呪医の復讐

第23話 王国の進行 -王国側視点-

 王国の貴族街にある豪華な屋敷。その一室では、翔太が薄暗い部屋の中で喘ぐような息を漏らしていた。豪華な寝室には、黄金の装飾が施されたベッドが置かれ、その上で翔太が不機嫌そうに腕を組んでいた。その視線の先には、動かなくなった若い女性の獣人の姿があった。彼女の特徴的な狼耳と尻尾がだらりと垂れ下がり、その体には無数の青痣と爪痕が残されていた。毛並みの良い灰色の尻尾は乱暴に引き抜かれたように折れ曲がり、彼女の無惨な扱いを物語っている。


「また壊れたか……」

 翔太は苛立ちを隠そうともせず、舌打ちをした。

「だから言っただろう、もっと耐えられる奴をよこせって!」


 彼の言葉には罪悪感のかけらもなく、ただ物が壊れたことを嘆くような響きがあった。翔太にとって、獣人の奴隷は消耗品に過ぎなかった。


 彼は冷めた目で動かない獣人の女性を一瞥すると、軽蔑するように吐き捨てた。

「お前ら、どいつもこいつも脆いな……


 翔太はゆっくりと立ち上がり、周囲を見回した。部屋の豪華な装飾は、彼の地位と権力を象徴しているかのようだった。だが、翔太の心の中には満たされない空虚さが広がっていた。


「どうしてだ……どうして俺は救われなかったのに、異種族たちは救われているんだ……」

 彼は自問自答しながら拳を握り締めた。


 翔太の頭の中には、連邦で颯太が英雄のように評価されているという噂が何度もよぎる。そのたびに彼の中の怒りと憎しみは燃え上がり、自分が見捨てられた過去への執着が彼を支配していた。



 同じ頃、王国の中心部にある壮麗な城では、将軍グレゴリウスと宰相アステリアが、王国の未来を左右する重要な会議を開いていた。部屋の中央には広げられた地図があり、その上には王国と連邦の国境地帯が詳細に描かれていた。


「連邦はますます力をつけている。このままでは我々の優位性が失われかねない」

 アステリアは、冷静だがどこか焦りの色を帯びた声で言った。


「確かにな。奴隷狩りに向ける部隊も、連邦との小競り合いで減っている。我々が何もしなければ、連邦はさらに力を蓄え、いずれ我々に牙を剥くだろう」

 グレゴリウスが鋭い目つきで地図を見つめながら言った。


 グレゴリウスはアステリアに向き直り、計画を持ちかけた。

「だからこそ、今動くべきだ。我々は連邦に対して進軍を開始する。そして、奴隷狩りを兼ねた一斉攻撃を仕掛けるのだ。これで連邦を弱体化させると同時に、必要な労働力を確保できる」


 アステリアはその案に同意し、さらに提案を加えた。

「翔太を派遣しよう。彼の能力は戦力としても有用だ。奴隷狩りにも適任だろう。異界からの勇者という肩書きも使えば、部隊の士気も高まる」


 その意見にグレゴリウスも頷いた。

「それは良い案だな。翔太には少し過激な一面もあるが、連邦への威圧には効果的だろう」


 その会議にリリスも同席していたが、彼女はその計画に強く反対していた。

「将軍殿、それは愚かな行為です! 連邦はただの弱小国家ではありません。彼らを攻めれば、王国にも甚大な被害が及ぶ可能性があります。それに、翔太を戦地に送り出すなど、危険すぎます」


 グレゴリウスはリリスの言葉を冷ややかに聞き流した。

「リリス卿、君は相変わらず慎重すぎる。我々が動かなければ、連邦に先を越されるだけだ。それに、翔太は勇者だ。彼の力を使わずして、どうして王国を守るというのか?」


 リリスはさらに声を荒げて反論した。

「ですが、彼を派遣すれば、連邦との関係はさらに悪化します。それに、翔太の精神状態は不安定です。彼を無理やり送り出すのは、かえって王国に不利益をもたらすかもしれません」


 しかし、アステリアが冷たく言い放った。

「それならば、他にどんな案があると言うのだ? あの男がどれだけ不安定であろうと、我々には力が必要だ。それを理解してもらいたいものだな」


 リリスは唇を噛み締めながらも、これ以上の反論ができなかった。彼女には王国の未来を案じる気持ちがあったが、同時に颯太を追放した自らの決断に対する後悔と、翔太の苦悩を救えないことへの罪悪感があった。



 その後、会議の決定により、翔太が連邦への侵攻部隊の一員として派遣されることが正式に決まった。彼にはその知らせがすぐに届けられたが、翔太はその命令に何の抵抗も示さなかった。むしろ、その命令を楽しむように、不敵な笑みを浮かべた。


「連邦か……ちょうどいい。あの医者がいる場所だろう?」

 翔太はその言葉を呟き、復讐の機会が訪れたことに胸を躍らせていた。彼の中にある怒りと憎しみはさらに燃え上がり、連邦に行くことへの迷いは一切なかった。


「これで俺も、力を証明できる。連邦を破壊し、あの男に俺の怒りを見せてやる」


 翔太の心には、連邦に対する復讐心と、颯太に対する憎悪が渦巻いていた。その歪んだ感情が、王国と連邦の運命を大きく動かそうとしていた。



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 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。もしこの作品を楽しんでいただけたなら、ぜひ評価とコメントをいただけると嬉しいです。今後もさらに面白い物語をお届けできるよう努力してまいりますので、引き続き応援いただければと思います。よろしくお願いいたします。


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