第7話 私と対決
「相変わらず生意気そうな顔してるわね。ひまわりしっかり抑えなさいよ。」
「お姉ちゃん、あんまり悪口は良くないよ。城野さんには何とか戻ってきてもらわないと、私困るもん。ひまちゃん頑張ってね。」
「ありがと、ホノカ、ノノちゃん。大丈夫、必ず抑えるから。」
マウンドの周りに内野陣が集まり対決の準備を始める。強気なセカンドの草場ホノカ(5年生)と心配そうなショートの草場ノノ(4年生)は姉妹であり夕陽リトルの女子選手として3人はいつも一緒にいる。
「城野は性格があれだが野球の実力は確かだ。足も速いから内野安打で決着なんてならないようにしっかり守っていこう。そしてしっかり戻って来てもらって今年は絶対に朝風リトルに勝つぞ。」
「うん! もちろんだよ、キャプテン!」
「まぁレンの言う通りだが、俺はまだあのキャッチャーも怪しいと思ってるんだよなあ。月山だっけ? 声掛けても大空としか喋ってないし、大丈夫なのか?」
「リュウくんは大丈夫だから。マサくんもバッテリー組むと思うし、しっかりと見てて。」
サードには夕陽リトルのキャプテンである大葉レン(6年生)がファーストには投手もやっている左投げの古井マサヒコ(6年生)が守る。
マウンドの集まりに今日初めてキャッチャー防具を装着した月山が近づいてくる。
「ひまちゃん。」
「リュウくん。防具似合うね、カッコいいよ!」
大空の言葉に少し照れながら、月山はすぐさま勝負の顔になる。
「昨日の練習通りで良いから、頑張ろう。」
「うん、勝つよ。」
「よし! 皆んなしっかり守っていくぞ!!」
「「「おおーーーーー!!!」」」
キャプテンの掛け声で選手がポジションに着く。そしてバッターボックスには城野が素振りを終え近付いて来ていた。
「月山、お前野球できたのかよ。」
「………。」
「クソっ、デクの棒が無視しやがって、大体あのノーコンでトーナメント勝てるわけねぇだろうが。」
「黙って見てろ。ひまちゃんは天才だ。俺が最高の投手にしてみせる。」
「いい性格変してやがるな。1球で終わらせてやる。」
主審をする監督が用意を終えキャッチャーの後ろへ立つ、マウンドの大空の顔も変わりプレイボールの声が掛かるのを待った。
「プレイボール!」
城野は左バッターボックスに立ち構える。チーム内で1番足が早く俊足巧打のショートとして選抜候補にも上がった事のある実力者だ。
「!?」
チームメイトも見慣れないセットポジションからの投球フォーム。先週とは比べものにならない綺麗なフォームだ。
ズバーーーーン!!
「ストラーーイク!」
「なっ、、」
大空の新しくなった姿に城野は驚きの表情を見せる。ストレートの球速も確実に前より上がっているが、何よりキャッチャーミットに目掛けてコントロールされたボールに手が出なかった。
「(この短期間でひまわりの成長も凄いが、何より月山くんのキャッチングだ。。色々なチームの選手を見てきたが1番上手い。本当に素人だったのか?古田じゃないか。)」
監督は主審の目線から見える月山の姿にかつての名捕手古田敦也を見た。そうそれは月山がキャッチャーを理解するために見漁った動画チャンネルの姿主そのままであった。
「ナイスボール、ひまちゃん。」
「うん!」
返球されたボールを握り直し、またセットポジションで構える。月山は先程のど真ん中より外角低めに構えていた。
「んっ!!」
シユッ!
カツッ!
打ったボールは三塁線のファールゾーンへ飛んでいく。降り遅れながらカットしていくようなバッティングになる。
「(2球目で当てた。さすが城野くんだ。)」
「クソっ、速い、、」
その後も大空は3.4.5.6球目とストレートを外角に投げ続ける。それに対して城野は何とか喰らいつくもフェアゾーンになかなかボールが飛ばない。
「確実にコントロールが良くなってる。ひまわりが6球全部ストライクゾーンに投げるなんて初めて見るわ。それにあの城野がずっと振り遅れてる。元々スピンのかかったストレートだったけど、さらに手元でノビてきてるのかしら。これだと守備も守りやすいわ。」
ホノカが感じた感想はチームメイト全員が感じていた。マウンドには真の才能を発揮し始めている大空の姿がある。
「(なかなか粘るな。しょうがない、最後はあの球だひまちゃん。)」
月山からの新しいサインに対して大空は頷く。そしてインコース低めに構えたミットだけを見続けた。
「ずっと同じコース投げやがって、城野ケンジをなめるなよ。」
城野のバットを握る手が強くなる、狙いは三遊間。外角低めをヒットするイメージは出来ていた。セットポジションから投げ込んでくるボールに対して足を踏み込んでいく。
シュッ!!
「しまった、インコースか!」
予想外に自分のインコースに向かってくるボールにカットして応じようとする城野。
ククッ!!
「!?」
その瞬間ボールは膝元へと変化して月山のミットへと収る。城野はスイングしたまま膝から崩れ落ちた。
「カ、カットボールだと、、、」
「ス、ストラーーーイク!ハッターアウト!」
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