23.絡んできた人たち
声が聞こえた方に振り返った。そこに立っていたのは、私よりも身長の高い少女だった。ピンクブロンドの髪をサイドテールにして、金属の鎧を纏った人物で背中には大剣を背負っている。年齢は私よりもちょっとだけ上に見えた。
予想していた人物よりも随分と若いな。私の予想では厳つい人物か悪い顔をした男性だったのだが。こんな可愛らしい人物がいちゃもんをついてくるのが想像できない。
いや、可愛い顔をして腹で何を考えているかは分からない。私の見た目が小さいから、簡単にカツアゲができると思って話しかけてきたに違いない。私に話しかけたことを後悔させてやる!
「冒険者登録をしていたのですか?」
「そうだと言ったら、何?」
「それでしたら、あなたに用があります」
冒険者登録をしてから起きるイベントだ。さぁ、どんな手で来る? 実力を試してやるから、と外に連れ出すか? それとも新人に色々教えてやるから、と外に連れ出されるか? それとも――
「私は先日、勇者養成学校を卒業しました」
……勇者養成学校? それにはいい思い出がない。私に突っかかってきた奴がいた。アイツは弱かったけれど、アイツが現れたから捕まってしまったんだ。
今回もその同胞に絡まれたのか? なんだか、いい予感がしない。私を一体どうするつもりだ!
その少女を睨むがその少女は全く靡かない。それどころか表情を引き締めて、気張った表情になった。来る! 私は咄嗟に身構えると、その少女は勢いよく動き出す!
少女は勢いよく床に這いつくばり、頭を床につけた!
「どうか、私と一緒にパーティーを組んでください!!」
……はっ?
「私! 勇者養成学校で落ちこぼれで! それが冒険者ギルドにも知れ渡っていて! 誰もパーティーを組んでくれないんです!」
……いや、出会って早々にそんなことを正直に言う?
「そこで! 新しく来た人なら、私が落ちこぼれだっていう噂も知らないから! パーティーを組んでくれると思って!」
……いや、だからさ。もう言っちゃってるんだけど。
「だから! 騙されて、私とパーティーを組んでください! なんでもしますから、お願いします!」
どこをどう騙そうとしていたのか全然分からない。何……この人は馬鹿なの? もう全部言っちゃってるじゃん。
そんなことには気づかずに、その少女は床に頭を擦りつけて私に懇願をしていた。だけど、いつまで経っても反応がない私が気になったのか、ゆっくりと顔を上げてこちらを窺ってくる。
「あの……パーティーを、ですね」
「落ちこぼれだと知って、どうしてあんたとパーティーを組むの?」
「ど、どうしてその話を!?」
いや、こいつは自分の言ったことを本当に気づいていなかったのか。凄くショックを受けた顔をしているけれど、それに付き合う必要はない。
「それに私は誰ともパーティーを組まない」
「そ、そんな!」
「だから、あんたとも組むつもりはない」
「……そういうことなら、こうです!」
はっきりと断ったはずなのに、その少女は私の腰にしがみついてきた。
「私をパーティーの一員にしてくれるまで、離れません!」
「実力行使に出てくるな!」
「なんとでも言うといいです! 絶対に離れませんからね! さぁ、離して欲しくば私をパーティーの一員にするのです!」
「くっ、なんて面倒くさい奴!」
なんか、思っていたイベントと違う! なんで、分かりやすくて対処しやすいヤツじゃないんだ! もっと暴力で解決させろ!
「ちょっと待った!」
その時、離れたところから声が聞こえた。この忙しい時に一体なんなんだ、今日は厄日か何かなのか?
そう思って振り向くと、そこには一人の少女が立っていた。金髪の長い髪をして、髪の毛から長い耳が飛び出している。魔法使いのようなコートを羽織って、スカートにブーツを履いている。年齢は私よりもちょっと上に見えて、背は私よりも高い。
あれは、漫画やラノベで見たことがある……エルフだ。そうか、この異世界にもエルフがいるのか。突然の異世界要素に気を取られていると、その少女がツカツカと近寄ってくる。
「その服は地球産のデザイン。しかも、かなり精巧にできている。この世界では中々見かけられないものね」
……私の着ている服を考察し始めた? もしかして、それだけで地球人だと分かってしまった? こんな場所で地球人だとばれたら、面倒ごとを呼びそうだ。くっ、面倒くさい奴に目をつけられた。
「そして、見事な黒髪。その綺麗な黒髪は日本人特有のものだと分かるわ」
こいつ、何者だ? 人のことを暴いて、何が目的なんだ。ここで地球人だとバレルと面倒くさい。まさか、バラしたくなかったら言う事を聞けっていうの? ……どうする、殺るか?
その少女は私の目の前に来ると、見下ろしてきた。今も腰にしがみついている少女よりも低いが、私より高いため自然と見上げる形になってしまっている。近づいてきて威圧するつもりか?
「あなた……」
「……なんだ?」
「私と同じ、かなりの地球マニアね!」
「……はっ?」
……地球、マニア?
「あなたの着ている服、雑誌で見たことがあるわ! って、言っても絵だったけどね。現実にはない服を着ているなんて、あなたが作ったのは間違いないわね。自分で服を作るなんて、あなたは地球マニアなのは間違いないわね」
「……何の話をしているんだ?」
「実を言うと私も地球の文化や食べ物の沼に嵌ったマニアなの! だから、冒険者ギルドで私と同じ地球マニアの人に出会えてとても幸運だわ! これは、そう! パーティーを組なさいって言っているようなものよ!」
「ど、どうしたらパーティーを組む話になるんだ! 訳が分からない!」
なんだ、こいつ! 頭がおかしいんじゃないか!? 何が地球マニアだ! どこからパーティーを組む話が出てきた!?
「あなたと私、絶対に気が合うと思うの。だって、同じ地球マニアだから!」
「勝手に同じにするな! それにどうしてそこからパーティーを組む話になる!?」
「だって、あなたも一人、私も一人。だったら、パーティーを組むっきゃないでしょ!」
「意味が分からない!」
全然、話が通じない!
「ちょっと待ってください! パーティーを組むのは私です!」
こっちに話が通じてしまった!
腰にしがみついていた少女が腰から離れ、その少女と対峙する。
「この人は私とパーティーを組むんです! だから、引いてください!」
「いいえ、パーティーを組むのは私よ。引くのはあなたよ」
厄介な人たちに絡まれてしまった。冒険者登録をするだけで、こんな面倒くさいイベントが起こるなんて……異世界怖いな。
「私がはじめに声をかけたんですから、私を仲間にするべきなんです!」
「そんなことはないわ。同じ地球マニアとして気が合う人と仲間になるべきよ」
「そんなの他の人にだって同じ人がいますよ! そっちに行ってください!」
「いないからこうして話しかけたんじゃない。やっぱり、この人は私とパーティーを組むべきよ」
あぁ、頭が痛い。話が通じない人の相手をするのはもういやなのに。……そうだ、この二人を置いて逃げてしまえばいいんじゃないか? 別に私には関係のないことだ、この二人がどうなろうと知ったことではない。
二人がいがみ合っている今がチャンスだ。私は静かにその場を立ち去ろうとした時、手首をガッと握られた。だ、誰だ!?
振り返ると、カウンターから出て来ていた受付嬢が凄みのある笑顔でこちらを見下ろしてきていた。
「ここでの話し合いは他の冒険者の迷惑になりますので、あちらの席に移動してください」
「いや、私は話し合うつもりは……」
「ここは迷惑になりますので! この二人を連れて! 向こうに移動してください!」
「……分かった」
物凄い威圧を感じて、その受付嬢に逆らえなかった。私は渋々二人を連れて、テーブル席が沢山ある方へと移動していった。
こんなはずではなかったのに……!
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