もあり?」


 マナと魔法という単語に食いつくほのか。良太朗もほのかと同じ一六歳くらいの頃なら、同じように食いついていたかもしれない。ほのかの言葉に黒猫は少し考えたあと言った。


「ふむ、難しい質問じゃの。魔法は有るとも言えるし、無いとも言えよう」


「ん。結局どっち?」


「電磁波というものがあるじゃろ? あれとマナはお互いに干渉しあうのじゃよ」


「電磁波? 干渉?」


「つまり電磁波で溢れているこの世界では、魔法は使えないってことじゃないかな?」


 リュカが人化を使ったシーンが、ノイズで撮れてなかったのも魔法の影響されて、スマートフォンが動作不良を起こしていたということだろう。


「そういうことじゃ。じゃから電磁波の少なかった時代には、陰陽師をはじめとした魔法使いもそれなりにはおったのじゃが……。科学文明の発達とともにマナが乱れて魔法は廃れていったのじゃよ」


「なるほど……」


 最初に無線機を使った時に、リュカが魔力が乱された。と言っていたのはこの事だったのか。黒猫は社の屋根から、音もなく飛び降りると良太朗の足に体を擦り付ける。このあたりの仕草は完全に猫だ。しゃべるけど。


「話がそれたの。そこでマナなんじゃが、生物が活動する限り生み出され続けるものなんじゃよ。しかし、この世界では消費する方法がほぼない。そこで門を開いて、あちらの世界へと送り出しているわけじゃ」


「マナを輸出しているようなものか」


「そうじゃ、ついでにあちらの世界には温室効果ガスも引き取ってもらっておる。ウィンウィンじゃ」


「神様もそういうの気にしてるんだな」


「人間の過ちを正してやるのも、我らの仕事だからのう」


「そういうわけで、本来人は行き来できんものなんじゃが、管理人は別じゃ。そして、どうやら良太朗は門の管理人の権限をもっておるようじゃのう」


 管理人? どうして良太朗がそのようなものになっているのだろう。不思議に思っていると、黒猫が理由を説明しはじめる。


「過去には各地の神職がその役目を果たしておった時代があるのじゃよ。その時に色々と問題があって神が管理することになったのじゃが……。今回開く予定ではなかったここの門じゃが、良太朗が塗りなおした事で開いてしまい、良太朗が管理人になったようじゃ」


「なるほど、事故みたいなものですか……。ならここの門は閉じることに?」


 ここから転移出来なくなるなら、露天風呂計画とかも全て流れてしまうことになる。良太朗としては嬉しくないが、もともと無かったようなものだし諦めるしかなさそうだ。


「それが、そういう訳にもいかないのじゃ。一つだけ閉じるというような細かい制御は出来ぬゆえにな。そこで、門を管理するルールを伝えにきたというわけじゃ」


「ルール?」


「そうじゃ、よく聞くのじゃぞ。一つ目、向こうの生物は人間以外を連れてきてはならぬ! 人間ににているけど違うものもダメじゃぞ!」


「似てるけど違うってどういう事だ?」


「良太朗。エルフとかドワーフとかいる」


「エルフにドワーフじゃと⁈ あやつら許さん!」


 過去になにかあったのだろうか、黒猫がシャーと声をあげて毛を逆立てて怒っている。良太朗は好奇心を抑えきれずに質問する。


「なにかあったんですか?」


「昔は神職が管理人をしておったと言ったじゃろ? そのころに広義では人だからとか言って連れきた奴がおったのじゃ。他にも河童やら妖精やら色々とあってな、本当に大変な事になったのじゃ。じゃから人間以外は絶対にダメなのじゃ」


「わかりました。では、植物とかはどうですか?」


「できるだけやめてほしいのじゃ。生態系に影響がでるのは好ましくないでの」


「ふたつ目じゃ。あちらの世界へ入れるのは、良太朗以外に三人までじゃ。連れてくるのもおなじく良太朗を含めて三人までじゃ」


「つまりほのかの他にあと二人しか入れるようにならないと?」


「その通りじゃ」


「なるほど……」


「最後のルールは、門の存在を明かさぬこと。もちろん入れる人間以外にはじゃ」


「良太朗。ドラゴン動画すでにバズ」


「なんじゃと! 門の存在を動画で拡散とかアホなのか⁈」


「門は映ってないよ。動画の内容としては無線機を操作するとドラゴンが現れるってだけ」


「ふむ……。それならまあよいか。門の存在だけはきっちりと隠すのじゃぞ? それと聞きたいのじゃがそのドラゴンとはリュカニアのことか?」


「ん。リュカ」


「そうだけど、どうしてそれを?」


「この門の存在がわかったのが、リュカニアのやつが「カレーが美味かった」とか言ってきたからなのじゃよ」


 リュカって実はすごいドラゴンだったんだろうか。こっちの世界の神様とも交流があるってことだよな。


「リュカ。すごい?」


「リュカニアのやつは、あちらの世界の神竜じゃ」


「神竜? そんなすごいドラゴンだったのか。ドラゴンは人じゃないから連れてこれないんだよな?」


 リュカをこちらの世界に連れてくるような予定はないけど、良太朗は念の為に質問してみる。


「リュカニアがその気になれば門など無くても来れるじゃろうよ。じゃが、我らとの協定があるからくることはないじゃろ」


「協定?」


「そうじゃ。協定が交わされる前は「あそびにきたぞ」とか言うて、ふらっとやってきては人間に見つかり、攻撃されたからといって大暴れしたり、面倒事ばかり……」


 なるほど、各地に残る暴れるドラゴンの話の一部はリュカのせいなのかもしれない。良太朗とほのかは、この瞬間伝説の真実に触れているのだ。


「そういう事がお互いの世界で発生しての。で、特別な事情がなければ、お互いの世界には行き来しないという協定が結ばれたのじゃ。その内容は、お互いに緊急事態で助けを求められた時と、恩寵を与えたものが居る世界に行くときじゃ」


「えっと……。言いにくいんですけど、リュカに恩寵貰っちゃったんだけど」


「ん。私も加護もらった」


「なんじゃと⁈」


 よっぽど驚いたのか黒猫は高く飛び上がる。ズッキーニ驚く猫の動画みたいだ。その時、背後の鳥居が一瞬光った。良太朗が振り返って見ると、メスガキすがたのリュカがそこに立っていた。


「雑魚の良太朗お兄ちゃん。あそびにきたよ♡ 美味しいご飯ちょーだい♡」


「ブフォォォォ」


 黒猫は吹き出すと腹を抱えて笑い転げる。よっぽどツボにハマったのだろう。一分以上も笑い転げたあと、目に涙を浮かべて言った。


「ププッ、リュカニア。なんじゃ、その格好は? ププッたまらん」


「なにって、良太朗とほのかのイメージから人化したんだけど? 雑魚神には理解できないのかなあ?」


 リュカの返事にまたもや笑い転げる黒猫。黒猫は笑いすぎだと思うが、良太朗も伝説や神話に登場していたドラゴンが、このメスガキになっていると思うとじわじわ来るものを感じる。


「これがカッコいいのではないのか?」


「ん! カッコいい」


「格好いいなどと、そんな訳なかろう。ププッ」


 リュカは顔を真赤にして震えている。さすがにリュカも人化のスタイルを変えるだろうから、メスガキリュカはこれで見納めになるだろう。良太朗はそう思っていたのだが。


「リュカ、当分はその格好になるのじゃろ? ウケる。ププッ」


「え? もしかして人化って自由に姿をかえられるんじゃないのか?」


「百年じゃよ。リュカの奴、これから百年は人化するたびにメスガキになるわけじゃ。ププッ」


 笑い転げる黒猫とプルプル震えるリュカ。修羅場になる予感しかしない。良太朗はどうしたものかと頭を抱えるのだった。

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