71.スケルトン集団戦

「あっちから、沢山のスケルトンの反応があったわ」

「というと、そこが目的地のようですね」

「さっさと行って、終わらせよう」


 セシルのサーチ魔法のお陰で、迷うことなく真っすぐに目的地につけそうだ。


「ネクロマンサーはいるでしょうか?」

「居たらいいね。そしたら、不死王の後を辿れるんだもの」

「……そう簡単に見つかるわけがない」

「希望をみるくらいいいじゃないですか。きっと、ネクロマンサーが見つかって、不死王が行った先が分かって、不死王が見つかって……倒すんです!」

「そうなったら、私たちは有名人ね!」


 二人は不死王を倒したことを想像して盛り上がっている。いやいや、こんな駆け出しの冒険者が不死王を倒せる訳がない。魔王っていう存在はそんなに弱くないはずだ。


 できればこのまま不死王もネクロマンサーも見つからないほうがいい。世界の平和に命をかけられるほど、無謀な挑戦はしたくはない。このまま異世界で普通の暮しができればそれでいいのだから。


 意気揚々と進む二人を見て、そんな事を思う。二人には悪いけど、ネクロマンサーが見つからない方に願おう。……いや、別に悪いと思わなくてもいいんじゃないか? 私は二人の事なんて、なんとも思ってないわけだし……。


「あっ、見て。向こう側に何かいるわ」


 その声にハッと我に返った。すぐに木の影に身を隠して、そちらの方を見る。遠くにスケルトンの姿が見えた。それも一体や二体じゃない。数十体はいるように見える。


「あれがスケルトンの集団ですか。かなりの数がいますね」

「報告では二十くらいっていう話だったけど、それ以上はいるわね。きっと報告の後に数が増えたんだわ」

「あれは三十くらいはいますよ。初戦で三十って多くないですか?」

「ゴブリンの時と同じぐらいの数だから、なんとかなるだろう」

「もう、ユイったら自信たっぷりなんだから。でも、あれくらい軽く倒せないと不死王とも戦えないわね」

「だったら、戦ってみせます。華麗に殲滅してやりますよ」


 不死王の名を出すと、フィリスのやる気が高まった。一応、不死王と戦うのに力が足りていないとは思っているみたいだ。まぁ、そうじゃないと困る。


「ここは、みんなで協力してスケルトンを倒しましょう。連係よ、連係をするのよ!」

「連係、いいですね! ここで今まで育んだ友情パワーを発揮するのです!」

「そんなことはどうでもいい」

「どうでも良くないわ! 私たちはパーティー、お互いを助け合わなくっちゃ!」

「どうやって連係を取りましょうか。ユイさんを軸に考えて……」


 また余計なことを言い出した。最近は落ち着いたと思ったら、これだ。いい加減、普通に戦えばいいのに。一々、連係の事なんて考えてられない。


 さっさと始めるか。腕輪からメイスに変えてから、祝詞を唱える。


「神よ、悪しき者を払い、迷える魂の導きの力を私たちに与え給え」


 手から光が出てきて、私たちを包み込んだ。


「あれ? 今度の浄化魔法の付与はユイさんも、なんですか?」

「アレを倒すのに、一々浄化魔法を発動するのは面倒だから。自分の武器に付与しておく。そしたら、殴るだけで魂の浄化ができるからね」

「なるほど、そういう使い方もあるのね。浄化魔法も普通の魔法のように使えればいいのにね」


 浄化魔法を普通の魔法のようにか……それができるようになれば、アンデッド戦は楽になるな。時間がある時にでも、考えてみるか。


「まず、誰からいきます?」

「遠距離攻撃のできる私から行くわ」

「じゃあ、セシルさんの魔法が発動したら私たちが飛び込む感じでいいですか?」

「……別にいい」


 まぁ、無難な戦い方だろう。思ったことを口に出すと、二人はなんだか嬉しそうにしている。一体、なんだ?


「ふふっ、ユイがちゃんと連係を取ってくれるようになって嬉しいわ」

「これから、ガンガン連係を取っていきましょうね。友情パワーを育みましょう」

「なっ……別に連係を取るなんて言ってない!」

「いやいや、今は自然の流れでしたよね?」

「うんうん、そうそう」


 なんでこの二人はわざわざそんなことを口に出すんだ。調子が狂う。


 すると。セシルが立ち上がって杖を構える。


「一番目は頂くわね。漲る魔力よ、砕けぬ石にその身を変え、敵を穿つ衝撃を放て。ストーンバレット!」


 構えた杖の前に尖った石が無数に現れると、勢いよくスケルトンに向かっていった。尖った石は無防備なスケルトンを襲い、強烈な一撃になる。あっという間に三体のスケルトンがバラバラになって、地面に散らばった。


「行きましょう!」

「言われるまでも……」


 その瞬間、私たちは駆け出した。突然の奇襲に慌てふためいているスケルトンの集団の前に出る。今が絶好の攻め時だ。特大のメイスを思いっきり振ると、二体のスケルトンを捉えた。そして、力任せに衝撃を与えると、スケルトンはバラバラになって飛び散った。


 敵が現われ、スケルトンたちは臨戦態勢に入った。私の姿を認識すると、スケルトンたちが襲い掛かって来る。だが、スケルトンが私に一撃を与える前に、私のメイスが間合いに入る。


「はぁっ!」


 襲い掛かってきたスケルトンに向かって、特大のメイスを横一閃に振るった。浄化魔法が乗ったその一撃に触れたスケルトンは一瞬にして絶命して、バラバラになって飛び散る。


 それでも、その一撃の中に入らなかったスケルトンがいた。私との距離を縮め、槍を突き出してくる。その槍の動きに合わせて、足を上に蹴った。足先は槍先に当たり、軌道が逸れる。その時、スケルトンに隙が生まれた。


 その隙、見逃さない。すぐにメイスを持ち上げて、力の限り振り下ろす。スケルトンはメイスで押し潰され、あっという間にバラバラに散っていった。


 その時、後ろから気配がした。視線だけ後ろに向けると、すぐそこにスケルトンたちが剣を振り上げていた。咄嗟に片手をスケルトンの前に出し、心の中で祈りを捧げる。


 伸ばした手の先に聖魔法の防御が展開され、スケルトンたちが振った剣を受け止めた。それでもスケルトンは剣を押して、防御を突破しようとしている。


 その隙に片手で持ったメイスでスケルトンたちを横一閃に薙ぎ払った。浄化魔法に触れたスケルトンは魂が浄化され、その体はバラバラになって散らばる。


 あと、何体だ? 周りに視線を向けると、立っているスケルトンが残り十体くらいになっていた。もう一息だ。メイスを担ぐと、残りのスケルトンに立ち向かっていく。


 ◇


「大勝利、ですね!」

「いやー、ここまで戦えるなんて思いもしなかったわ」

「これくらいできて当然」


 戦闘が終了して、私たちは一息ついた。二人とも怪我はないみたいで、回復魔法の必要はない。


「私は八体倒しましたよ!」

「ふふん、私なんて九体よ」

「あー、一体負けましたー! ユイさんはどれくらい倒したんですか?」

「……十体以上」

「はい、ユイさんの勝ちー!」

「分かっているけれど、悔しい!」


 戦闘後もこの二人はうるさいな。少しは黙ることを知らないのか?


「お目当てのネクロマンサーは居ませんでしたね。残念です」

「今回は当てが外れたってことね。次に期待しましょう」

「まだ、探すのか? どうせ、見つからない」

「ユイさん、やる気を出してください! 世界の平和は私が守るだー! って」

「絶対に言わない」

「ユイがそんなこと言ったら、お腹抱えて笑いそうだわ」


 全く、人をなんだと思っているんだ。まぁ、ネクロマンサーが見つからなかった事は良しとしよう。この後も見つからずに、面倒ごとにならないで欲しい。


「町に帰って、クガーさんたちの成果を聞きに行きましょうか」

「そうだね。何か情報があるかもしれないし、帰りましょう」


 さて、向こうはどんな情報を拾ってくるかな。できれば、何も成果がないことを祈ろう。

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