melody

水島あおい

プロローグ

第1話

引っ越ししたばかりでまだ名前も知らない駅のホームに小池有羽は立っていた。

「お客様にご案内します。8時05分発湯布院行きは只今事故のため40分遅れております。お急ぎの所申し訳ありませんが今暫くお待ち下さい…… 」

「冗談じゃない!9時から会議なんだぞ!」

「バスで行かなきゃ間に合わない!」

今まで理路整然としていた乗客達がざわつき、あちこちへと移動し始めた。

えっ?何?

何が起こったの?

有羽には今の状況がさっぱり分からなかった。

……有羽は耳が聞こえなかった。


とにかく誰かに聞こうと有羽は鞄の中からボードを取り出した。

どうしたんですか?

今、何が起こったのですか?

私は耳が聞こえません。

状況を教えて下さい。

有羽は足早に行く女性にボードを見せた。

「今、急いでるの!」

女性は苛々したように言うと行ってしまった。

「邪魔なんだよ!」

1人の男がぶつかると、ボードがプラットホームの上に落ちた。

有羽は泣きそうになった。

その時、ボードを拾った男子高校生がいた。

「大変だね」

高校生はボードに湯布院行きが事故で40分遅れると書いた。

「ありがとう」

有羽はボードに書いた。

"学校に遅れるので他の手段はありませんか?"

高校生はボードに書いた。

"バスがあるから一緒に来て"

有羽は高校生について、駅の前に停まっていたバスの前まで行った。

「待っててね」

高校生は入り口からバスに乗ると、運転手に言った。

「あの女の子、耳が聞こえないんだ。

日向高校東で手で教えてあげてよ」

そして高校生はバスから降りた。

そして待っていた有羽の持っていたボードに書いた。

"日向高校東で降りればいいから。運転手さんが手で教えてくれるから"

「じゃあ、俺はこれで!」

高校生はそのまま走って行った。

「あ!」

有羽はお礼も言えなかった。

バスに乗ろうと真ん中に歩き掛けた時、足元にパスケースが落ちていたのが見えた。

有羽が拾い上げるとそれは学生証だった。

さっきの人のだわ!

バスが発車しそうになったので、有羽は慌ててバスに飛び乗った。

そして座席に座ると、学生証を見た。

"南条高校、3年2組、竹内璃生"

とあった。

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