プロローグ 高名な科学者・中谷浩介のミス

第1話 朽ちてしまう世界

 窓からあたる風が肌にあたって冷たく感じた。それは季節だけのせいではなかった。

 その科学者は動揺していた。部下の春太は「顔色が悪いですよ」という前に逃げ出していた。


「嘘だ! そんなはずあるわけない!」科学者・中谷浩介なかたにこうすけは叫んだ。「この実験が失敗すれば、地球は隕石の衝突によって地面が破壊、マグマが浮き上がってくるであろう。エナジードリンクがいいと聞いたことがあるが、私はそれは信じない!」

 

――そんなふうに少し遊ぶ間がある、ということはなんとかできる。


 浩介は自分に言い聞かせた。六十を過ぎた体は動きが鈍くなっていた。もう久しぶりに体を動かしていないから猫背になっていた。変な姿勢になりながら博士は走った。間もなく研究所は爆破されるであろう。これは宇宙が仕掛けた――地球への――時限爆弾だったのだ!

 もうどうすることもできやしない。浩介は泣きわめきながら町を走った。


「みんな! もうすぐこの地球は滅びてしまう! 宇宙マスク用意!」


 メガホンの声が聞こえると、住民は物置から宇宙マスクを取り出した。宇宙マスクとは宇宙服を飛行機の酸素マスクのように軽くしたものだ。現代の技術で実現させた。発明者は、他ならない博士本人である。


(まさか、自分で使うときが来たとはな……)苦笑いしながら、博士は自分用の宇宙マスクをとりだした。

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