第16話

加藤静に新たな女の影が見えたのは、朱音が静と付き合って僅か2ヶ月後の事だった。朱音がいながら浮気していたのである。

「引っ叩いて別れてしまいなよ」

有紀は怒りで拳を震わせていた。

放課後の教室には有紀と朱音以外誰もいない。

「でも……本命は私だって言うし、静はカッコいいから他の子が付きまとうのも無理ないよ」

朱音は涙を必死に堪えている。

「有紀、よく別れられたね。私は絶対に嫌……!」

「セカンドがいてもいいの⁈」

「嫌だけど……別れるよりマシ」

「朱音!そんなプライドのない事でどうするの?そんなの付け上がるだけだよ!」

有紀は朱音の両腕を掴んで揺すぶった。

「だって!別れたくないんだもん!」

朱音の瞳から涙が次々に零れ落ちた。

「私は彼を愛しているの!有紀はまだそこまで行っていなかったのよ!」

朱音は堪らなくなって叫んだ。

「私だって本気で好きだったわ。好きだからこそ私は別れた。加藤君が朱音を本気で好きになったと思ったから」

朱音とは対照的に有紀は静かな口調である。

「朱音。浮気なんて絶対認めちゃダメ。セカンドなんて冗談じゃない!」

「でも、嫌だって言ったら別れるって言うわ……!」

朱音は机の上に泣き伏した。


「岩崎君なら状況知ってるよね。一体どう言う事なの?」

有紀は静の親友の岩崎哲哉に確認した。

放課後の校舎の裏手には他の人はいない。

「なんかもう飽きた……みたいな事は聞いてる。何でも言いなりでつまらないって」

「それは嫌われたくないからじゃない」

「河瀬留里から告白されて付き合ってるけどそれも遊びっぽい」

「本命は朱音なんでしょう?」

「……どうかな」

「何でそんな事になるの?静はそんな人じゃなかった」

有紀の声が哀しみに震えた。

「本命と別れたからだろう。彼奴は今でもその事を後悔している」

「朱音の他に本命がいたの⁈一体どうなってるのよ!」

有紀は怒りで頭が沸騰していた。

「お前だよ。白藤」

「え?」

「彼奴はお前が本気で好きだった」

哲哉はキッパリと言い切った。

「じゃあ、何故朱音を好きになったの?今になってそんな言葉信じられないよ」

有紀はそのまま駆け出して行った。

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