第27話 作戦会議

 ダルヴィス連邦の隠れた拠点。その中心で、颯太、レオン、ミレイア、ガルスが集まり、迫る王国軍への対策を練っていた。


 木造の簡素な机には地図が広げられ、赤い印が王国軍の進行ルートを示している。レオンが腕を組みながら険しい表情を浮かべた。


「王国軍の進行速度は予想以上だ。奴らは奴隷狩りを兼ねて村を焼き払いながら進んでいる。放っておけばこの拠点にも到達するのは時間の問題だ」


 ミレイアが隣でため息をついた。

「正面からの戦いでは勝ち目はないわ。こちらの戦力は圧倒的に劣っているもの」


 颯太は地図を見つめながら、静かに口を開いた。

「……ゲリラ戦に切り替えるしかない。奴らの物資を断ち、じわじわと戦力を削る作戦を考えよう」


 ガルスが目を細めながら呟く。

「だが、それで十分な成果を上げられるのか? 王国の連中は恐ろしい魔法を使ってくるんだ。雷で拠点を焼き払い、氷で道を封じる……まるで天災そのものだぞ」


「十分でなくても、やらなければならない」

 颯太は拳を握りしめながら言った。その目には冷たい怒りが宿っていた。



「それで、具体的にはどうするつもりなんだ?」

 レオンが疑問を投げかけると、颯太は地図上の補給地点を指さした。


「放棄する拠点に食料を意図的に残し、そこに呪いを仕込む。使うのは、僕のいた世界で『ノロウイルス』と呼ばれる症状だ」


「ノロウイルス?」

 ミレイアが眉をひそめる。颯太は頷きながら説明を続けた。


「感染すると、激しい嘔吐と下痢が止まらなくなる。体中の水分が一気に失われ、ひどい場合は命を落とすこともある。治療には水分補給が必須だが、即座に対応できなければ戦闘どころじゃなくなる」


 ガルスが険しい表情で尋ねた。

「そんな症状を食料に仕込むのか?」


「そうだ。兵士たちが消費する食料や飲料を汚染すれば、彼らの戦闘能力は一気に落ちる。物資の不足だけでなく、呪いの噂も広まり、心理的なプレッシャーを与えられるはずだ」


 ミレイアが少し顔を曇らせた。

「でも、それを市民や捕虜が誤って使ったら……?」


 颯太はしばらく沈黙した後、低い声で答えた。

「それは避けたい……でも、今は犠牲を最小限に抑える手段を選ぶしかない。もしこれで王国の進行を遅らせられるなら、多くの命を救うことにつながるはずだ」



「それだけじゃない」

 颯太は地図を指しながら言葉を続けた。

「数で圧倒されているこちらが勝つためには、機動力を活かした戦いが必要だ。ゲリラ戦は正面からの戦いを避け、迅速に敵を攪乱するのが目的だ」


 レオンが力強く頷く。

「その点では、獣人たちの能力が大いに役立つ。身体能力の高さを活かせば、森林地帯や山岳地帯で王国軍を翻弄できる」


「具体的にはどうするんだ?」

 ガルスが尋ねると、颯太は冷静に答えた。


「まずは、森の中に小規模な拠点を分散させる。それぞれが独立して機能し、王国軍にとって明確な標的をなくすんだ。そして、獣人たちには高所からの急襲や、敵の足場を崩す罠の設置を任せる」


「罠か……いい案だな」

 ガルスが笑みを浮かべた。

「俺が地下トンネルを作るついでに、罠用の仕掛けも準備しよう。金属を使えば、一発で王国兵を無力化できるものが作れる」


 ミレイアが提案を加える。

「植物を操って罠を隠したり、敵を誘導することもできるわ。私の能力を使えば、森全体を迷宮のように変えられるかもしれない」


 レオンが目を輝かせながら頷いた。

「それなら、少人数であっても十分に戦える。獣人たちにも希望を持たせられるだろう」



 会議の後、颯太たちは獣人たちに作戦の詳細を説明した。長らく不安を抱えていた兵士たちは、彼らの話を聞いて次第に顔を上げ始めた。


「俺たちの能力で、王国軍を翻弄できるんだな?」

 若い獣人兵士が興奮した様子で声を上げる。


「そうだ。君たちの力は、この戦いの鍵を握る」

 颯太が力強く答えると、周囲から歓声が上がった。


「俺たちだって、ただの獲物じゃない。王国兵を追い返してやる!」

 一人が叫ぶと、それに続くように獣人たちが声を上げ始める。


 その光景を見つめながら、颯太は胸の奥で小さな希望を感じていた。

「これで、本当に守れるだろうか……」


 彼の呟きは誰にも聞かれなかったが、その決意は揺るがなかった。



 作戦が始動しようとしている中、颯太は一人静かに夜空を見上げた。


「僕の選択が間違っていないことを……証明するしかない」


 その言葉が闇の中に消えたとき、戦いの幕は静かに上がり始めた。

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