第17話
「そうそう、慌てなくて良いからね。慣れるまではフライ返しを使ってひっくり返していけばきれいな形になるから」
「うっうん、だっ大丈夫私だって出来るんだから。んーえいっやっやった出来た出来たよ!ほら見てみて普通の卵焼き出来たよ」
英梨さんが見たことのないテンションで飛び跳ねてる。あっフライパンとか熱いから危ないよ〜
こちらが心配な目で見ているのに気づいたのか、飛び跳ねるのをやめてコホンとわざとらしく1回咳払いをすると卵焼きを皿に移してゆいちゃんの元に持っていく。
「ねーゆい、どうかな?ちゃんと黄色い卵焼き出来たよ。前は失敗しちゃったけど今回は自信あるから食べてくれたら嬉しいな」
「お姉ちゃんがんばったね。まさか本当にお姉ちゃんからこんな普通な卵焼きをもらう日が来るなんて」
「英梨さんは、ちゃんと料理出来ていたよ。ちょっと緊張しているからか動きは固かったけど一生懸命丁寧に作っていたから食べてあげて欲しいな」
「お姉ちゃんが頑張ってるのは見てたから分かるよ。卵焼きだってちゃんと食べるから安心してよ」
ゆいちゃんは箸を手に取り卵焼きにゆっくり箸を入れていき一口大に分けると、口にゆっくり運んでいき味わいながら食べていく。
半分ほど食べると、箸を置いて英梨さんの方を見つめ一瞬周りに緊張が走る。
「……お姉ちゃん、この卵焼き……美味しいよ」
今日一番の笑顔で英梨さんに向って最高の褒め言葉をくれる。料理を作る側にとって美味しいと言われるのは本当に嬉しいものだ。手伝いをしただけの俺もその言葉に嬉しさが込み上げてきた。
「はーよかったよ〜ゆいが、変な空気を作るからドキドキが止まらなかったよー」
「さて、卵焼きだけじゃ物足りないだろうし、料理成功のお祝いに俺も料理作ろうと思うけどいいかな?」
「えっ敬斗さんが料理作ってくれるの?教えて貰うだけでも申し訳ないのに」
「いいんだって、それなら卵焼きを頑張って作ったご褒美ってことで。それで作ろうと思ってるのはオムライスとこの前即席で作ったスープじゃなくてしっかり1から作ったスープを持ってきてるんだ」
「ケー兄オムライス作ってくれるの?ねーねーあれできる?あのあの切ったらトロトロの卵が周りを包むやつ」
「半熟オムレツを開くやつだね、ゆいちゃんが希望ならゆいちゃんにはそれを作ってあげるね。英梨さんは希望ある?」
「わっ私はシンプルなやつでいいよ、敬斗さんにお任せします」
「わかりました。ではお客様少々お待ち下さい、すぐ作ってまいりますので」
敬斗さんはキッチンに戻ると腕を捲り上げ、先ほどとは違う空気を出していた。
「ねーお姉ちゃん、さっきケー兄がこの前のスープって言ってたけどもしかしてお姉ちゃんがまた飲みたいなって言ってたスープのこと?」
「そういえば敬斗さん1からって言ってたけど、それってこの前のが即席であの美味しさってことだよね。ねーゆいこんなこと言うの正直自分で言ってあれなんだけど、さっきのお姉ちゃんの卵焼きは忘れて、じゃないと敬斗さんの料理食べた時大変なことになっちゃうからお願い」
「たっ大変なことになるなんて大げさな、だってただの料理だよ。それにお姉ちゃんの卵焼き本当に美味しかったよ」
「ゆいがそう言ってくれるのは本当に嬉しいの、でもね唯斗さんの料理は違うの、スープだけでまた飲みたいと思わせてしまうほどなの」
「お姉ちゃんがそこまで言うなら楽しみにしておこうかな」
「お待たせ、とりあえずスープをどうぞ。今回はオニオンスープにしてみたよ。ただベースには色々使ったから後は飲んでみてからだね、オムライスもすぐ作るから」
はー敬斗さんのスープだ、あの時は優しいスープで心が温まるような味だったけど今回はどうなんだろ。
これがお姉ちゃんが飲みたがっていたスープ、一体どんなスープなんだろう?でも普通のオニオンスープでしょ?お姉ちゃんがあそこまでいうほどなのかな?
ゴクッと一口飲み込む、そして喉を通りその温かさと味を感じた瞬間姉妹で見つめあう。無言でまたスープを手に取りお互い無言でゆっくり味わいながらまたたく間に飲み干してしまう。
スープを飲み干し唇はスープに浮かんでいた油でテカリを出すがそれすら手で拭いペロッと舐めてしまう。
「お姉ちゃん、ごめんなさい。このスープ飲んじゃったらまた飲みたくなってしまうの仕方ないよね。なんだろ、言葉じゃ表せないけどヤバいね」
「うん、ヤバいね、前は心を優しく温めるようなスープだったけど、今回のスープはなんていうか虜にして離さないようなそんな」
「スープでこれだと料理はどうなっちゃうんだろ?お姉ちゃん私ケー兄になら餌付けされてもいいかもってちょっと考えちゃった」
「ゆいダメだって、心を強くもって、餌付けなんて唯斗さんはそんな気持ちで作ってるんじゃないんだから」
だって~って駄々をこねるゆいを止めているとキッチンから唯斗さんがオムライスを持ってくる。
「お待たせ、まずはゆいちゃん希望のオムライスからどうぞ。今から卵を切るからよく見ててね」
そう言うと持っていたナイフで卵を真ん中から切っていくとトロトロの卵が開いて赤く色づいたチキンライスを黄身の海で包んでいく。
「うわ〜本当にお店で見るやつだー、凄い凄いケー兄プロみたい。スープも激ウマだったし、もうケー兄の料理なしじゃ生きていけないかも」
「そんなことないよ、何度も練習したからできるだけでゆいちゃんも頑張れば出来るようになるよ」
「ゆいでもケー兄みたいに出来るようになるかな?今度お姉ちゃんじゃなくてゆいにも料理教えてね、約束だよ」
「そうだね、今度はゆいちゃんと料理しようか、はい約束」
ケー兄が小指を私の前に出してくる、一瞬なんだろうと思ったけどすぐわかった。私も小指を出して小指同士で握りあってウソ付いたらずっと料理してもらう指切ったと勝手に私から決めてしまう。
「ずっとかー、まーそれでも別にいいけどウソはつかないように気をつけるね」
ケー兄が優しい笑顔で私の頭を撫でてくる。ずるい、ケー兄のこの甘さは料理もだけど私を甘やかしてダメにしてくる。
「次は英梨さんの作るからもう少し待ってくれるかな、スープおかわりあるからよかったら入れようか?」
私とゆいは空になってしまったカップをもって敬斗さんと一緒にキッチンに向かいおかわりのスープを入れてもらう。
スープを再び味わいながらオムライスが来るのを待つ私と黙ってモクモクとオムライスを小さな口でほうばりながらスープで流し込むゆいにオムライスを少し分けてもらおうとするが、いやっと意志表示を思い切りするゆいにショックを覚える。しかも、食べ進めていくうちに目が♡になっていくのを感じる。
「はい、お待たせしました。こちらオムライスになります、ごゆっくりお食べください」と逃げるように置いていく敬斗さんだった。なんだろうと敬斗さんを見ているとゆいがゴフッと噴き出した。
「もう落ち着いて食べなきゃダメだ……よ、料理はに…げな」と私の言葉が止まってしまう。なぜなら、敬斗さんが持ってきたオムライスにはケチャップを使いカタカナでエリと書いて周りを♡で囲んでいたのだ。
それに気づいた私は敬斗さんの方を見るが問い詰めることも出来ず大人しく作ってもらったオムライスを食べるのであった。その時の味は、恥ずかしくてよくわからなかったが美味しかったことだけは覚えている。
ここまで読んでくれてありがとうございます。もしこの作品を面白い、続きが気になると少しでも思われたらいいね、フォロー、☆などをいただけたら執筆のモチベーションになります。応援コメントなどもいただけたら必ずお返事しますのでこれからもお願いします
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