第27話 救いの母

「キズ―さん!?」


 炎の壁が消えた先には、どや顔をしたキズ―さんと、その前にスペードさんの所で見た風の魔法人形が剣を構えて立っていた。ついでに、ガキンさんは後ろの方で驚いていた。


「全く。出てくるのが遅いよ。『最強の勇者ヒーロー』は!」


 キズ―さんの言葉に、魔法人形は答える。


 [はん!なにが遅いだ!お前の魔法の扱いがなってないだけだろ!]


 魔法人形の言葉に、キズ―さんは胸の前で腕を組み、文句を言う。


「風の魔法だから、全然固まらないし、あとちょっとで、手遅れかもって、思ったよ。」


 [へ、ピンチで出てくるって、ヒーローらしくていいじゃねぇか。]


 キズ―さんは、魔法人形の言葉に、「ははっ。うぜぇ。」と笑う。


「なぁ、キズ―。そいつはなんだよ。」


 ガキンさんが、彼女にそう聞いた。

 彼女は答える。


「さっきの戦いで、生み出した魔法だよ。とっても強い風の魔法人形だ。」


 キズ―さんの言葉に、ガキンさんは腕組みをしながら言った。


「ふ~ん。しっかし、出てくるの遅すぎやしねぇか?」


 魔法人形もガキンさんの方を睨む。


 [は!ヒーローは遅れてくるものって知らねぇのか?無知なガキめ。]


「なんだとぉ!どんなに強くても、みんな死んじまった後じゃあ、何の意味もねぇんだぞ!あほヒーロー!!」


 2人はにらみ合い、その後、互いを指さしながら、キズ―さんに抗議する。


「[キズ―。俺、こいつ嫌い!!]」


 キズ―さんはそれに笑顔で返す。


「はは。似た者同士。仲がよろしいようで。」


 2人が喧嘩をしていると、私の後ろから彼女の声がした。


「あらあらぁ♡吹っ飛ばされて、帰って来てみれば、アタシの『破霊怒パレード』が消されてるじゃない♡そんな、力を持っている可愛い子ちゃんはだぁれ?♡」


 彼女。ハートさんは、私達の方を見て剣をいじっていた。


「もしかして、そこの魔法人形の仕業かしら?♡風のマナで人形を作るのも驚きだけど、ここまで良いなんて。きっと、これはそこの魔法使い風の子が作ったのかしら?♡」


 ハートさんの言葉に、キズ―さんが返した。


「ええ。そうですよ!なにか、文句ありますか!?」


「いいえ♡むしろ最高♡珍しくアタシの目が曇ってたわね♡それとも、アンタ達のチームはこのぐらいは最低レベルなのかしら♡どちらにしても、楽しめそう♡」


 左手を自分の頬へ添えるハートさんに向かって、魔法人形は風の剣を彼女に向ける。


 [へ。気味のわりぃ女が。俺が成敗してやるから覚悟しな!!]


 その言葉に、ハートさんは左手を自分の口の中に入れ、もう1つの剣を取り出して言う。


「ホホ♡踊る気満々ね♡いいじゃない♡お相手願うわね♡」


 そして、ガキンさんも剣を向けた。


「俺もてめぇを倒す気満々だぜ!口から剣出す、変態めが!」


「ホホホ♡3対1ね♡いいわ♡とっても燃えるシチュエーション♡全力でお相手しないとね♡『火弐刃流カーニバル』♡」


 ハートさんは2つの剣を天に掲げ、口から火を吐いて、剣の刃に火をつける。


「へぇ。面白れぇ。キズ―、見せてやれ。お前の魔法を!」


 ガキンさんがそう言って、剣を斜め下におろす。


「当然。『火炎バーナー』!!」


 キズ―さんがそう言って、彼の剣に手のひらを向けると、彼の剣は一気に燃え出した。


「あら最高♡似た技を使うのね♡でも、それをちゃんと扱えるのかしら♡」


 ハートさんはそう言って、自らの剣をくるくると回し始めた。

 その行為に何の意味があるのか分からなかった。けど、それはガキンさんとキズ―さんの反応を見て知ることになる。


「ううっ。」


 2人は目を細めていた。


「ホホホホホ♡利いてるみたいね♡炎の揺らぎとアタシの剣回しの技術♡それらが合わさって出来る炎の残像が、アンタ達の目に焼き付く。けど、本当の剣が分からないと、すぐに死んじゃうわよ♡」


 ハートさんが物凄い勢いで、2人に向かって走る。


「危ない!! 『魔法の壁トーチカ』!!」


 私が2人の前に行き、すぐに大きな壁を作り、彼女の攻撃を防ぐ。


「あら♡良い反応速度♡これで、踊る気があれば最高なんだけど♡」


 彼女がそんなことを言っている隙に、魔法人形が、彼女の横に付いた。


 [よそ見してると、死ぬぜ?速さじゃ俺だって負けてねぇ!! 『最強勇者の斬撃エアスラッシュ』!!]


 魔法人形が、突風をまとった斬撃を行う。


「確かに速い♡」


 そう言いつつ、ハートさんはいとも簡単にそれを避ける。

 しかし…。


「そんな人形の攻撃に気を逸らされて、本命の攻撃を避けられなくなるなよ!」


 ガキンさんはハートさんの胸を切り裂く。


「あら♡せっかくの洋服が台無しね♡でも、とてもいいわ♡」


 ガキンさんの方を向いて、彼を斬ろうとするハートさん。

 それを逆にやり返そうとするガキンさん。

 と、そこで、彼は彼女の敗れた服を見て、目を背けた。


「どこを見ているのかしら♡」


「危ない!!」


 ハートさんが、ガキンさんに剣を振り下ろす。その瞬間、私は彼を押し飛ばした。


「っ!」


「リチュ姉!!」


 ガキンさんが、私を見て心配そうに叫ぶ。

 彼は無事だったが、私は、ハートさんの剣が当たり、背中から水色の体液を吹きだしていた。

 私はガキンさんの頬を撫でながら言う。


「良かった。ガキンさん、貴方が無事で…。」


 それに対して彼は、泣きそうな顔で私に言った。


「最後みてぇな言葉を吐くなよ!! しっかりしろリチュ姉!!」


 ハートさんが、不敵に笑う。


「ホーホッホ♡アタシの破けた服から見える胸を意識して、目をそらすなんてダメね♡もとより、これはパッドだし♡それに、アタシは男よ♡」


 ハートさんのその言葉に、私達は驚く。


「じゃあ、なんで女装なんか…。」


 キズ―さんの言葉にハートさんは答える。


「なんでって、決まってるじゃない♡その方が楽しいからよ♡

 アタシの全ては楽しいかどうか♡悪魔は不死身だから、千年以上も生きてるの♡でも、そのほとんどが、人を殺してその絶望を餌にするだけ♡

 そんなの、五百年で飽きたわ♡それから、アタシはただただ楽しいことだけをしている♡

 男なのに、女性の恰好をしてみたり♡人を殺さなきゃ狂っちまう悪魔なのに、可愛い子、つまり強い子しか狙わなかったり♡純正悪魔が嫌う、人から悪魔になった彼らと付き合ってみたり♡」


 ハートさんはその話を終えた後、私達の方を見る。


「だから、興が冷めるアンタ達には、お先に退場してもらうわね♡」


 ハートさんは、今にも私達に襲ってきそうだった。

 その瞬間、大きな鳥の鳴き声が聞こえた。



「なんだ!?」


 ガキンさんがそう言う。

 ハートさんを含む私達は、声のする空を見上げる。

 そこには、3匹のナイトバード。チュンチュさん、ウィングさん、ヘッドさんが空を飛んでいた。

 ヘッドさんが、ハートさんに向かって突撃する。

 彼女…。じゃなかった、彼はそれを、いとも簡単に避ける。


「あら♡積極的なナイトバードなんて珍しいわね♡」


 ハートさんが、ヘッドさんに剣を向けた。

 その時、どこからともなく声が聞こえた。


「『ナイトバード共が騒いでおるから、何事かと思って来てみたが。お主ら、喧嘩でもしとるのか?』」

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