【序】

ここは天地人の三つの目を持つ三目人さんもくじんたちが暮らす世界。

古来より神の住まう湖として崇められる耀湖ようこと、王都耀ようを取り巻く六公国、そしてさらにその周辺を囲む十六侯国が中原各地に割拠し、栄枯盛衰を競っている、そんな世界である。


世界の中心たる耀王の権威も、四十六世八百余載にして漸く衰えを見せ、時代はやがて、諸氏諸侯による中原の逐鹿戦へと移ろおうとしていた。

加えて北狄南蛮諸王が中原に覇を唱えんとし、虎視眈々と進出の機会を狙っていたのだ。


中原諸国の人々は皆、迫り来る動乱の気配を犇々ひしひしと感じながら、明日の安寧を願いつつ、寄り添い合って日々の暮らしを送っていた。


そんな時代に六公国の一つようから、公女伽弥かやが耀王の第二王子儸舎らしゃに嫁ぐために耀湖を渡った。

伽弥はその淑嫣しゅくえんの美貌を持って、<傾国>の名を中原に轟かせていたのだ。


その伽弥が、此度耀の王子妃として嫁ぐことは、巷間の耳目を幾重にも集めていた。

それと言うのも曄国内では、辺境伯胡羅氾こらはんの力が日々増して公室を脅かし、いずれは下克上を虎視眈々と狙っているという、もっぱらの噂だったからだ。


その胡羅氾から伽弥を嫡子の妻にと望まれた曄公は、窮余の策として王室に手を回し、娘と第二王子の婚姻の儀を取り纏めたのである。

衰えたりとは言え王室の権威を利用して、胡羅氾の野望を挫こうという、曄国朝廷の苦肉の策であった。


このように波乱含みの政略結婚のにえとなった、曄姫ようき伽弥は、その運命を粛々と受け入れ、従者たちと共に耀国東都に入ったのである。

物語はそこから始まる。

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