第35話 新たな命
春の陽ざしが窓からキッチンへ柔らかく差し込み、明るい光がテーブルの上の朝食を包んでいた。テーブルには新の好物が色とりどりに並んでいるが、優子の表情はいつもとは違って少し落ち着きがないように見えた。新はそんな彼女の様子に気づき、ゆっくりとコーヒーを口に運びながら、心のどこかで不安がよぎる。
「優子、大丈夫?」と静かに尋ねた彼に、優子は小さく頷きながら深呼吸をした。そして、その瞳が新をまっすぐに捉えると、彼女はふと視線を下に落として口を開いた。
「実はね、新…私たちに赤ちゃんができたの」
その言葉は、新にとってまるで時間が一瞬止まったかのような驚きだった。しばらく言葉が出てこず、ただ優子を見つめたまま、胸の奥から何かがふつふつと湧き上がってくるのを感じていた。ようやくその気持ちが言葉になると、彼は優子の手を優しく握り、声を震わせながら、「本当? ……僕たちに?」と尋ねた。
優子は微笑みを浮かべながらも、瞳には小さな涙が光っていた。「そう、本当よ。驚かせちゃったかしら。でも、私も同じ気持ち。嬉しいけれど、ちょっと不安もあって」
その言葉に、新は優子をそっと抱きしめた。彼女のぬくもりと、伝わってくる鼓動がこれまで以上に強く、自分を安心させるものに感じられる。「ありがとう、優子。君がいてくれるから、どんなことだって乗り越えられるよ。僕たちはこの子のために、一緒に頑張ろう」
彼の胸の中で、優子は安心したように息をついた。手を彼の背中に回し、彼の愛情をしっかりと受け止める。「うん、新となら、きっと大丈夫よね」
二人はしばらくの間、言葉を交わさずに抱きしめ合っていた。キッチンに差し込む春の陽ざしが、二人を優しく包み込み、小鳥のさえずりがどこからともなく聞こえてきた。窓の外では、新芽が柔らかく揺れ、芽吹く命の力強さを表しているかのようだった。新はその光景をぼんやりと見つめながら、自分の人生がまた新しい段階に入ることを感じ、心の奥で静かに未来の重みをかみしめていた。
「これからは、もっと慎重に一歩ずつ進んでいこう」と、新は静かに決意を新たにした。そして、優子を見つめ、改めて囁いた。「一緒に歩んでいこうね。これから僕たちに、どんな未来が待っていても」
優子は優しい笑顔を浮かべ、「私も一緒よ、新。あなたがいるからこそ、この未来が楽しみなの」と答えた。彼女の言葉が、新の心を温かく包み、二人の未来に輝く希望を灯していた。
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