第5話 一人ぼっちのお姫様

 私、神田橋小鳥かんだばしことりは遂に舞波まいはの追跡を振り払い、放課後の街へと躍り出た。


 つまらない毎日に嫌気がさした私は今日、生まれて初めてお父様との約束を破った。


 高校生になったら何かが変わると思ってた。

 でも、現実はそうじゃなかった。


 私の周りの人々は口々に私に対しての羨望を述べる。


“綺麗でいいね”

“勉強できていいね”

“実家がお金持ちでいいね”

“なんでもできていいね”


 皆んな私のことを上に見て誰も私の気持ちを理解しようとしてくれない!

 誰も私のことを対等な存在として扱ってくれない!

 誰も私の努力を認めようとしてくれない!


 舞波だって私のことを仕える主人ぐらいにしか考えてくれない!


 私は………



 特に目的もなく街に出た私はとりあえず、あたりを散策してみることにした。


 いつもは危ないからと出歩くことを許されず、学校の窓から眺めることしかできないこの街に単純に興味があった。


 眺めてばかりいたこの街を実際に歩くのは変な感覚で、いろいろなところを歩き回った。


 “公園”というところに初めて行ったし、“コンビニ”という話でしか聞いたことがなかったところにも行ってみた。


 そして、無我夢中で歩いていると自分のいる場所がどこか分からなくなってしまった。


 どうすれば良いか分からず困っていたところに突然、全身黒ずくめの服に身を包んだ細身の男が話しかけてきた。


「ねえ、お嬢ちゃん今暇?」


 私は助かったと思い、安堵しながら口を開いた。


「すいませんが高校への道を教えてもらってもよろしいでしょうか?恥ずかしながら、道に迷ってしまっていて……」


「そんなことよりお嬢ちゃん。この後俺と一緒に遊ぼうよ」


「いえ、それよりも学校への道を……」


「まあまあ、そんなこと言わずに」


 男は突然私の腕を握ると、私のことを引っ張り始めた。


「……っ!ちょっと、やめてください」


 普段なら武道を学んだことのある私がこんな貧弱そうな男に負けるはずがないが、恐怖で身がすくんでしまい、体が思ったように動かなかった。


(こんなことなら、お父様との約束を破るんじゃなかった。誰か助けて!!!)


 恐怖と動揺で声にならない叫びをあげ、祈ることしかできない自分を恨み、もう何もかもを諦めようとしていたその時、後ろから誰かが走ってくる足音が聞こえた。


「待て」


 後ろから走ってきた誰かは、私の腕を握る男の腕を握ると、そのまま私を庇うようにして、私と男の間に割り込んできた。


 その背中はまるで、窮地の姫を助けに来てくれた王子様のようだった。

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