24.パーティーを組む?
あぁ、面倒くさいことになった。私は今、絡んできた二人と一緒にテーブルについている。この二人がいがみ合っているのは私のせいじゃないのに、あの受付嬢は処理を私に押し付けてきた。
この場から逃げたくなって席を立つが、その度に二人の手ががっつり掴んできて逃げ出せずにいる。くそっ、冒険者登録後のイベントがこんなに面倒なものだって、漫画やラノベに書いてなかったのに!
「まずは自己紹介をしませんか? 私の名前はフィリス・ストロングウォードといいます。年は十四です。勇者養成学校を卒業しています」
「私はセシル・シュヴァリエよ。見ての通りのエルフで年は十三よ。魔術師養成学校を卒業したわ」
「……鏑木ユイ。十二。神官養成学校を卒業した」
「あら、その名前は独特だわ。なんだか、日本式じゃない?」
「……気のせい」
「ふーん。地球の文化が入ってきて、名前の付け方も真似したのかしら。それにしても、名前まで地球式……いいえ、日本式なのは流石地球マニアだわ。絶対、私たち気が合うわよ!」
セシルという少女は地球の物にかなり執着しているみたいだ。もしここで、私が異世界転移をしてきた人だと知るとどんな反応になるか想像がつく。絶対に言わないようにしておこう。
「一応、証明書を見せ合いましょう。嘘を言っていないと思いますが、確認をしたほうがいいと思います。私の証明書はこちらです」
「私はこれね」
「……どうしてそんなことを」
フィリスの言葉によって証明書を出すことになってしまった。正直言って面倒くさい。そこまでして証明する必要は感じないし、早くこの場から立ち去りたい。
話が早く進んだほうが懸命か。私は渋々、証明書を出した。テーブルの上にみんなの証明書が提出され、それぞれが表示された文字を確認する。
「確かに、みなさん言った通りですね。セシルさんは魔術師で、ユイさんは……えっ?」
「何かあったの? どれどれ……えっ?」
二人が私の証明書を見て、固まった。
「ここ……職業欄……神官じゃなくて、聖女に……」
「聖女って神官の上位職じゃ」
フィリスが物凄い形相になって証明書を眺め、セシルが手て口を押えて驚いている。すると、バッと勢いよくフィリスがこちらを見た。
「ここここここれっ、本当ですか!?」
「……まぁ」
「卒業したばかりなのに、もう上位職?」
二人は分かりやすく驚いて見せた。フィリスは私の証明書を両手で持って、高く掲げる。
「凄い人と知り合えました! 絶対に、何が何でも、パーティーを組んでもらいます!」
私が上位職だと知るとフィリスの目の色が変わった。くそ……今まで以上に目をつけられてしまった。証明書を出すのを拒めば良かったか?
「あら? もう一枚出ているわね……こ、これは!」
証明書の後ろにくっ付いていたのだろう、もう一枚の証明書がセシルの目に止まった。
「地球人の証明書! と、ということは……ユイは異世界転移者!?」
しまった、一番見られなくないものを見られてしまった。適当に出したせいで、証明書同士がくっ付いていることに気が付かなかった。
「えっ、えっ、嘘! ユイが異世界転移者だったなんて! ほ、本物……本物よね!?」
「さ、触るな!」
「は、初めて地球人と出会った……こんな日が来るなんてっ!」
プルプルと震えながらセシルが私を触りに来たが、私はその手を乱暴に振り払った。だけど、そんな事は全く気にしないのかセシルは両手を組んで、祈りを捧げているみたいだ。
私の前には証明書を高く掲げて感激しているフィリスと、両手を組んで感謝の祈りを捧げているセシルがいた。……なんか良くない展開がきそうだ。
相手が何かを言う前に私の意思を言ってしまおう。
「私は誰ともパーティーを組む気はない。だから、話はこれでおしまいだ」
私の一言にフィリスとセシルが現実に戻ってきた。二人ともとても驚いた顔をして、身を乗り出してくる。
「そんな! 一人で冒険するなんて危険すぎますよ!」
「折角、地球人と出会えたのにここでお別れなんて嫌よ!」
「そんなの知るか。信用できない人と一緒に行動するのが嫌だ。パーティーを組みたいなら他の人を当たって」
「そんなの嫌です! ユイさんがいいんです!」
「私もユイじゃないと嫌だわ!」
絶対に下心があるだろう。そんな人たちとは一緒になんかいられない。今日知ったばかりの人たちと一緒にいるのは耐えられない。神官養成学校にいた頃は我慢していたが、もう自由になった私を縛り付けるものはないはずだ。
「……嫌です。折角、いい人に出会えたのに……ここでお別れなんて嫌です! しかも、上位職! こんなに凄そうな人を手放せるわけがありません!」
「私だって手放せないわ! ようやく出会えた地球人! 地球マニアとしては、貴重な現物から離れるなんて愚者がすることよ!」
「下心丸出しか! 余計に離れたくなる!」
なんなんだ、この人たちは。普通下心は隠していくものじゃないのか? 人の気も知らないで、そんなものをさらけ出すなんて馬鹿のすることだ。そんな馬鹿な人たちとは一緒にいたくない。
何か適当なことを言って諦めてもらおう。
「……パーティーを組んで得をするのは、お前たちだけだ。私にはなんの得もない。そんな状態でパーティーを組むと思うのか?」
「得……ですか」
「確かに……」
私に全くメリットのない話を受けると思っていたのか? 本当にバカバカしい。
「……私、実は……伯爵家の令嬢です」
伯爵家の令嬢? ……ということは、貴族の者だったのか。こんな時にそんな重要なことを言うなんて何を狙っている? 貴族の力を使って従えようとするのか? それなら、益々パーティーを組むのを拒みたい。
「だから……私……家のお金で買ったマジックバッグを持っているんです!」
フィリアはテーブルの上にドン! と一つのバッグを取り出した。
「このマジックバッグがあれば、重たい物や嵩張る物を簡単に持ち運べます! 冒険初心者でマジックバッグを持っている人なんていませんよ! 私と一緒にパーティーを組めば、このマジックバッグを使いたい放題です!」
「くっ、やるわね。まさかマジックバッグを取り出してくるなんて」
それも漫画やラノベで知っている。バッグの中身が拡張され、見た目以上に物が入る魔法の鞄だ。特別な魔法の鞄で値が張るものだということも知っている。
確かに、マジックバッグがあれば冒険は楽なものになるだろう。……まともな、提示をしてきたな。
「だったら私はこれよ、スマホ! 様々な情報をいち早く見れる優れモノよ。最近、色んなアプリやサイトが出来始めて、冒険をするのに役立つ情報とか見れるんだから。しかも、高価なものだから中々手に入らないわよ」
「スマホですか……そのような物だったのですね」
前の世界にあったものだから知っている。まだ両親がいた頃、みんなスマホで色んな情報を確認していた。情報は武器だ。この異世界にも普及しているのは意外だが、興味はある。
「ど、どうですか? マジックバッグはとっても良いものですから、冒険の手助けになると思います」
「スマホで見られる情報の有用性は間違いないわ。絶対に役立つものよ」
二人は身を乗り出して、私に訴えかけてきた。マジックバッグ、スマホ……どちらも良いもので、近くにあれば役に立つだろう。だけど、私は……。
「信用できない人とパーティーは組めない」
ぴしゃりと言い切った。その言葉に二人ともとても残念そうに顔を歪める。これでいい、私は一人でいたいのだから。スッとその場を立って、この場からいなくなろう――とした時。
二人に思いっきり腕を引っ張られた。
「に、逃がしてなるものですかー! パーティーにしてくれるまで離しません!」
「ここで地球人を逃さないわ! 絶対に一緒に冒険に出るんだからー!」
「人を掴むな、引っ張るな! 私は絶対にパーティーを組まない!」
「信用はこれから築きますから! まずは、お試しでもいいですから! パーティーを組んでください!」
「まずは知ることから始めよう! そしたら、きっと信用できるようになるから! だから、ちょっとだけ、ちょっとだけだからー!」
「うるさい! 離せ! 私は一人でいたいんだー!」
どうしてこのイベントは終わらないんだ! ハッ、まさか……はい、と言わないと進まないのか? はいを選択するまで、ループを繰り返すっていうヤツじゃないだろうな!
強制パーティー加入っていうイベントなのか、これは!
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