9.聖魔法授与の祈り

「それでは授業を始めます」


 聖堂で授業が始まったことにより、神官見習いたちから解放された。聖女に選ばれた私にご利益があると勘違いした人ばかりで、そのご利益に与りたいと思った人たちによって私は揉みくちゃにされる。


 どうしてここまで私が歓迎されるか分からない。地球人の上に聖女に選ばれたのだから、嫉妬や妬みがあるだろうと思ったのに……何もなかった。おかしい……漫画やラノベでは嫌な展開が目白押しだったのに。


 もしかして、みんなで何かを企んでいるのか? 私には知らない何かを知っていて、それを利用するために取り入ろうとしているのか? ……でも、あれは取り入ろうとしているようには見えなかった。


 何はともあれ、油断はできない。ここは異世界だ、何が起こるか分からない。用心するのに越したことはないだろう。近づいてくる人は全てを疑おう、下心があって信用できない。


「では、次にみなさんが使う聖魔法について説明します。聖魔法は神から選ばれた者しか使えない魔法となっています。神に祈りを捧げ、認められた者が聖魔法を使えるようになります。また聖魔法の上には神聖魔法というものがあります」

「はい。聖魔法と神聖魔法の違いってなんですか?」

「良い質問ですね。聖魔法は自身の魔力を使う魔法ですが、神聖魔法は魔力を神力に変換して行使する魔法になります。文字通り、神の力を使いますから、威力は段違いです」


 聖魔法に神聖魔法か……私はこの魔法を習得していけば良いという訳か。魔力は尋常じゃないくらいにあるとは聞いていたから、魔力が低くて苦労することはないだろう。


「まぁ、神聖魔法は神に沢山祈りを捧げた者しか使えませんので、見習いのあなたたちが使えるようになるには何年もの修行が必要になるでしょう。もし、使いたい人がいれば毎日数回の祈りをするしかありません」

「じゃあ、祈りを沢山すれば強くなれるということですか?」

「そうですね、聖魔法と神聖魔法の力の源は心からの神への祈りとなります。祈れば祈るほど、力は増していくことでしょう。普段から神へ祈りを捧げ、魔法を発動させる時も神への祈りを捧げる。その祈りの力が魔法の強さになります」


 へー、祈りで発動する魔法か。漫画やラノベであった魔法詠唱が必要だっていうこと? でも、祈り方は様々あるし自分にあった祈り方があれば、それをやればいいか。


「神聖魔法のことは置いといて、聖魔法の話をしましょう。聖魔法には五つの系統の魔法が使えます。アンデッドなどを浄化する浄化魔法、攻撃魔法、防御魔法、回復魔法、支援魔法です。聖魔法一つで五つの役割を担うことができるので、属性魔法の中では最強の位置にあります」

「聖魔法の他にどんな魔法がありますか?」

「他の属性魔法は火、水、風、土、氷、雷、闇などがあります。それに聖魔法を付けると、八大属性が主な属性魔法になります。この八大属性の中には入りませんが、他にも時、空間などの魔法もあります」


 聖魔法一つで色んな系統の魔法が使えるのは凄いな。その中でもアンデッドを浄化する魔法……これが私が欲しかった魔法になる。この魔法を習得して、アンデッドを浄化すればこの先やっていける?


「では、これから実際に聖魔法を授かる儀に移りましょう。やり方は簡単です、パルメテス神の像で祈りを捧げる。祈りが届けば、聖魔法が使えるようになるでしょう」

「思ったよりも簡単!」

「そう思いますよね。でも、ここが難しいところです。祈りを神に届けないといけないことがどれだけ難しいことか、きっとあなたたちはここで実感することでしょう」


 やり方は簡単だけど、習得するのは難しいという事か? まぁ、そう簡単に最強と言われる魔法を会得はできないということ。


 すると、神官見習いたちは膝を床に付き、胸元で手を組んで祈り始めた。みんなとても真剣な顔をして祈っているが、早速授かる者はいない。


「そうだ。折角ですし、聖女に選ばれたユイさんの祈り方をみなさんで勉強しましょうか」


 突然、シュリムがそんなことを言った。すると、みんなは祈りを止めてこっちを見る。どうして、私がみんなに注目されるようなことをしないといけないんだ。


「さぁ、ユイさん。あなたの祈りをみなさんに見せてください」


 白い像の目の前に誘導された。すると、そこにいた神官見習いたちが避ける。私のために空けられたスペース、正直言って良い気はしない。


 私はしぶしぶそのスペースに行って、膝を床につけた。そして、白い像を見上げると手を組んで俯いて祈り始める。


 深呼吸をして心を落ち着かせて無になる。それから神様への祈りを捧げて、言葉を心の中で唱える。どうか、私に聖魔法を授けてください。祈りと共に言葉を届ける。


 その後は無心で祈っていると、手元がじんわりと温かくなってきた。すると、周りがワッと沸く。何かと思い目を開けてみると、私の手元が白く光り輝いていた。


 その光はしばらく輝くと、次第に収束して光は消えていった。周囲がざわめいていると、シュリムが近寄ってくる。


「おめでとうございます、聖魔法を授かりましたね」


 シュリムの言葉にみんなが再度沸いた。


「凄い、これが聖女の力!?」

「すぐに聖魔法を授かるなんて!」

「あの祈り方をすれば、俺たちもすぐに授かるのか!?」


 私が聖魔法を授かった? こんなにすぐに授かって良いものなのか? 状況についていけず、呆然としてしまった。


「私の推測になりますが、ユイさんはすでに神への祈り方が完成されていると思います。だから、こんなにもすぐに聖魔法を授かったのでしょう。毎日神に祈りを捧げた証拠でしょう」


 確かに毎日神様へは祈りを捧げていたけれど、前の世界とこの世界では神様は違う。関係のなかった神様にすぐに祈りが届くほどに私の祈りが完成されていたというの? それとも、神様同士に何か繋がりが?


「ユイさんはどのように神に祈っていたのですか?」

「……心を無にして」

「そう、神に祈るには雑念を捨てなければいけません。それがユイさんは呼吸をするように自然にできているのです。みなさんもユイさんを見習って雑念を払い、神へ心からの祈りをしましょう」


 シュリムの言葉にみんなは納得したように頷き、こちらを見た。みんなが目を輝かせている……どうしてそうなるんだ。ここは早々に授かられたことに嫉妬や妬みがある場面じゃないのか?


 嫌な予感がして、その場を離れようとすると……みんなにあっという間に囲まれてしまった。


「一人一タッチまでよ!」

「俺も聖魔法が授かりますように!」

「聖魔法も神聖魔法も使えるようになりたーい!」

「だから! 私は縁起物じゃない! やめろっ、触るな!」


 だから、なんで一々私に触ろうとするんだ! 人の波をかき分けて誰もいないところに移動すると、みんなを威嚇する。すると、みんなは残念そうな顔をしていた。


「さぁ、みなさん。祈りを捧げてください」


 その様子を微笑ましく見ていたシュリムが他のみんなを誘導する。すると、さっきまで沸いていたみんなは白い像と向かい合い、真摯の祈りを捧げ始めた。


 途端に聖堂は静かになる。まったく、今のはいらない騒動だった。でも、これで静かにいられる。と、そこにシュリムが近づいてきた。


「ユイさんは人気ですね」

「……不愉快なだけ」

「聖魔法を授かるのは、本当は時間がかかるものなのです。それだけ早いということは、ユイさんは神からの祝福を受けているのでしょうね。ユイさんの毎日の祈りはしっかりと神に届いていた証拠です」


 だから、前の世界と今の世界の神様は違うのに、どう通じているというんだ。もしかして、関係しているというのか? うーん、分からない。


「でも、困りましたね。一足先に聖魔法を授かってしまったので、やることがありません」


 難しい顔をしてシュリムは考え出した。聖魔法を授かるのに時間がかかると言っていたから、足並みが揃うのはまだまだ後になることだろう。


「先に魔法に関する本でも読んでみますか?」


 本……その響きに喜びが沸き上がってきた。前の世界での唯一の娯楽に今の世界でも触れられる、そう思うと嬉しくなった。しかも、漫画やラノベで見た魔法に関する本。一体、どんなことが書かれているのだろう。

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