第8話(その3)

「お前は本社の犬かって、倉庫の主席から怒鳴られたらしくて、それからです」

 それを聞いて、(これは困った)と、柿岡は腕組みするしかなかった。


「やはり室長から、業務改革の内容を、はっきり仰って下さい。そうでないと、私たちは何の為に仕事をするのか分からないまま、現場との軋轢を生むばかりです」


 伊藤は、それでなくても整った目鼻立ちを緊張させながら、きっぱりと言う。

「分かった……、明日の朝一で、みんなを集めてくれ」

 そう言いながら柿岡はまだ迷っている。

 何をどう説明すれば良いのか妙案が浮かばない。


「はい、分かりました」

 伊藤はそう言うと、ようやく自分のデスクに戻り、電話を始めた。


 岡本が戻り、早退届を出してきた。

 柿岡は認め印を押しながら、念の為に問い掛けた。

「飽の浦の倉庫で、何を言われた?」


「私の勉強不足もありますが、あまりに管理方法が複雑で……」

「どう複雑なんだ?」


「例えば、入荷品には注文番号があって、それに『パカン表』もあって、それに搭載番号があります。その流れを一元的に見ようとしても……」


『パカン表』というのは、パレット管理表のこと。入庫の際に物を載せるパレットの番号で、それがどの倉庫のどこにあるかを管理するためのものである。


 入庫品は船の工程に従って出庫するが、船体にはブロック番号があり、その区分けは柿岡も詳しくない。ただ岡本の説明は及第点である。彼は渡部の指名だが、人事に間違いはなかった。


「そこまで分かって、倉庫に何を言われたんだ?」

「何ば調べよっとかって、怒鳴られて、業務管理の見直しだと言ったら……」

 それで口を閉ざした。

 その理不尽さに、若い岡本は頭を下げるしかなかったのだろう。


「分かった。今日は帰って良いぞ、お疲れさん」

 柿岡がそう言うと岡本は、項垂れて部屋を出ていった。


 柿岡は、若手を矢面に立たせてしまったことを反省した。単に『業務改革の為に』と言われて、それを岡本は『見直し』と表現した。だがそれを言われた方のことまで、柿岡も考えてはいなかった。


 翌朝、副所長室に全員が集まった。

 10月の始めにスタートした組織で、何度目かの会議になったのだ。


 ただ、柿岡が話し始めた内容は、あきらかにこれまでとは違っていた。

「まずは、こんな話を聞いてくれ」

 みんなの顔を見まわしながら、おもむろに柿岡は話を始めたのだった。


(つづく)

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