第5話 幼馴染との契約

 絵麻と帰り道を進む。さっきから、互いに喋らないので無言が続いていた。けど、無理をして話題を捻り出す必要もないだろう。絵麻も同じ考えのようで一向に喋り出す気配がない。


 そうして、帰り道を歩いていると様々な考えが頭をよぎる。


 これからの高校生活に対する不安。


 雛との距離感。


 連絡先を交換した雨ちゃんについて。


 やっぱり、何かを一度考え出すと止まらない。まるで掘り当てられた温泉のように思考が湧き出すのを感じる。そして、そんな思考の天然温泉に浸かりながら、ある出来事を思い返す。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 中学生の時に俺は、絵麻とある契約をした。「僕と契約して魔法少女になってよ!」みたいな契約ではないので安心してほしい。


 この契約は、俺に好意を拒絶する勇気と受け入れた好意に責任を持つ度胸が無いことを見抜いた絵麻から持ちかけられたものだ。


 俺と絵麻の二人で決めた数多くの約束を一纏めにして契約と呼んでいる。


 例えば【相手に対して『理想の楓』『理想の絵麻』を求めない】といった約束がある。


 これは、自分の思い描いた相手の姿を無理に押し付けて「楓なら、こうしてくれる」「絵麻だったら受け入れてくれる」などと考えることを防ぐための約束である。


 この約束によって、絵麻の前では無理をして理想の自分を演じる必要はないのだと楽な気持ちになれている。


 また、他の約束にも日々助けられている。本当にあの時絵麻から、この契約を持ちかけられてよかった。この契約がなければ今頃は______


 「楓、聞いてる?家に着いたわよ」


 「あぁ、ごめん。考え事してた」


 俺がそう答えると絵麻が心配そうな顔をしながら問いかけてくる。


 「......。契約、使う?」


 「......」


 まったく......。本当に、この契約には助けられてばかりだ。

 

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