第24話 拠点の悲劇

 辺り一面に広がる緑豊かな拠点。その静寂が突如として破られた。地平線の彼方から規律正しい軍靴の音が響き、金色の甲冑を身にまとった王国軍が迫ってきていた。その先頭には、異世界から召喚された翔太が立っていた。


「異種族どもに絶望を教えてやる。連邦の誇り? 笑わせるな」


 翔太は手を天に掲げると、青白い雷が彼の周囲に集まり、稲妻が空に走った。その瞬間、拠点全体に緊張感が走る。


「攻撃開始だ。雷天の裁き、《ストーム・ジャッジメント》!」


 翔太が叫ぶと同時に、巨大な落雷が拠点の防壁に直撃。轟音と共に防壁が粉々に崩れ落ち、瓦礫が四方に飛び散った。



「奴らが来たぞ! 全員、防壁の内側に集まれ!」


 拠点のリーダーである獣人グライスが声を張り上げ、住民たちを鼓舞する。彼らは木製の武器や素手で立ち向かう準備を始めた。


「ここで奴らを止めなければ、他の拠点も危険だ。私たちの力を見せる時だ!」


 グライスが咆哮を上げると、その体が一瞬で膨れ上がり、鋭い爪が伸びていく。獣人特有の能力である身体強化を発動し、彼の全身から殺気が放たれる。


「グライス隊長、私たちも続きます!」


 獣人の若者たちが次々に能力を発動し、拠点の正門に向かって突進していく。ある者は爪を伸ばして鋭利な刃物のように使い、またある者は咆哮を上げて音波を放ち、王国兵たちの耳を攻撃する。


 エルフたちもまた、矢をつがえ、正確な狙いで敵を射抜いていった。その矢には魔法的なエネルギーが込められ、命中すると小さな爆発を引き起こす。


「奴らに拠点を渡すな!」


 グライスの激しい攻撃で、王国兵の一部が倒れていく。戦いは一進一退の攻防が続いていた。


 しかし、王国兵たちもまた容赦はしなかった。その中には、氷魔法を操る兵士たちが配置されており、彼らが前線に立つと、周囲の空気が一気に冷たくなった。


「凍てつけ、《フリーズ・バインド》!」


 兵士が叫ぶと、氷の蔦が地面から伸び、獣人たちの動きを封じる。脚を絡め取られた獣人たちは、思うように動けず、王国兵の槍によって次々と倒されていった。


 翔太はその光景を見ながら冷笑を浮かべた。


「ふん、お前たちの反撃など無意味だ。俺の力を思い知れ……これが、雷の力だ!」


 翔太の周囲に雷が収束し、その手には青白い電気が渦巻いていた。彼は高らかに技名を叫びながら、両手を突き出した。


「雷鳴轟く絶対の裁き、《サンダー・カラミティ》!」


 空中に放たれた雷が、数本の巨大な稲妻となり拠点全体を襲う。雷撃は一瞬で拠点の前線に立っていた獣人たちを飲み込み、彼らはその場に崩れ落ちた。


 グライスは必死に立ち上がり、翔太に向かって最後の力を振り翔太に向かって叫んだ。


「お前たちは一体、何を望んでいる……!」


 翔太はその問いに冷たく答えた。


「簡単なことだ。奴隷が欲しい。それに……お前たち異種族を皆殺しにしてやりたいんだよ」


 翔太の言葉に、グライスは激しい怒りを滲ませ、突進する。しかし、翔太は冷酷に笑いながら稲妻を一閃させた。


「何度来ても無駄だ。この世にお前たちの居場所はない」


 グライスの体が雷に貫かれ、無残に地面へと崩れ落ちた。


 住民たちは恐怖に震え、戦意を失っていく。


「お願いだ、見逃してくれ……」


 ある住民が命乞いをしたが、翔太はそれを聞き入れることなく、冷たく言い放った。


「異種族に情けは不要だ」


 さらに、捕らえられたエルフや獣人の女性たちが王国兵によって広場に引きずり出される。王国兵は彼女を縄で縛り付け自由を奪うと、住民たちに向けて高らかに宣言した。


「これが異種族の未来だ。お前たちは全員、俺たちの奴隷になるか、死ぬしかない」


 翔太が女性たちの周囲に雷を放つと、彼女たちは悲鳴を上げて苦しむ。王国兵たちがその欲望をむき出しにして、彼女たちにおそいかかる。


「いや、やめて...助けて」


「助けなんか来ねえよ!お前たちは俺たちの性処理の道具なんだよ!黙って奉仕したらいいんだよ!」


 彼女たちはひたすらに欲望のはけ口にされ、一人また一人と目の輝きは失われる。助けを懇願していた声もいつしか聞こえなくなった。


 その頃、連邦の中心都市では、颯太がミレイアやレオンと共に診療所で治療を進めていた。そんな中、血相を変えた伝令が駆け込んできた。


「急報です! 王国軍が辺境の拠点を襲撃しました!」


 その言葉に、颯太は驚愕し、詳細を聞いた。


「襲撃……? どこの拠点だ? 状況はどうなっている?」


「連邦の第七拠点です。王国軍の指揮官が強力な雷の力を持っており、防壁は破壊され、住民たちが虐殺されています!」


 その報告を受け、レオンが険しい表情で颯太に告げた。


「奴らは明らかに侵略を目的として動いている。ここを次に狙われる前に、奴らを止めるしかない」


 颯太は震える手で拳を握りしめた。救った命――特にティアナのことが頭をよぎり、胸が痛む。


「急がないと、間に合わない……」


 レオンが険しい表情で言葉を続ける。


「奴らを放置すれば、連邦全体が危険だ。すぐに向かうぞ」


 ミレイアも治療道具をまとめ、颯太に頷く。


「私も行くわ。誰も見捨てられない」


 颯太もまた、医師としての使命を果たすべく、急ぎ荷物をまとめ、出発の準備を整えた。


「もう何も失いたくない……救える命があるなら、全力を尽くす。それだけです」


 一方、拠点では最後の抵抗が行われていた。生き残った住民たちが力を振り絞り、武器を手に取って応戦していたが、その数はどんどん減っていく。翔太はその様子を冷酷に見下ろし、嘲笑を浮かべながら部下に命じた。


「いいか、奴らを徹底的に叩きのめせ。奴隷として使えそうな者は捕らえ、抵抗する者は殺せ」


 その指示に従い、王国兵たちは無慈悲に住民たちを追い詰めていった。拠点のリーダー格であったグライスが命を落とした後、住民たちの士気は崩れ、次々と捕らえられていく。


 罵声と王国兵の下品な声が響く中、拠点は完全に制圧された。連邦側の援軍が到着するにはまだ時間がかかる。その間に、翔太と王国兵たちはさらに拠点を蹂躙し続ける。


 王国兵たちは拠点内に生き残りがいないかすみずみまで執拗に追跡を行っており、颯太が命を救った獣人の少女ティアナも村の大人たちと共に隠れるように身を潜めていたが、王国兵の追跡から逃れられなかった。


「ここだ、隠れているぞ!」


 兵士たちが扉を蹴破ると、ティアナと他の住民たちが怯えた様子で縮こまっていた。


「頼む、見逃してくれ……」


 住民の一人が必死に命乞いをするが、兵士たちは嘲笑を浮かべながら剣を振り下ろした。周囲が血に染まる中、ティアナは怯えながらも必死に逃げようとする。しかし、年端もいかない彼女の足は遅く、あっという間に捕らえられてしまった。


「この小娘をどうする?」


 兵士が翔太に尋ねると、彼は面白そうに目を細めた。


「見せしめにする。異種族どもに、俺たちに逆らうとどうなるかを教えてやるんだ」


 翔太はティアナを拠点の広場に連れて行かせると、他の捕虜たちが見守る中で彼女を柱に縛りつけた。周囲には王国兵たちの歓声と住民たちの悲鳴が入り混じる。


「これが、お前たち異種族の末路だ!」


 翔太はそう叫びながら、手に青白い雷を集めた。その雷はティアナの周囲を駆け巡り、彼女の細い体に激しい痛みをもたらす。ティアナは声を振り絞って叫んだが、それでも抵抗しようとする意志を見せていた。


「ティアナ! やめてくれ!」


 捕虜の中から、彼女を知る住民たちが涙ながらに叫ぶが、翔太は冷酷に笑うだけだった。


「お前たちが俺たちに刃向かうからこうなるんだ。文句があるなら、力で止めてみろよ」


 雷の力によってティアナは意識を失い、彼女の体はぐったりと垂れ下がった。その光景に住民たちは絶望し、王国兵たちは勝ち誇ったように高笑いを上げた。


 翔太は破壊された広場に立ちながら、捕虜たちを見渡し、冷酷に命じた。


「生き残った奴は奴隷として売り飛ばせ。抵抗する奴はその場で殺せ」


 住民たちは涙を流しながら命乞いをするが、王国兵たちは嘲笑を浮かべながら従った。広場の中心には、まだ柱に縛られたままのティアナの姿があった。彼女の命が風前の灯火であることを理解しながらも、誰も彼女を救うことはできなかった。


 拠点が壊滅し、翔太と王国軍が次の目標へと動き出す中、颯太たちは荒廃した現場へと向かう。そこには、彼が見たくない現実が待ち受けているのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る