27.今後の方針
「スマホによると、ここの宿屋がいいんだって」
セシルの先導でやってきた一軒の宿屋。清潔感のある中規模の宿屋で雰囲気は良い。
「スマホってそういう情報も載っているんですね。とても便利です」
「まぁ、そういうお得な情報を集めているサイトがあるお陰だよね。こうして、良い情報が簡単に手に入るのはいいでしょ? さぁ、中に入ろ」
ここまで来たらもう逃げられない。私は諦めて、二人と一緒に宿屋に入っていった。中に入るとこじんまりとしたカウンターがあって、そこに頬杖をついたお姉さんが座っていた。
お姉さんはこちらを見ると、パッと笑顔になった。
「いらっしゃいませー。お泊りですか?」
「はい! 三人部屋って空いてますか?」
「ちょ、ちょっと待って! 三人部屋って、三人で一緒の部屋なの!?」
「パーティーを組んだらそうなりますよね?」
「うん、おかしくないよ」
そんな……また誰かと同じ部屋だなんて。ようやく一人になれると思ったのに……。
「私は一人部屋がいい」
「一人部屋なら料金が高くなっちゃいますよ。三人部屋なら一人三千五百オール、一人部屋なら七千オールします」
料金が二倍違う、だと?
「駆け出しの冒険者の私たちには七千オールは高いと思うよ。それとも、お金が沢山あるの?」
「……五万オールしかない」
「それだと心もとないですよ。他にも出費はありますし、ここは三人で一緒の部屋に泊まったほうがお得です」
武器で支援金を使い果たした弊害がここに来て……。くっ、追加の支援金は多くなかったし、今の状態で一人部屋はキツイか。前の世界ではお金のことを気にしなくて平気だったのに、異世界は世知辛いな。
「……今は相部屋で我慢する」
「良かった。じゃあ、とりあえず三泊お願いします」
「はーい。ここに名前を書いて、宿泊数も書いておいてください。一人、一万五百オールです。あ、食事は別料金ですよ。朝食は七百オール、夕食は千オールです。お金は都度支払ってくださいね」
台帳を受け取ると、そこに自分の名前と宿泊数を書く。そして、宿泊費を払う。残金が四万を切ってしまった、他にも食費が出ていくからこれからまた減る。早くお金を稼ぎにいかないと生きていけない。
「では、お部屋は一階の十二号室になります。シャワーは一階にあるので自由に使ってくださいね」
お姉さんから鍵を受け取ると、私たちは廊下を進んだ。進んだ先に十二号室と書かれてある部屋の前に辿り着き、その扉を開ける。ベッドが等間隔に三つ並べられて、小さなタンスと机とイスが置いてあった。
「私は端」
「じゃあ、私は真ん中ね」
「私はもう片方の端を貰いますね。でも、真ん中なんていいんですか? 端の方がいいんじゃ?」
「真ん中だと、ユイの隣だからね。隣に居なきゃお話できないでしょ?」
「あ、なるほど」
……げっ。話をするためにセシルが真ん中を取ったのか。こんなに冷たくしているのに、なぜ構ってくるんだ。うっとうしくて堪らない。
「夕食まで時間があるし、このままお喋りしちゃう? お互いのことを知るために、沢山お話したいしね。それに地球のことも聞きたいし、ユイの事ももっと知りたいし」
「友情を深めるのも大事ですが、これからこのパーティーは何を目指していくのか決めましょう」
「パーティーの目標ってことね。色んな目標があるわね。お金を稼ぐ、名声を高める、冒険者の上位ランクになる。どんな目標がいいかしら?」
「だったら、とっておきの目標があります!」
フィリスが目を輝かせて、両手を握りしめた。一体どんな目標なんだ?
「魔王を倒す! これが最高の目標です!」
……魔王? そんな危険なことを犯す必要があるわけ?
「私は家の名声を高めるために、功績を上げたいと思っています」
「なるほどー、だから魔王討伐を目指しているのね」
「はい。魔王を倒すと正式な勇者に認定されますから、それを狙っています。お二人も大魔導士や大聖女と言われるようになると思いますよ」
「大魔導士……響きは素敵ね」
私はそんな名声はいらない。私は安全に生きていければそれでいい。折角、ゾンビのいない世界に来たのに、命をかけて強敵と戦わないといけないんだ。
「ユイさんはどうですか?」
「私はパス。元々、アンデッドを倒して生活しようって考えてたから」
「アンデッド……そしたら、私たちが目指すのはアンデッドの王と言われる不死王ですね!」
「人の話、聞いてた!?」
「はい、聞いてました! アンデッドを倒すには、不死王を倒せばいいってガイドブックに書いてありました」
「……ガイドブック?」
「はい! えーと、これです! 魔王討伐ガイドブック! なんと、一万オールもしちゃいました!」
……はっ? 魔王がガイドブックになっているの? 馬鹿じゃないの? 呑気過ぎじゃない? そんなことでお金を稼ぐよりも、無償で冒険者ギルドとかに情報を下ろせばいいのに。
「このガイドブックによると、不死王が存在しているせいでアンデッドが生まれると言われています。まるで、神のような存在ですね。それで、居場所なんですが……この魔王だけ居城がないんですよ。神出鬼没の魔王とされてします」
「へぇ、魔王って城にいるものじゃないのね」
「数年前までは姿を見せていたらしいんですけれど、突然パッタリと姿を見せなくなったって書いてあります。でも、それから魔王の下僕のネクロマンサーが急増したみたいですね。各地に出没するネクロマンサーが多くなったみたいです」
「魔王が姿を見せずに、下僕が姿を見せる……何か不気味ね。何を考えているのか分からないわ」
「ですね。前は魔王討伐ランクBだったんですが、今は測定不能になっています」
そのガイドブックが信用できるのか、それが問題だ。誰かが適当に書いた内容じゃないんじゃないか? それを簡単に信じるなんて馬鹿のすることだ。
「ユイさんがアンデッドを狙っているのでしたら、不死王を倒しましょう! 目指せ、正式な勇者認定!」
「魔王を倒すなんて、夢よねー。異世界転移してきたユイがいるなら、できちゃいそう。目指せ、魔王討伐!」
呑気な声を出して、二人は子供のように目を輝かせて拳を上げた。
……ダメだこいつら、早くどうにかしないと。そんな気軽に魔王が討伐されてたまるか! 異世界人の頭の中はどうなっているんだ!
早く、早くパーティーを解散しないと。面倒ごとがやってくる気がする。何か、パーティーを解散させるいい方法はないか? やはり、初めが肝心。初めのクエストで現実を思い知った方が良い。
初心者が受けれるもので、初心者殺しのクエストがいい。確か、漫画やラノベでは初めの討伐はゴブリンの討伐が相場だった。でも、その中でもゴブリンの方が上手で上手くいかなかった展開もあった。
そういう展開にして、この二人には実力不足だと思い知ってもらおう。そして、それを理由にパーティーを解散させる。うん、この方法がいい。
明日、冒険者ギルドに行ってゴブリン討伐のクエストを受けよう。一番厄介そうなものを選んで、現実を身をもって知れ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます