【地下牢の悪魔】

森の近い東の門から次々と出ていく兵達の後をつけ、デインと木の上へ上って様子を見る。

なにやら兵達はなにか探しているみたいだ……、

でもこんな夜に何を?

兵達の様子を見るに少し慌てている様にも見える。


デイン:「シエル、あそこの兵二人……なにか話しているな、聞こえるか?」


デインの指差す方向へ耳を澄ますと、一人は面倒そうに、もう一人は真剣に事の重要さを説明していた。


兵:「こんな大騒ぎする程のことか?大臣が自分で探しゃいいじゃねぇか……」


兵:「馬鹿……誰かに聞かれたらどうする……!亜人達は追放された身、そりゃ不法に侵入してれば街の人達が騒いじまうだろ、そうなりゃ王の顔に泥を塗ることになるんだぞ?そうなる前に大臣が俺たちに命令を出したんだ、早く見つけてさっさと兵舎に戻ろうぜ」


兵:「あぁ……そうだな」


シエル:「亜人……もしかして、アイル達……また街に何か盗みに来たんじゃないだろうな……」


デイン:「前に会ったあの子達か……?兵に見つかれば何をされるか分からない、手分けして探そうシエル」


シエル:「そうだね、急ごう……!」


デインと別れ、村近くを探すことにした。


シエル:「アイル……逃げてるとしたらまだ村には帰れてないよね……さぁて、どこにいるのかな〜」


鷹龍の目を使い上空から動くものを探す。

兵も数人いる為、反応を掻き分ける。


シエル:「頼む…………!無事でいてくれ」


・・・・・ー


一方、デインは村から外れた場所を探し、音を頼りに動いていた。


デイン:「まったく……魔物もいるこんな森に……ん?」


少し離れた場所から小さく、小走りする音が聞こえてくる。

その場所へと木を伝い向かうと……。


アイル:「はぁ……はぁ……どうしよ……どうしよ……、?……うわぁ!!」


デイン:「しっ……静かにするんだ、アイル君だね?こんな所で何してるんだ……」


アイル:「ご、ごめんなさい……お兄ちゃん、確かシエル兄ちゃんの仲間の人だよね……!?助けて!妹が!」


アイルは逃げる途中でミーシアを見失ってしまい、探そうとしたが兵に見つかりそうになりその場から離れてしまったとデインに説明する。


デイン:「まずいな……シエルが見つけてくれればいいが……」


暗い森の中……大木(たいぼく)の中で震える者の姿があった。


ミーシア:「アイルお兄ちゃん……シエル兄ちゃん……こわいよ……こわいよぉ……」


ガサッ……

何者かが穴のすぐ近くを歩く。

ミーシアは恐怖で涙が止まらず、口を手で抑え息を殺す。


穴の外から手が見え、黒い影が穴の中を覗いて来た……


ミーシア:ーお母さん……お父さん……ごめんなさい……ー


覗く何者かと目が合った……ミーシアは死を悟る。


???:「やっと……見つけた……」


ミーシア:ー!?ー


次の瞬間、ミーシアは泣きじゃくりその者へと力いっぱい抱きついた。


ミーシア:「ぁあああ゛……怖かったよぉぉ……シエル兄ちゃんんん……!」


シエル:「無事で良かったよ、ミーシア……間に合って良かった……もう大丈夫だ」


ミーシアを優しく抱え、頭をなでた。

泣き止んだのを確認し急いでデインと合流する。

しばらくして兵達が退却していく。

周りに一人も残っていないことを確認したシエル達は二人を村へと送り届ける。


シエル:「はぁ……二人とも見つかってほんと安心したよ…」


アイル・ミーシア:「……ごめんなさい……、俺達もいきなりだったからよく分かんなくて……」


デイン:「どういう事だ?街へ入ったわけじゃ無いのか?」


シエル:「二人に何があったのか…ゆっくりで良いから聞かせてくれないかい?」


二人が言うには、お腹が空き、ただ森で果実を採っていただけで、突然松明を持った兵達が目の前に現れ、大声で騒ぎ始めたとの事だった……。


ミーシア:「いきなり……見つけたぞって……捕まえられそうになったから逃げたの……その時にお兄ちゃんとはぐれちゃって」


アイル:「兄ちゃん、ミーシア助けてくれてほんとにありがとう……」


シエル:「二人も話してくれてありがとう。少し戻ってデインと話してみるよ、また明日村に顔を出すから今日はこれ以上どこにも行かず家にいるんだぞ?、わかったかい?」


二人は無言で首を縦に振り、走って家へと戻る。


デイン:「シエル、もう少しキツく叱っても良かったんじゃないか?」


シエル:「ううん、その必要はないよデイン、帰りが遅いから母親とレイグがしっかりしかってくれるさ、子供達を叱るのは親の役目、あれだけ怖い思いしたんだ…俺達が叱ることないよ」


デイン:「確かに、それもそうだな……とりあえず一度城へ戻ろう、みんな集めるか?」


シエル:「ん〜、そうだね!一度談話室に集まろうか」


デインと急ぎ城へと戻ると、案の定下女やロンディネルが二人を探している最中だった。


シエル:「ありゃりゃ…迷惑かけちゃった〜ごめんねロンロン」


ロンディネル:「い…いえ……お二人がご無事で安心しましたよ……はぁ…本当に良かったです」


安心した様子のロンディネルは突然なにか思い出したように下女に袋を取ってくるよう伝える。

しばらくしてロンディネルに渡された袋をシエルへと渡すロンディネル。

中を見てみると人数分の通信石が入っていた。


ロンディネル:「少しでもお役に立てればと、急ぎ用意したものです。ぜひ使ってください、これは皆さんに差し上げます」


シエル:「ありがとうロンロン!大切に使わせて貰うよ!」


感謝を伝えていると、階段からレインが降りてきた。


レイン:「やっと帰ってきたか、二人が一緒ってことは、ただのお出かけって感じじゃねぇな」


デイン:「察しがいいなレイン、至急皆談話室へ集めよう」


ーーー・・・しばらくして

【談話室】


シエル:「変だ……兵達は街に出たって言ってた、でもアイルたちは街へは行ってない。あの村には赤子はいるけど、動ける子供達はアイル、ミーシア、ヘレナの三人だけ……勘違いであんな兵が動くとは思えない」


マキシス:「ロンディネルにも聞いたがそんな話は一切聞いてないってよ、誰の指示で動いたかが重要だな」


シオン:「ん〜指示が出せるとしたらあの錬金術師か大臣だよね」


デイン:「そうだな、この城内であれだけの兵に命令出来るのはその二人だけだ」


レイン:「今朝あのクソ野郎が俺の部屋に来た……シエルは知ってるよな」


ノルン:「え!?……何もされて…ない?」


ミリス:「多くの事件に関わっている人物でしょ?そんな人部屋に入れたの?」


レイン:「あぁ、なんもなかった、信じる気はねぇけど…今のあいつはそれ程危険な奴には見えなかった……クソッ…仇もクソもねぇよ」


シエル:「……レイン」


レイン:「わかってる、ほんとなら今すぐぶっ殺してやりたいとこだが、あいつの目は本気だった…気が乗らねぇけど信用するしかないよなあんな話されたら」


デイン:「話の内容はさておき、そうなると一番怪しいのは大臣だな」


マキシス:「第一印象があれだしな、しかしロンディネルは大臣にえらく信頼があるように思うが〜、ある意味信頼があっての自由かもしれねぇ…探ってみる価値はあるかもな」


シエル:「じゃあ、今夜大臣を観察してみよう。出番だよ!アルフォス!」


天井に向かって呼びかけると、突然背後から頭を叩かれる。


シエル:「いてっ!」


アルフォス:「馬鹿……てめぇの後ろだっつの、そんなんで大丈夫なのかよリーダーさん」


シエル:「アハハ……仲間の前では警戒解いてるから、アルフォスには、警戒するようにしようかな〜」


デイン:「アルフォス、頼めるか」


アルフォス:「んだよデイン、まだ俺が整理ついてないとでも?…大丈夫だ、アイツに笑われねぇようにしっかりしねぇとな」


デイン:「フッ……なら大丈夫だな、頼んだ」


アルフォス:「任せろ」


シエル:「よし、じゃあとりあえず今は皆部屋へ戻って待機だ、深夜…それぞれの配置につこう」


皆:「了解」


各部屋へ戻り、灯りが消えるのを静かに待つ……。

シエル達が部屋へと戻る途中・・・

エルトが丁度シエル達に声をかけようと廊下の角から声を出そうとしていた。


エルト:ーシエルさんだ!それに皆さんも!……今だ、今伝えるしかない……!ー


エルト:「シエルさー…………!?」

突然背後から口を封じられ、身動きすら取れなくなってしまう。


エルト:ー誰だ……!?体が……動かない……?!ー


エイル:「大人しくしていろ……余計な真似をするな」


意識が遠のいていくエルト、ゆっくりと影の中へと引きずり込まれていく。


エルト:「そん……な……だめ……だっ……」


月がロンブルクを照らし……静かな夜・・・


作戦はこう……!

ーアルフォス、そして俺は大臣室の監視ー

ーレイン、ミリスは兵舎小屋にいる兵達の監視ー

ーシオン、ノルンは王室周辺を監視ー

ーデイン、マキシスは監視塔にて全体の見張りー


灯りが消え、闇が広がる城内……

一つとして音はせず、静けさだけが残る。


大臣室が正面から確認できる屋根へと、アルフォスと待機するシエル。


シエル:「大臣は優雅にワインを楽しんでるね〜」


アルフォス:「なんであんなに余裕そうなんだろうな……王が狙われてるってのによ」


シエル:「そうなんだよね〜、普通もっとロンロンに護衛を付けたり、城の警備も強くするはずなのにね……ん?」


服の中からロンディネルに貰った震える通信石に、皆が配置に着いたことを確認する。


シエル:「はいはーいみんな聞こえるかい?それぞれ配置に着いたね?

また今から通信石は閉じるけど、何かあれば鳴らしてくれたまえ〜」


レイン:「(了解だ)」


ミリス:「(わかったわ、こっちは任せてちょうだい)」


デイン:「(こっちも今のところ動きはない、何かあればすぐに鳴らそう)」


シオン:「(こっちも問題ないよ、凄く静か……ロンディネルさんは起きてるみたいだけど……)」


ノルン:「(な、何かあれば……す…すぐ言うね……)」


ブツッ…………


アルフォス:「ノルン……なんか声震えてなかったか?」


シエル:「暗いとこが怖いみたいだね……アサシンなんだけどな〜アハハ」


アルフォス:「まぁ、ノルンとシオンなら大丈夫だろ」


アルフォスの何気ない一言に少し驚くシエル。

アルフォスが人を褒めることは珍しく、女性には少し厳しい部分もあるはずが、アルフォスの言葉に少し信用を感じた。


シエル:「人を褒めるなんて珍しいね、アルフォス」


アルフォス:「そうでもねぇよ、前の戦闘でシオンとノルンの実力を初めて目にしたが、大した度胸だと思ったよ、あんな奴ら相手に相当な覚悟があった。女だからって馬鹿に出来ねぇことを分からせられた気分だよ」


シエル:「良かったよ、二人を認めてくれて、二人とも俺の大事な仲間だからね」


アルフォス:「まぁ、シオンには最初あんだけ厳しくしたのにな……嫌われてると思ってたぜ」


シエル:「シオンは優しいんだよ、そんなキツくされたくらいで人を嫌いにはならないさ」


アルフォス:「そうか……まぁ、なんだ、一番驚いたのはノルンだけどな」


シエル:「ほぅ?ちょっと気になりますな〜」


アルフォス:「?、本当に知らないのか?ノルンのあの目……ー!?ーっておいシエル、大臣が部屋に居ねぇぞ……!」


シエル:「おっと……いいとこなのに〜、遂に動いたね、城内を彷徨(うろつ)いてるかも、探そうアルフォス、君は大臣が隠れてないか部屋を調べてくれ、俺は情報にあった酒置き場を調べてみる!」


アルフォス:「わかった、何かあればすぐ言えよシエル」


シエル:「うん!ありがとう……じゃ!」


音を消して窓から城内へ入り、鷹龍の目を使いながら城内を移動する。


シエル:「さぁて、どこに隠れたのかな〜?」


部屋へと侵入したアルフォス。

先程まで大臣が居たはずにも関わらず、床には靴の跡が無く、大臣が持っていたグラスすらもどこにも見当たらなかった。


アルフォス:「おいおい……どういうことだ、ついさっきだぞ……人が居たとは思えねえ」


一方・・・・・レインーミリス


兵舎で休んでいる兵達に動きは無く、談笑する声だけが響く。


レイン:「兵に怪しい動きは特にないな、何事もなく夜が空けてくれりゃいいが……ぅ〜あの、ミリス?」


ミリス:「なに?なにかあったかしら?」

じーっとレインを見つめ嬉しそうに微笑むミリス。

座りながら足をぷらぷらと揺らす。


レイン:「そ、そんなに見られるとさ……その……集中出来ないって言うか……なんというか……」


ミリス:「いいじゃない、こうして二人で動くのは久しいんだし、しかも……"二人きり"よ……?」


レイン:ーえ……これ……お?……ミリス、も、もしかして……!?ー


ミリス:「フフッ……ちゃんと見てないとシエルに怒られるわよ?」


レイン:「……あっ……アハハ!だよな!だよな……ちゃんと見ないと!見てないとな!」


顔を赤く染めるレイン、照れを隠す為兵舎を見ていると突然灯りが消え、違和感を感じた。

兵舎の灯りは常に点いていると事前に情報があった為、ミリスに向かうことを伝えようと、横を向く……が……


レイン:「ミリス……兵舎の灯りが消えた、なんか変だ、少し様子を…………え……?」


どこを見渡してもミリスの姿は無く、ミリスがからかっているのかとも思ったレインだったが、気配が全くせず、隠れたのではなく……"消えた"のだと確信する。


レイン:「クソッ!!!ミリス!!……あああ゛……クッソ!!」


怒りをなんとか抑え、兵舎の確認を優先するレイン。

罠だとしても躊躇うことなく中へと入る。


レイン:何かが俺達の行動を見てやがる……影で動いてるのは間違いない、ここでミリスを助けに向かっても……もし王に何かあれば俺はアサシン失格だ……ー


ゆっくり扉を開け、兵舎の中を覗く……。


ー!?ー

レインに衝撃が走る。

先程まで聞こえていた兵達の談笑が、まるで幻聴だったのかと錯覚するように……そこには誰一人として存在しておらず、ただ真っ暗な部屋に長机と椅子とが並んでいるだけだった。


レイン:「何がどうなってんだよ……」


そして……シオンーノルン王室前・・・


シオン:「真っ暗だね……ノルン、大丈夫?」


ノルン:「う…うん……大丈夫だけど、気のせい……だよね?……さっきから女性の悲鳴が聞こえる気がするんだよね……」


ノルンが言う女性の悲鳴が、シオンには全く聞こえず、風の音が恐怖でそう聞こえるだけじゃないかと、シオンはノルンを落ち着かせる。


シオン:「大丈夫!窓から月の光が入ってちょっと明るいし、それに今回は皆城にいる訳だし!……私だけじゃ不安だよね……えへへ」


ノルン:「え……?!ち、違うよ!シオンにどれだけ頼ってることか……って自分で言っちゃった」


二人は声を抑えクスクスと笑い合い、ノルンの恐怖心は先程よりは薄れていた。

しかし、ノルンの耳にまた聞こえる何者かの叫び。


ノルン:ー!?ー


ノルン:「シオン、やっぱり聞こえる……聞き間違えなんかじゃない……誰かが叫んでる。まるで、誰かに襲われてるみたいな叫び声……」


シオン:「どこから聞こえるかわかる?」


ノルンは目を閉じ耳を澄ます……

ーぁぁ……ぁ……゛ー


ノルンはその声のする場所に驚く。

王室のある三階ではなく、二階でも一階でもない……

どこにあるか分からない"地下"らしき場所。

城内いずれかの階から声がするのであれば、この静けさ……もっと大きく響いて聞こえるはず。

しかしそれよりももっと下……確証ではないが、

ノルンはこの城に地下が存在しているのではと推測する。


ノルン:「シオン……このお城に地下があるとしたら……そこはなんだと思う?」


シオン:「……決まって牢獄だと思う。私が前に依頼で行ったお城にも地下に牢獄があったの。暗殺目標が牢獄の隠し扉に物を隠してて、それの回収と暗殺の依頼だったの。」


ノルン:「だとしたら……シオン、一度シエルに報告しよう。通信石お願い!」


シオン:「うん……!」


通信石が光り、シエルの石に繋がる。


シエルは場内の闇に同化し、酒置き場で大臣の痕跡がないか調べていた。

震える通信石……。

一度窓から屋根へと登り、通信石を手に取る。


シエル:「(?……どうしたんだいシオン、そっちで何かあったかい?)」


シオン:「シエル、ロンディネルさんからこのお城の構造は聞いてる?」


シエル:「もちろん!へっへーんしっかり聞いて覚えてるさ」


ノルン:「さすがおと……!……!!?」

危うくお父さんと呼びそうになったノルンは口を手で抑える。


シエル・シオン:「おと??」


ノルン:「か、噛んじゃったえへへ……シエル、このお城に地下があるって話はあった?」


シエル:「……いいや、ロンロンから地下の話なんて聞いてない。もしかして地下があるのかい?」


ノルン:「ううんまだわからない、確認するためにシオンと一度王室から離れるね、さっきから女性の悲鳴が聞こえるの、探さないと……!」


ノルンの言う女性の悲鳴に、シエルは身に覚えがあった。

城内を走り回っている時、かすかに聞こえる叫び声。

シオンと同じく風の音だと思っていた為、勘違いから

確信へ変わる。


シエル:「やっぱり悲鳴なのか……ゴーストとかじゃなくてよかったや……って言ってる場合じゃないね、わかった、俺は王室へ向かうから二人は地下を探してみてほしい、もしかしたらそこに大臣がいるかもしれない。存在を確認したら隠密に様子を見て欲しい。くれぐれも気をつけて……!」


二人はー了解ーと返し、急ぎ地下を探すため一階へと降りていった。


シエル:「地下……この城の構造書には地下なんて……ロンロンにもう一度聞いてみよう」


王室をノックし細い声でロンロンを呼んだ。

まだ眠りについていないはず……

そう願いながら静かに返事を待つ。


ーシエルさんですか?ー

少し怪しんだ様子で聞いてきたロンロンに普段どうりにそうだと答えた。

ゆっくりと扉を開け中へ入れてくれた。


ロンディネル:「なにかありましたか?」


シエル:「ううん、今のところ特に問題は無いよ!こんな時間にすまないロンロン、もう一度この城の構図書を見せて貰えないかい?」


ーはいーと棚から構図書を出し大きな机に広げて見せてくれた。

しかし、やはり構図書には地下の記載は無く、うーんと首を傾げる。


ロンディネル:「どうされたんですか?」


シエル:「ロンロン、このお城に地下は存在するかい?」

そう聞くとロンロンの顔つきが少し強ばる。

何かを考えた後、ゆっくりと話し始めた。


ロンディネル:「シエルさん、この城の地下には牢獄があったんです。」


シエル:「あった……か、ってことは今は使っていないってことだね」


ロンディネル:「はい、父上が亡くなったあとあの地下牢は壁で塞(ふさ)ぎ誰も入れないようにしたんです。ただ一人の罪人を除いて……」


シエル:ー?ー


ロンディネル:「街の者たちにはこの国に罪人はいない、この国に牢獄は必要ないと説明しましたが……父上が亡くなる前に、ー牢獄を閉じ、あの者を永遠に閉じ込めておくのだーと最後の命令を受けたのです。」


シエル:「その罪人って……?」


ロンディネル:「恐らくシエルさんも聞いた事くらいはあるのではないでしょうか……全大陸で恐れられた殺人鬼・・・"ベルダーホーゲルス"」


ロンロンの口からその名前を聞くとは思っておらず、困惑してしまう。


殺人鬼ホーゲルス……若い女性だけを狙い、生きたまま臓器を抉(えぐ)り、女性の叫びに興奮するとされ、多くの者たちから恐れられた殺人鬼……。

最近ではその存在すら消えたと噂されていたが……もし、生きているとしたら……。


今既に、シオンとノルンはそこを探し……向かっている。


シエル:「ロンロン……一つ聞いていいかい?」


ロンディネル:「……は、はい……」


シエル:「奴は……生きているんだね?」


ロンディネル:「恐らく……暗闇に閉ざされ、飲まず食わずですが……度々地下から音がすると下女達が申していたので……今回の出来事に、何か関係が?」


シエル:「嫌な予感がする……関係が無かったとしても、あいつは生きていては行けない奴だ……!!すまないロンロン!地下牢の場所を教えてほしい!急がないと……」


ロンロンから地下牢の場所を聞き急ぎ向かった。

しかしその時……。

廊下を素早く移動しているとまた通信石が震える。


シエル:「シオン!?……ノルン!?」


レイン:「(違うが……二人になんかあったのか!?!)」


シエル:「まだ分からない、レイン……どうしたんだい?」


レイン:「(シエル、ミリスが居なくなった……)」


シエル:「……!?そんな……」


レイン:「兵舎小屋を見てたんだ、それでいきなり灯りが消えたからミリスに声をかけようって振り向いたらもう姿無くてよ、真横に居たんだぞ?それに、兵舎の中は誰も居なかった、笑い声も話し声もしっかり聞こえてたのにだ……」


シエル:「誰かが俺達の行動に気づいてる……レイン!合流できるかい!?それとデインとマキシスも呼んでくれ!!急ぎで頼む、すまない」


レイン:「(わかった、それで?どこに行けばいいんだ?)」


シエル:「一階、武器庫前に……俺は先に行って待ってる」


レイン:「(了解だ、急いで向かう……!)」


シエル:「大臣……じゃないのか?……ラボラス、あいつは今どこにいる……」


【武器庫前】


シオン、ノルンが声のする方へと進み、近ずいてはならない武器庫前へと来てしまっていた。


シオン:「どう?ノルン、声は聞こえる?」


目を閉じ、耳を澄ますノルン……しかし声は聞こえず、少し鉄のようななにかが擦れる音が聞こえるだけだった。


ノルン:「ううん……声は聞こえない、でもなんだろうこの音……この中からしてるのかな?」


シオン:「暗くてよく読めないけど、え〜と……武器庫って書いてあるのかな?」


ノルン:「武器庫なんだここ……でも、風もそんなに入って来ない場所だし、思い鉄の塊が揺れたりしそうにないんだよね……入れるかな」


うっすらと見える獅子の彫られたドアノブを引くと

ギギギと音を出しゆっくりと扉が開く。

開いていることに疑念(ぎねん)を感じつつも中へと入る二人。


窓はなく、光から完全に閉ざされた空間に二人は息を飲む。


ノルン:「よく見えない……暗くて埃(ほこり)っぽい」


シオン:「灯りつけたいけどそんな事出来ないもんね、ノルン手繋ご?」


ノルン:「そうだね、お互い離れないように……」


シオンが手を伸ばしノルンの手を掴む。

が……


シオン:「ノルン……手冷たいけど、大丈夫?」


ノルンは不思議に思う。

ー?何言ってるのシオンー

そう返すノルンにシオンは冷や汗をかく。


シオン:「ノルン……手握ってるのわかる?……よね?」


ノルン:「……シオン……私、両手とも何にも触れてないよ……?」


シオン:「え……」


次の瞬間二人の間から幼い声がする。


エイル:「眠れ……」


ノルンーシオン:ー!?ー


何も見えない視界が更に闇へと変わり、二人は意識を失った……。


【重なる試練】へ続く……。

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