第6話(その2)

 朝食を終えた柿岡はタクシーで会社へ向かい、通用門で降りると構内バスで本館へ向かった。始業のチャイムが流れる中、自分の椅子に腰を下ろした。


 柿岡が列車内で書いた報告書を持って課長席に向かうと、おもむろに課長が、

「10時から203号室で会議です。君も出席しなさい」

 と、無機質な表情で、柿岡の顔を見ずに言う。


 その表情は明らかに不平満々だが、まずは間に合ったと柿岡は胸を撫で下ろした。ただ課長は柿岡の渡した報告書を見ようともせず、机の上の「未決トレー」に放り込んだ。


「課長、SNTの技術力は本物です。ロイド船級とも直にやりとりしていますし……」

 柿岡は説明を始めたが、

「とにかく会議だ」

 と、課長は取り合おうともしない。


 それでも食下がろうとしたが、そこにちょうど電話が鳴った。課長は両袖机に片肘ついたまま受話器を取り、「はい」と応じたが、途端に姿勢を正して、「はっ、はい」と、言い直す。その顔が緊張して、細い目の奥で瞳が見開かれた。


 これはきっと部長からだと確信した。

 その豹変ぶりはいつものことだが、何か待っていた風でもある。


 それでも、

「はい、すぐ参ります」

 と答えて立ち上がると、課長は直ちに電話を切ってそそくさと席を離れた。


(まあ今日の会議は、コンテナ金物だけではないし)と、仕方なく柿岡は席に戻った。


 課長が戻ってきたのは9時50分過ぎ。すぐさま「柿岡君、行くよ」と言うと、引出しの中から自分のノートとペンポーチを出して脇に抱え、慌ただしく会議室へ向かった。


 すでに準備を終えていた柿岡は、黙って課長の後に続く。

 なにしろ資材部のフロアーは、朝から出入りする人で溢れていた。


 ヘルメットで重装備の現場スタッフ、軽装のまま書類を持って先を急ぐ本館メンバー、それは本社では見られない現場スタッフの熱気だった。


(新造船が決まれば決まるほど、この資材部が中心となって良い船を造る) 

 それが柿岡の自負であろう。

 だが(今の主任の立場では)と思うと、拳を握り締めた。


 会議室は、奥の窓際にホワイトボードがあり、後は部屋目一杯に折り畳みテーブルがあるだけ。右手に資材の渡部部長と中村課長に柿岡、左手に設計の宮武主任と深堀工場の検査課吉田主席が座った。


 吉田は五十代のベテランである。ラインとスタッフの組織上、主席は課長相当の役職である。いずれにしても優秀な主任の中から選ばれた者である。


 会議冒頭、

「それではまずコンテナの金物ですが・・・・・」

 と、課長が口火を切った。


(最初に金物か)と、意外だった柿岡は次の言葉に耳を疑った。

「資材としては、新日本貿易に決定しております」

 と言うではないか。


 思わず柿岡は、隣の課長の顔を見た。そこには太めで好々爺とした中村課長がいる。だが続く話に、更に柿岡は驚愕するしかなかった。


「昨日、柿岡主任を神戸へ派遣し、技術面や下請け工場の状況を確認しております」


(つづく)

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