第6話
「また聞こえてくるな。この歌声」
校舎の裏にいても合唱部の声は聞こえて来る。
その中でも美声の持ち主と言われているのが、白藤有紀だった。
「澄み切った水のような声だよな」
男子も女子も有紀の声に聴き惚れていた。
有紀は帰宅部だったのを、合唱部の部長から勧誘を受けたのだ。
キッカケは部長の妹の誕生日会に有紀が来ていて、誕生日の歌を歌った事だった。
明らかに1人だけ声が澄み切っていた。
「あの子、なんて言う子?ストレートボブの可愛い子」
部長は妹から有紀の事を聞き出した。
そして有紀を合唱部に誘ったのである。
「お疲れ様でしたー!」
有紀は部が終わると一目散に学校を飛び出して走って行く。
そこから5分程行くと保育園がある。
「お姉ちゃんー!」
水色のスモックにチェックの半ズボンを履いた女の子が真っ直ぐに有紀の方に走って来た。
髪をおさげにしていてとても可愛い。
「梨央。いい子にしてた?」
有紀は梨央を抱き上げた。
「うん!」
「お友達とも仲良く遊んだ?」
「うん!」
梨央は可愛い顔の全部で頷いた。
梨央は今、4歳だ。
「じゃあ、先生やお友達にさよならしよう」
有紀は梨央を降ろした。
「じゃあ、梨央ちゃん、また明日ね」
ピンクのエプロン姿の保母さんが梨央に手を振った。
梨央は手を振ると、有紀の所へ戻った。
「今日もありがとうございました」
有紀は保母さんに頭を下げると、梨央と一緒に保育園を出たのである。
家に帰ると父親が帰って来るまでに食事の支度、お風呂の支度を済ませなければならない。
今日は父親は残業なので、梨央にご飯を食べさせて、お風呂に入れて寝かせる。保育園の準備もしなければならない。
母親は2年前に病気で亡くなった。
だから梨央は母親を知らない。
有紀はその時、中学2年生だった。
有紀は梨央が寂しがらないようにと、合唱部を辞めて、出来る限り梨央の側にいたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます