番外編〜ある日の依頼〜【一】
デイン達の捜索依頼から少し経ったある日……。
シエル:「はぁ〜〜ぁぁぁ…眠た〜い…。」
ロキシルとの打ち合いが続いて疲れていた体を無理やり起こし、依頼がないかギルドへと顔を出した。
受付にはまぁ朝からなんと美しいイナンちゃんがいるではないか!と心躍らせ癒しを目に焼き付ける。
イナン:「あ!シエルさんおはようございます!今日も素晴らしい晴れ空ですよ、ぜひお外に出てみてわ?」
優しい声色が耳にいい事この上なく、ずっと聞いていたいくらいだと心内にわがままをはく。
シエル:「アハハ…一応毎日外は出てるんだ〜、もう体ボロボロだよ〜…。」
イナン:「鍛えるのはとてもいい事なので否定はしませんが、シエルさんのそのお体は一つだけなんです、大切にしてくださいね?」
シエル:ーあぁ…なんて優しいんだこの子は!!天使だ!この子本当に天使なのでは!?ー
と頭が勝手に興奮するが口に出しては言えないと必死に口を閉じる。
イナンちゃんに言われたので外の空気でも吸おうかと階段に向かうと急になにか思い出したのかイナンちゃんが声を荒らげた。
イナン:「ぁあ!シエルさん!少し待ってください!」
シエル:「ん?どうしたのそんな慌てて、なにかあった?」
依頼書の入った棚をガサゴソと探し始め、探し物を見つけたのか嬉しそうな顔で俺に手招きした。
シエル:「んん〜?なんだこの依頼は…」
イナン:「二日前のことなんですけど…」
二日前・・・・
イナン:ー私はいつも通り受付で依頼に来られる方のお相手をしてたんです。ー
???:「んん〜……んん…」
どこからともなく声がし、辺りを見渡したがイナンの視線には何も映らなかった。
しかし声はずっと耳にしっかりと聞こえてくる。
???:「んん〜……おね…えちゃぁ〜ん……」
イナン:ーこ…こわいぃぃ!もしかしてゴースト?
それか妖精さん?私旅先で妖精さんに好かれたのかな??ー
???:「あのぉぉ〜…と……とどかないぃぃぃ!」
イナン:「??…とどかない?」
聞こえる声は幼く、もしかしてと受付台の奥を覗いてみると…。
イナン:「あ、小さな子だった……。」
イナンは微笑ましい顔で受付から出て子供の横に目線を合わせて膝を地面につけた。
イナン:「君、どうやってここに?迷子になっちゃったのかな?」
???:「ち…ちがうよ…ぼくまいごなんかじゃないよ?」
イナン:ーキャァ〜かわいぃぃぃ!!私もこんな時があったんだなぁ〜ー
小さな男の子が可愛いからか無意識に頭を撫でてしまっていた。
すると男の子は頬をむす〜っと膨らませイナンに強い視線をおくってくる。
???:「おねぇちゃんきいてるの?それにぼくちゃんとなまえがあるんだよ?」
イナン:「あ…!ごめんね!えへへつい、お名前教えてくれる?」
ペトル:「ペトル…ペトルだよ、おねがいがあってここにきたの」
イナン:「ペトルくんか!素敵な名前だね!じゃあその素敵なお名前を付けてくれたお父さんかお母さんはどこかな?」
イナンが男の子にそう問うと男の子はまた頬を膨らませた。
イナン:ーあ…あれ〜?なんか怒ってる…でも怒ってる顔もかわいぃぃ〜…ー
ペトル:「マンマとパッパにはいってない、だからおねがいにきたの」
イナン:ーん〜困ったな…どうしよ、お父さん今忙しいだろうし…ん〜、というか酒場から来てるんだよね?お父さん気づかなかったのかな?ー
イナン:「えっと、ここはペトルくんが来ていい場所じゃなくてね?おっきくなったら来ていいところなんだよ?だからお家に帰れるかな?」
ペトル:「おねぇちゃんだってこどもでしょ?パッパやマンマみたいにおおきくないもん。」
イナン:「うぅ…そんな事ないもん!おねぇちゃんだってもう大人ですぅ〜!」
イナン:ー子供にむきになっちゃった…私のばか…ー
ペトル:「でもおねえちゃんマンマみたいにここおおきくないよ?」
ペトルがそう言いながら指さしたのはイナンの胸だった。
その事にイナンは顔を真っ赤にするが悔しい気持ちを飲み込み、ここは大人として我慢する事にした。
イナン:ーむ〜!私だってそのうち大きくなるもん!!ー
イナン:「ん゛っん…ペトルくんはどうやってここまで来たの?」
ペトル:「しらないおじさんがここにくればおねがいかなえてくれるっておしえてくれたの、だからきたの」
イナン:「えぇ、そのおじさん誰か知らないけどこんな危ない場所教えるなんて…ペトルくんのお願いってどんなお願いなの?」
イナン:ーさすがにこんな小さい子が暗殺とかの依頼もってこないよね…まさかね…ー
場所が場所だけに嫌な考えをしてしまうイナンだったがそんな危ない依頼がされる訳もなく、イナンはペトルのお願いが書かれた紙を見て少し驚く。
イナン:「マンマとパッパのおねつをなおしたいからおくすりをとってきたい…きたい?!」
ペトル:「マンマとパッパ…ずっとくるしそうなの、えほんにかいてあったの、おくすりでげんきになるって!…だからぼくがおくすりつくれるやくそう?とってくるおてつだいしてほしいの…。」
イナンは困ってしまい無言になってしまったがそもそもこんな小さな子供が魔物だらけの国の外を出して貰えるわけがなくあまりにも難しい事だとやはり断るべきだと思った。
イナン:「えっとね…ペトルくん、助けたいのはお姉ちゃんもなんだけど…やっぱり危ないから…あれ??」
イナンがペトルのお願いを断ろうとすると突然背後からペトルの紙を取る手が見え、そのまま上に視線を向けるとそこにはロキシルが立っていた。
ロキシル:「おお?こんなとこでなんのごっこ遊びだ?こんなとこにちびっこが来るのは初めてだな!ここはあぶねぇぞ?ちびっこ」
ペトル:「ぼくちびっこってなまえじゃないもん!ペトルってなまえがあるもん!おじさんだれ?」
イナン:「あわわわ、ロキシルさん!ペトルくん、この人はねここで一番えら〜い人なんだよ?怒られちゃうからお家に帰ろ?ね?」
ロキシル:「イナンちゃんちょっと待ってくれ、よおペトル、よく一人でここまで来たじゃないか!怖かったか?」
ロキシルは腰を低くしペトルに視線をあわせ優しく聞いた。
するとペトルは無言で首を横に振る。
ペトル:「ぼく、パッパとマンマを助けるきしになりたいからこわくなかったよ?ぼくもえほんのきしさまみたいにつよくなるから」
ロキシル:「おお〜!そうかそうか!王に仕えし四騎士の物語を読んだのか、よし、ペトルここまで来た事に俺はその勇姿を褒めよう。度胸あるじゃねぇか!」
ペトル:「ゆうし…?どきょうってなに?」
ロキシル:「ペトルが四騎士と同じように強くてかっこいいってこった、その迷いの無い目は嫌いじゃ〜ねぇな」
ペトル:「よくわかんないけど、ぼくつよいよ!!」
ロキシルは優しく微笑みペトルの頭を撫でた。
ロキシル:「イナンちゃん、本当はダメだが何とかしてペトルの依頼を叶えてやろう。恐らくペトルが回ったギルドはここだけじゃなさそうだ。」
イナン:「ええ!?いいんですか?!…それにどうしてここだけじゃないって分かったんですか?」
イナンがそう問うとロキシルは紙を見せつけてきた。
ロキシル:「よく見るんだ、こんなに手汗の後がついて紙がしわだらけになってる。本当に親を助けたくてギルドに助けを求めたんだろう。だがこんな小さな子供の依頼なんざどこも受けはしないだろうな、それに報酬はどうする?ペトルじゃあ、んな大金は払えない、そうだろ?」
イナン:「はい、ロキシルさんの言う通りです。」
イナン:ーこの人は本当にすごい、よく人を見てる、だからこそ誰が何を求めてここに来るのかをよく理解してるんだ…頭上がらないな…私…。ー
ロキシル:「イナンちゃん、うちのモットーはなんだった?」
イナン:「助けを求める声に耳を、救える者に我らの力を…です。」
ロキシル:「うん、そうだな、この小さな声に俺たちが耳を貸さなくてどうするって話だ、他のギルドで出来ない依頼を叶えてやるのがうちの存在理由なんだ。」
イナン:「はい!すいません、もっとちゃんと考えるべきでした…!」
ロキシル:「いやいや!謝らなくても大丈夫だ、イナンちゃんの考えは正しいんだからな!分からないことがあるならいつでも頼ってくれ、そのための俺なんだ。」
ペトル:「ねぇ〜?おねがいは〜?」
ロキシル:「おぉ〜すまんな!アハハ!そうだなぁ〜…あぁ〜!打ってつけの奴がいる、ペトルのお願いを叶えてくれる奴がな!安心しろペトル」
ペトルーイナン:???
ロキシル:「イナンちゃん、君が首を傾げてどうする…アハハハ!イナンちゃん、二日後だ、二日後あの馬鹿は俺との打ち合いがないから一日空いてるだろう、あいつはこんな小さな声を嫌がるはずがねぇ、あいつなら責任もって叶えてくれるだろう、その時に事の説明をしてやってくれ。」
ロキシルが言う馬鹿とはシエルの事だとイナンは察していた、決してイナンがシエルを馬鹿だと思っている訳ではなくいつも馬鹿馬鹿と呼ばれるシエルを見て微笑ましく思っていたからだった。
時は戻り・・・・。
イナン:「そういう事なんです、受けていただけますか?」
シエル:「アハハ!ロキシルはよくわかってるよほんと!俺ならこの依頼断る訳がないってね、面白い!報酬はぼくのお宝か〜!いいね!もちろん受けるよこの依頼、任せて。」
イナン:「シエルさんならそう言ってくれると信じてました!では依頼達成の報告をお待ちしてますね!」
シエル:「うん!じゃあ行ってくるよ、もう考えはあるから試すだけ試してみる!一緒に外の空気いっぱい吸ってくるとするかな!」
イナン:ーほんと、この人を見てると私も自然と笑顔になっちゃう…この人はどんな厳しい事も笑って乗り越えてしまうんだろうな〜…憧れちゃうよシエルさんには…ー
少し頬を赤くしながら階段を上がっていくシエルをイナンは優しく見つめていた…。
番外編〜ある日の依頼【二】へ続く…。
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