My sweet home~恋のカタチ。27--chocolate brown--
森野日菜
第1話 Bitter-Sweet(1)
社長が倒れて8カ月。
まだまだ自宅療養中で、リハビリも進めているものの
おそらく以前のような社長の仕事は難しいのではないかというのが大方の意見。
このまま真太郎に社長の椅子を譲り、会長となって後ろからサポートする形になるであろう、
と取締役会や北都本人の意思により決まりそうであった。
その準備がまだまだ整わず、現在は真太郎が社長代理として社を回している。
まだ若いこのジュニアを志藤をはじめ、他の取締役がサポートしているのはもちろん
真太郎にとっての一番重要人物が。
「おはようございます、」
いつものように抑揚のない声で秘書課に早足で入ってくる。
「あ、おはようございます。 あの、えっと・・」
まだ入社1年目の秘書課の女子社員は、すぐに日経新聞を食い入るように読み始める彼に
なかなか話しかけられない。
そのまま数分が経過し
後ろの席で見ていた志藤が
「高宮。 マリちゃん待ってるで、」
ため息交じりに助け船を出してやった。
「あ?」
彼女が自分に話しかけられずにジッと待っていたとは夢にも思わなかった高宮は彼女の方を見やった。
「ま・・松崎取締役が…今日の会議で使う資料にこれを追加したいと・・」
彼女はおそるおそるレジュメを彼に手渡した。
びっしりと字が書かれているその資料をすごい速さで読んで
「OK、んじゃあ人数分のコピー、頼むね。」
さっとその女子社員に手渡した。
速読???
新米秘書の鴨志田麻里は訝しげに彼を覗き込んでしまった。
彼女があまりに不審な顔をしているのに気づいた高宮は
「なに?」
とジロっと睨んだ。
それに驚いて
「や・・な、なんでもないです、」
慌てて一礼してその場を立ち去った。
「あ~~~アサイチで高宮さんに申し送り、緊張します~、」
麻里はコピー室で思わずそこにいた同じ秘書課の萌香にグチってしまった。
「高宮さん、厳しいものね。」
萌香は笑った。
「あの人が来ると、秘書課の空気が張り詰めるっていうか。 みんな私語とかしてても一瞬静まり返りますもんね、」
コピーをそろえながらため息をついた。
確かに。
仕事中の高宮はそんな感じだ。
「このまえ。 志藤取締役も私語を注意されてたんですよ~? すごくないですか?」
彼は秘書課のチーフであるが、自分よりも立場が上の者にも容赦なかった。
「アメリカ生活が長かったせいか。 自己主張もするし、無駄なことが嫌いなのよね。」
萌香はコピーをまとめるのを手伝ってやった。
そう。
今や社長代理の真太郎の片腕は彼なのだ。
社長秘書となってからはまだ数年だが、すでに真太郎よりも社のことを把握している。
・・なんだけどね、
萌香はなんだかおかしくなってふっと笑ってしまった。
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