第19話:終息
宗景は地面に崩れ落ち、血にまみれた顔で俺を見上げていた。その目には怒りと屈辱が渦巻いているが、同時に恐怖も滲んでいる。
「……まだ、終わったわけではない……」
宗景は震える手を伸ばし、再び異能の力を集めようとする。しかし、その力が消えかけているのは明らかだった。
「いや、終わりだ」
俺は一歩踏み出し、宗景の手元を軽く踏みつけた。彼は苦痛の声を漏らすが、抵抗する力も残っていない。
「これ以上続ける意味はないだろう。負けを認めてさっさと諦めろ」
俺は低く静かな声で告げる。それでも宗景はその言葉を認めず、歯を食いしばって立ち上がろうとした。
「くっ……異能を持たぬ者に、この私が敗れるなど……認められるわけが……」
「異能が何だってんだよ」
俺は彼の言葉を遮るように言い放つ。
「お前の異能がどれだけ凄いのか身を以って体験したが、それに頼り切ってる時点で限界があるんだよ。自分で変えようとするのは正しいと思うよ。でもな、無関係の者たちを巻き込んで変えようとするのは違うだろ。昔は怖がられたかもしれない。でも、今は違うだろ」
宗景は言葉を返さなかった。ただ静かに、仰向けになり都会の夜空を見上げていた。
空には煌々と丸い月が浮かんでいた。
宗景は苦しげに目を閉じた。その顔には敗北を認めざるを得ない屈辱の色が浮かんでいる
「……だが、私にはまだ……」
「まだ諦めないか」
俺は軽くため息をつくと、彼の目を見据えた。
「いい加減、休め。これ以上無駄にあがいても何も変わらないぞ。また俺が叩き潰すだけだ」
しばらくの沈黙の後、宗景は深く息を吐いた。
「……分かった。私の負けだ」
その言葉とともに、彼の体から力が抜け、再び地面に膝をついた。
寧々が歩いて俺の横に立った。
「寧々、私たちは間違っていたのか……」
「かもしれんのう……昔、民の笑顔と未来に生きる姿を見た黄泉のみんなで誓ったではないか。この笑顔を守るために戦うと」
寧々の言葉に宗景は目を大きく見開き、そして笑った。
「はっ、そうだったな。いつの間にか堕ちていたのだな」
「今更じゃよ。かつて、妾たちが追い求めた理想を、再び追い求めようではないか。「秩序のない世界に安定をもたらす」とかではなく、民の未来と笑顔を守るという理想を」
「そう、だな……」
ゆっくりと目を閉じる宗景だが、このままでは死んでしまう。ちょっとやり過ぎたのかもしれない。
程なくして誰かが連絡したのだろう。対策室や関係者が集まり始めた。そこには霧島さんや室長の風間さんの姿もあった。
朝比奈さんや霧島さんが駆け寄ってくる。
「先輩、ご無事ですか!」
「黒崎くん、大丈夫!」
「この通りね。早く夜天衆の頭領を治療しないと死んじゃいますよ」
「え? あ、そうですね。医療班、夜天衆の長を早急に治療してください」
医療班が駆けつけ、すぐに治療が開始される。程なくして彼は担架で運ばれていった。
「彼は回復次第、取り調べを行います。彼女ですが……」
そう言って視線は寧々へと向けられる。
「妾は逃げもせんよ。取り調べをするなら従うとしよう」
「そうですか。では、ご同行願います。黒崎くんは……」
そこに俺のスマホが鳴り響き、電話がかかってくる。画面を見ると妹の美羽からのようだ。
見ると何百と通知が溜まっていた。
あ、連絡するのすっかり忘れてた……
恐る恐る電話に出ると。
『繋がった! お兄ちゃん、今どこにいるの⁉』
「美羽、俺も非難してるから大丈夫だよ」
『なら電話くらいしてよ! 私、心配したんだよ!』
「ごめんて。こっちも色々あって電話できなかったんだ。とにかく俺は無事だから。避難してるけど、数日後には戻れるそうだ。父さんと母さんも大丈夫?」
『わかった。帰って来る時になったら連絡してよね。二人とも大丈夫だったよ。お兄ちゃんのことを聞くと「あの子は大丈夫」って言うし……』
二人とも俺なら大丈夫だと思っているのは当然だ。
俺の異常性を美羽だけが知らないんだから。
「とにかくそろそろ切るからな」
『うん。無事ならいいけど』
「また後でな」
そう言って通話を切ると、朝比奈が俺に聞いて来る。
「妹さんは黒崎先輩の異常性を知らないんですね」
「言ったところでだろ」
反抗期なのか最近はツンツンしていてお兄ちゃんは寂しいよ。
戦闘を行っていた異能者たちと共に、俺たちも対策室に帰投することになった。
寧々は対策室預かりとなり、監視されながらの生活となった。その監視者が、どういうわけか俺だ。
数日なら対策室に泊まる予定なので、その間だけだ。
あれから数日が経過し、異能者の力と隠蔽作業のお陰で街はほんとが修復されていた。
被害の大きかった場所は、自然による被害と建物の老朽化などが原因でと報道されていた。
お偉いさんは忙しいね。
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