72.町の聞き込み結果

 スケルトン集団と戦った翌日、私たちはクガーたちと合流した。


「三人で三十体以上のスケルトンと戦ったのか。それで怪我がなしと……。初心者冒険者の成りをして、そんな実力を持っていたとはな」

「初心者冒険者でそこまでできる人は限られてますよ!」

「流石は、俺たちを黙らせた実力を持つ人ですね!」


 まずは本題に入らず雑談から始めた、二人が。


「前の所で鍛えられましたからね。思ったよりも強くなっているみたいなんです」

「あの修行の日々は辛かったけれど、やって良かったわね」

「はい! ユイさんの足を引っ張らずに済みますしね。これでユイさんも安心して私たちを信用してくれることでしょう」

「どうして、それだけで信用するんだ。まだ、全然足りない」

「嘘……まだまだだったの!? ……いいわ、これからの私たちの動きを見ていなさい。心から仲間だと思えるくらいにまでなってみせるわ!」


 あっという間に本題から逸れている。それに、ただ一緒に戦っているだけで信用していると思っている事が驚きだ。


「最近、ユイの態度が柔らかくなったから、絆されたのかなーって期待していたのに」

「うん、うん。大分柔らかくなりましたもんね」


 ……私が柔らかくなった? そんなはずは……。


「えっ、これで柔らかくなったのか?」

「そうなのよ。前はもっとツンツンしていたんだけど、最近はそれが少なくなったっていうか……突っかかることが少なくなってきたの」

「これは凄いことですよ。最初は敵視されてましたけれど、今では一緒にいることを許されているように感じます」


 私は気を許したつもりはないし、信用はしていない。だから、突き放していたんだけど……そうは見えなくなってきた? そんな、いつから私は変わったんだ?


「少しずつ会話に入ってくれるようになってきたし、毎日新しい発見があって楽しいわ」

「ユイさんと仲良くなるのがこんなに楽しい事だなんて思いませんでしたよね。もっと、仲良くしたいと思っています」

「……ふん。別に気を許した訳じゃないから」

「ふふっ、今はそういうことにしておくわ」

「今に見ててください。もっと変えてあげますから」


 あんまりいい気分じゃないな。でも、前よりかは怒ることもなくなったような気がする。もしかして、本当に変り始めている? このままじゃいけない、気を引き締めないと。


「仲がいいのはいいことだ。まるで、俺たちみたいだな!」

「ですね!」

「俺たちは仲良し!」


 いや、いい年したおっさんが何を言っているんだ。モヒカンで世紀末の格好をしたおっさんが肩まで組んで……。いけない、流されちゃダメだ。


「あ、それで話を戻すね。私たちがネクロマンサーを探しに外に出たんだけど、見つからなかったのよね」

「といっても、一つの集団を調べただけですから、もっと他にいないか調べるつもりではあります」

「そうか、そっちの成果はそんなものか。まぁ、いきなり当たるほどネクロマンサーがわんさかいるわけじゃないしな」


 そう簡単にネクロマンサーは見つからない。正直、このまま現れないで、不死王の痕跡も見つからないで欲しい。


「じゃあ、俺から報告するぞ。最近はスケルトン……アンデッドの動きが活発化しているらしい。数は増えたのはもちろんのこと、活動範囲が広がったみたいだ」

「スケルトンの異常ですか。アンデッドですから、ネクロマンサーがいてなんらかの作用が働いているかもしれませんね」

「ネクロマンサーが見つかっていないだけで、いる可能性が高いってことね」

「今後スケルトンに何かしらの異常が見つかる可能性が高いだろう。それこそ、ネクロマンサーが関係しているかもしれない」


 もしかして、私たちが受けたクエストもその影響があるっていうこと? でも、あれにはネクロマンサーが関わっていたような感じではなかった。


 ネクロマンサーがアンデッドに関わってる時、アンデッドはネクロマンサーに操られている。だから、動きが機敏だしそこには意思が明確に読み取れる。だけど、今回のスケルトンはそんな意思が見えなかった。


 となると、これから何かが起こる可能性があるのか。あんまり危険なクエストには首を突っ込みたくないんだけどな。まぁ、いざとなれば逃げることも考えておいた方がいいだろう。


「スケルトンになんらかの動きがあるのは分かったわ。他には何かあるの?」

「俺が聞いた話なんですが、聞いてもらってもいいですか?」

「聞きましょう」

「近頃、町の中で行方不明の人が出てきているみたいです。警備隊は捜索しているようですが、手がかりも掴めていないそうなんですよ。町の中であった最近の大きな出来事です」


 町の中で行方不明事件か……。正直、ネクロマンサーと何か関係があるのか分からない。ただ、借金をして失踪したっていうなら気にしないけれど、そういう感じの失踪ではなさそうだ。


「町の人の行方不明事件ですか……。もし、ネクロマンサーが関わっていたら、どんなことが考えられますかね」

「そうね……。ネクロマンサーが欲しいのは死体だから、行方不明の人たちは実は殺されていて、ネクロマンサーに操られているっていうなら話しは合うわね」

「でも、死体が欲しいなら墓場に行けばいいんじゃないんですか? あそこなら、色んな死体がありますし」

「そっかー。墓場に行けば、死体は沢山あるわよねー。わざわざ、生きた人を殺してまで死体を手に入れるっていう面倒をしなくてもいいし……。んー、今回の行方不明事件とネクロマンサーは関係ないかな?」


 ネクロマンサーは死体を操る術を持つ。手ごまが欲しいなら、死体をアンデッド化させればいい。……ん? ちょっと待てよ。


「町の墓場にいる死体は神官によって祈りが籠められた後。体に魂がない状態だから、再びアンデッド化はしない」

「あっ、そうですね! 忘れてました。神官の祈りが終わった後ってアンデッド化しないんですよね」

「えっ、じゃあ……私がいったことはもしかして当たっている可能性があるってこと?」

「……もしかしたら、町にネクロマンサーがいて死体欲しさに殺しているっていう線もある」


 セシルが何気に言った事が現実で起こっていたら……これは大変なことになる。町の中にネクロマンサーがいることになるから、いつどこでアンデッドの襲撃があってもおかしくない。


「じゃあ、今後は町の中で活動をした方がいいってこと?」

「でも、活発化しているスケルトンも気になりますよ」

「町の事は俺たちに任せろ。何かがあったら、すぐに伝える」

「その方がいいね。まだ、どこにネクロマンサーがいるのかは分からないんだし」


 まっ、本当にいるかも分からないけれどね。


「じゃあ、最後は俺の報告を聞いてください。門番から聞いた話なんですが、先月の事だったらしいです。黒いローブを纏った人が門から出ていったらしいんですよ」

「まぁ、何の変哲もない話しよね」

「その門番がふと視線を外したらしいんです。そして、また視線を黒いローブの人に向けたんですが、忽然と消えていたらしいんですよね。本当に少し視線を外すだけで忽然と消えることがありますか?」


 最後の報告は怪しい人物の事だった。黒いローブを着た人が突然何もないところで姿を消す……確かに怪しい感じではある。


「もしかしたら、それが不死王なのかもしれません! やっぱり、この町に訪れていたんですよ!」

「えー、それだけで不死王に決めつけるのは早くない? 確かに怪しい感じはするけれど、そんな人は他にもいるし……」

「一瞬で忽然と消えることができる人っていませんよね。それなりに力がないとできない芸当だと思うんです。力がある人物……北に去って行った不死王ですよ」


 フィリスが鼻息を荒くして熱く語っていた。だけど、セシルも私も半信半疑だ。それだけで不死王と断定するのは早い。何か他にも情報があって、それと整合性が取れればあるいは……。


「これが町で手に入れた情報だ。何か役に立ったか?」

「はい、とても役に立ちました! 聞き込み、ありがとうございます!」

「とりあえずの方針は決まったわね。私たちは怪しいクエストがあったら受けて、外でネクロマンサーを見つけること」

「私たち自身のレベルアップも兼ねて、外で活動していた方がいいですしね」


 まぁ、それが無難だろう。色々と情報は手に入ったが、ネクロマンサーに繋がる情報は無かった。このまま、何事もなく終わればいいんだけど……。

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