ゾンビがいる終末世界を生き抜いた最強少女には異世界はぬるすぎる
鳥助
1.異世界転移(1)
ビルの間にある路地に入り、駆け抜ける。その時、通りすがりに閉められた扉を開けた。そして、後ろを確認する。
「待て、クソガキ!」
「鬼ごっこを終わりにしてやる!」
「さっさと諦めるんだな!」
下卑た笑みを浮かべながら、男性たちが私を追ってくる。その手には改造された武器を持ち、私を狙っている。追いつかれそうで追いつかれない、そんな距離を保ちつつ路地を駆けた。
だけど、その足が止まる。路地には長年放置されたバリケードが築かれていて、これ以上進めなくなってしまっていた。立ち止まった私は後ろを振り返り、男たちと対峙する。
「とうとう追い詰めたぞ」
「結構長い鬼ごっこだったんじゃない? 久しぶりに沢山遊べたよ」
「だからさぁ、俺たちの遊びにも付き合ってくれないかな?」
「まだガキだけど、十分に楽しめそうだな。今になっては、これだけ若いのは貴重だよな」
「その前に拠点の場所を吐き出させないと、ダメじゃね? 正気が残っている内に貰う物、貰っていこうぜ」
「そうだな。まずは拠点の物資を頂戴して、その後にお楽しみといこーや」
男たちはお手製の武器をチラつかせて迫ってくる。汚い言葉が耳に届いて、本当に嫌になる。
「結局……協力しようっていう言葉は嘘っていうこと」
出会った時は優しかった男たちだけど、初めだけだった。しばらくして態度を一変させ、私に襲い掛かってきたのだ。
私の言葉に男たちははじめはとぼけた顔をしたが、すぐに笑い声を上げた。
「こんな時代にそんな奴がいると思うか? まだ、純粋な子供だったから信じちゃったんですねー」
「いやー、可哀そう。本当に可哀そう。裏切られた気持ちはどんな感じですかー? 悔しすぎて、舌嚙んで死なないでね」
「真の敵はゾンビじゃなくて、人間だった。っていう、話も良くあるじゃーん。今が、それ」
面白おかしく話す男たち。私を追い詰めたことで気が大きくなっているみたいだ。周りにゾンビが潜んでいるかもしれないのに。
「じゃあ、まずは動けないように縛りまーす」
「いや、歩けるようにしないと、持ち運ぶの大変じゃね?」
「とりあえず、殴って黙らせる方が先決でしょ。力の差っていうものを教えないと」
じりじりと近寄ってくる。私はその場を微動だにしないで、男たちを睨みつけた。
「そんなに睨んでも、何も変わらねーよ。お前はもう俺たちのものなの」
「助けなんてねーよ。まぁ、ゾンビに言葉が通じるんだったら、ゾンビに助けてもらってもいいんじゃない?」
「そりゃあ、いいな!」
はははっ、と笑いだす男たち。ゾンビに助けてもらうか……それはいい案だね。
「じゃあ、そのゾンビに助けてもらうね」
不敵な笑みを浮かべ、男たちの後ろを指さした。男たちは何かと思い後ろを見てみると、そこには路地の道を塞ぐほどのゾンビが溢れていた。
「なっ!?」
「周りにそんなにゾンビはいなかったはずだぞ!?」
「どうしてこうなった!?」
路地を塞がれたことで男たちは慌て出した。
「私がビルの扉を開けたから、ビルの中にいたゾンビが来たんだよ」
「なんてことをしやがる!」
「おい、ビルの中からどんどんゾンビが溢れてくるぞ!」
「この量、どうすんだよ!」
前はバリケード、後ろはゾンビ。私たちは完全に塞がれた。男たちは焦り出し、ゾンビから離れようとする。その隙に私は動き出す。
ビルの壁に近寄ると、二本のロープが垂れさがっている。その一本のロープの先には輪っかができており、その輪っかに足先を入れる。それから、もう一本のロープを思いっきり引っ張ると、上からロープに括られた物が落ちてきた。
一本のロープが下に落ちると、もう一方のロープが上がる。私はあっという間にビルの三階まで登ってきた。
「こんなこと……って、ガキはどこ行った!?」
「ここだよ」
「なっ!? なんで、そんなところに!?」
「嘘だろ、どうやってやったんだ!?」
私がビルの三階にぶら下がっているのを見て、男たちは驚愕した。
「自分たちが誘いこまれたなんて、これっぽっちも思ってないんだから」
「誘いこまれた? ……まさか、そんなっ」
「くそっ! 下りてこい、クソガキ!」
「今すぐ、殺してやる!」
男たちは私の下でギャンギャンと吠えている。私はそれを黙って見おろす。この状況が作られたものだと知ると、男たちは怒りを露にした。
だけど、男たちが騒げば騒ぐほどゾンビたちは男たちの存在に気づく。路地の道を塞いでいたゾンビたちが男たちに向かってきた。その中に、とてつもない速さで走ってくるゾンビたちがいる。
「うわぁっ、暴走ゾンビがいるぞ!」
「武器で応戦しろ!」
「複数もいる!」
暴走ゾンビたちは男たちを見つけると、真っ先に飛び掛かっていった。男たちは武器を振って応戦するが、暴走ゾンビたちには全く効いていない。
「助けてくれ!」
「くそっ、このっ、やめろー!」
「うわぁぁぁっ!」
男たちは暴走ゾンビたちに飛び掛かられ、地面に倒された。そして、ゾンビは男たちに歯を立てる。路地にはゾンビたちのうめき声と、男たちの断末魔が響いていた。
その光景を私は無表情で見下ろす。
「バカな人たち。欲をかかなければ、生きていられたのに」
こんな終末の世界にまだこんなバカがいたなんて笑っちゃう。人なんて信じる価値なんてないのに、信じられているって思っているところが甘い。そんな感情、生きるためには不必要なものだ。
私もこんなところにいないで、一度拠点に戻らないと。そして、男たちの拠点の物資を漁らないとね。ビルの窓から室内を覗くと、そこには二体のゾンビの姿があった。
「……二体なら大丈夫か」
背中に背負っていた釘バットを片手に持つと、窓を開けようとする。だけど、鍵がかかっているみたいだ。仕方がない、ここは窓ガラスを破ろう。壁を足で蹴って反動をつけると、勢いよく窓ガラスに飛び込んだ。
ガシャーン!
大きな音を立てて窓ガラスは散った。室内に飛び込んだ私はすぐに立ち上がる。すると、ゾンビたちは勢いよくこちらを振り向いた。あの動きは……暴走ゾンビ!
「ちっ!」
振り返った暴走ゾンビが物凄い速さでこちらに向かってくる。すると、一体のゾンビが飛び掛かってきた。分かりやすくて助かる、私はその場をジャンプで避けた。
だけど、もう一体のゾンビが真っすぐにやってくる。ゾンビとの距離を図り、ここだというところで私はしゃがんだ。そして、ゾンビに足払いをする。
すると、ゾンビは勢いよく床に倒れた。その隙に渾身の力を込めて、釘バットでゾンビの頭を打ち付けた。骨が砕ける鈍い音がする。だけど、それに構っている暇はない。もう一体のゾンビが起き上がって、すでにこっちに向かってきている。
「ウオォォッ!」
口を大きく開けて、噛みつこうと顔を前に出す。私はその顔を蹴り上げた。反動で仰け反るゾンビ、すぐにしゃがみ足払いをした。ゾンビは背中を床に強く叩きつけられ、私はゾンビの頭を目掛けて釘バットを振り下ろした。
骨が砕ける音がしたあと、室内はシンと静まり返る。
「まぁ、全く……面倒くさい」
暴走ゾンビは動きが速いため、素早い判断と行動が必要になる。かなりの運動量が必要になるため、腹が減るのが早くなるのが痛いところだ。食糧も限りがあるのに、あんまり動きたくなかったのに。
それでも、今日もなんとか生き残れた。男たちに追いかけられながらも、ゾンビに襲われたとしても……私はまだ生きている。十二歳という子供だとしても、生き残ってこれた。
服の中に入れてあった、首からぶら下げていたお守りを両手でギュッと握る。
「神様、今日も生き残れました。見守ってくれて、ありがとうございます」
唯一の心のよりどころにいつものように感謝をする。何かあった後は神様に祈るようになった。生きていることへの感謝をすることで、自分の中で物事を整理するためでもある。こうして祈っていると、気持ちが落ち着いてくる。
「これからも見守っていてください」
いつものように言葉をしめた。それで終わるはずだったのに――
パァァッ!!
「えっ!?」
私がいる場所から溢れんばかりの光りが飛び出してきた。驚いている内に光りは段々と強くなり、私は目を開けられなくなった。目をギュッと閉じて光を遮る。
しばらく目を閉じていると、瞼の裏から感じる光りがなくなった。ようやく光が収まったのか? 私は恐る恐る目を開けてみる。
「えっ……何、ここ」
私の目に飛び込んできたのは、先ほどまで殺風景なビルの一室ではなく――石造りの家が並ぶ通りだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます